かつて本提言は毎年夏休みの時期には推薦図書を紹介するのが恒例であった。今月は久しぶりに筆者のお薦めの書物を紹介したい。マネジメントの基本、経営者の自伝、古典の3つのジャンルの中から次の8冊をお薦めしたい。 まず、マネジメントの基本図書として次の3冊を選択した。
『エクセレント・カンパニー』は、超優良企業の調査結果を踏まえて優良企業の条件を明確化した名著である。つまり、行動重視、顧客密着、企業家精神などが超優良企業の条件だと説く。事例となった企業の多くはすでに存在しないが、本書で示された条件は今だに説得力を持つ。 『イノベーションのジレンマ』は、世界の大企業の経営トップが熟読している書物である。それも当然で、著者は優良な大企業は「構造的に不治の病」にかかり、新たなイノベーションに対処できないと主張しているからだ。技術革新と世代交代のダイナミズムの本質を豊富な事例とともに理解し、次代に備えるための必読書といえる。 経営者の自伝として、米国と日本の次の2冊をお薦めしたい。
藤沢武夫は本田宗一郎の参謀として実質的にホンダの経営を担ってきた。『経営に終わりはない』は、藤沢の半生と経営理念を語った書物で何度読んでも感動する。名言として知られる「たいまつは自分で持て」をはじめ、随所にマネジメントの本質が語られている名著である。 最後に、経営書以外から古典を3冊選択した。
経済学者シュムペーターの2冊は、経済学を学んだ筆者にとって懐かしい書物でもある。新古典派経済学や、いわゆる現代の正統派経済学のテキストに比べ、資本主義経済の本質に迫る文章には何度読んでも新鮮な発見がある。『経済発展の理論』は起業家精神(企業家ではなく)の重要性を再認識させてくれるし、『資本主義・社会主義・民主主義』は今後の資本主義を考える上で貴重な示唆を与えてくれる(注3)。 以上、筆者の独断と偏見で、あまたの名著、良書を割愛して、8冊に絞ってお薦めした。 ショウペンハウエルいわく、「読書とは他人にものを考えてもらうことである。1日を多読に費す勤勉な人間はしだいに自分でものを考える力を失っていく」(『読書について』岩波文庫)。それゆえ、小泉信三が『読書論』(岩波新書)で述べた「本は批判精神をもって読め」はけだし名言といえる。批判精神をもって上記の中でお好きな書物をお読みいただき、明日のマネジメントを考える上で少しでもヒントになれば幸いである。 注1: ポーターの戦略論はポジショニング学派と呼ばれ、一時はリソース・ベースト・ビュー(RBV)、いわゆる資源学派と対比されて分が悪かった時期もあった.しかしながら、現在ではポーターの戦略論とRBVとは両立するとみるのが一般的だ.筆者も同感である. 注2: ポーターの『競争戦略論』は応用経済学である産業組織論をベースにしている.そのため一般の経営学の書物に比べて分析的であり、ロジックが明快である.私見ではポーターの戦略論が世界で受け入れられたのはこうした点が大きいと思う. 注3: 世界経済が日米欧の3極体制から新興国が台頭する多極体制へ移行する中で、シュムペーターのいう「新結合」の概念は参考になる. |
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