サービス化経済が進展しているといわれて久しい。日本を含む先進諸国のGDPに占める第3次産業、すなわち広義のサービス産業の比率は概ね7割前後であり、就業者構造をみても同様である。製造業などの第2次産業はGDPの3割弱しか貢献していないのが現状だ。この現実をしっかり受け止めることで、未来の戦略が見えてくると思うのである(注1)(注2)。 「サービス化経済」あるいは「経済のサービス化」が進展しているというのは、一般に次のような状況をいう。
サービス化経済が進む主な要因は次のとおりである。
パソコンがこれだけ普及しなければ、マイクロソフトが世界有数の企業に成長することはなかっただろう。パソコンというモノがあってはじめて、OSやMSオフィスなどのソフトを扱う情報サービス業が繁盛する。また、モノが普及すると「モノ」の機能を売買するビジネスや「モノ」に付随するビジネスも発展する。前者はリース業、宅配業、娯楽業などであり、後者はビルメンテナンス業、情報処理請負業、自動車整備業、廃棄物処理業などである。 情報化社会、つまり情報を扱う活動が顕著な社会に移行したことも経済のサービス化を促進した要因だ。90年代半ば以降インターネットや携帯電話を通じた情報量は急速に拡大し、新たなサービスを生み出した。他方、世の中が複雑化し、専門化するに従い、弁護士、会計士、コンサルタント、シンクタンクなどの専門家によるプロフェッショナル・サービスへのニーズが高まってきた。ICT関連情報サービスや専門情報サービスなどが堅調に伸びているのである。 さらに、コモディティ化したモノでは付加価値が生み出せないことから、製造業のサービス化が進む。有名な例は、IBMのシステムコンサルティングへの注力やGEの金融サービスなどがある。 グローバルな競争が激しくなると、企業はコスト競争力を強化するためにコア業務以外をアウトソーシングするようになった。このような企業側の需要と相次いだ規制緩和によって派遣労働者数は1994年以降堅調に拡大し、人材派遣業の市場規模は2000年には約1兆7,000億円に達し、2007年は3兆7,000億円、2010年には約5兆円に達すると予測されている(株式会社インテリジェンスのデータによる)。人材派遣業やノンコア業務の受託サービスなどのサービス業が今後も発展するだろう。 90年代半ば以降「ソリューション」という言葉がよく使われるようになった。ソリューションとは、狭義には「業務上の問題点の解決や要求の実現を行なうための情報システム」(IT用語辞典 e-Wordsより)というようだ。つまり、顧客の要望に応じてハードのみならず、ソフト、サポート要員などをトータルに提供することをいう。しかし、ソリューションが必要なのは情報システムにとどまらないのである。 たとえば、あるパソコンメーカーの直販サイトからノートパソコンを購入したとしよう。顧客が求めるのはパソコンというハードのみではない。顧客はハードとともに、購入前の情報あるいはアドバイス、購入時の便利さ、デリバリーの迅速さと正確さ、セットアップ等へのアドバイス、保守等のアフターサービスなどの要因を加味して評価することになる。モノでは差別化しにくい場合、こうしたモノ以外のサービスが差別化要因となる。もしモノ自体で十分に差別化できていれば、そのようなサービスが優れていれば一層競争優位を確立することになるのである。 コアビジネスがサービスであっても同様である。ホテルの例をみてみよう。ホテルは宿泊機能をメーンとするサービス業である。だが、ホテルは予約システムの利便性、立地等のアクセス、付帯する飲食施設、従業員のサービスなど顧客が利用するすべての観点か評価される。つまり、ホテルは単に宿泊機能のみではなく、こうした機能を含めて価値を提供しているのである。 主に上述した背景からサービス化経済が進行しているが、各企業にとってサービス化の波を自社の戦略にどのように取り入れるべきか。筆者は上述した「ソリューション」に注目したい。ソリューションとはマネジメントの言葉でバリュー・チェーンと言い換えるとわかりやすい。バリュー・チェーンは価値連鎖と呼ばれ、競争力の源泉を評価したうえで各活動の付加価値、コストを算出し、マージンを最大化するための分析ツールである。しかし、バリュー・チェーンを顧客からみた重要度、差別化可能性の観点から今一度見直してみてはどうか。そして「顧客に請求できるサービス」と「顧客に請求できないサービス」に分けて、何が重要かを見極めるべきだ(注4)。 このように経済のサービス化に対応した経営戦略を考える場合、自社のバリュー・チェーンの中でどの「サービス」で競争優位を築くかという視点が大事である。その際、企業の哲学、理念あるいはビジョンが明確になっていることが不可欠だ。第1次産業、第2次産業そして第3次産業のいずれに属する企業にとっても、顧客にチャージできるかどうかを問わずサービスの役割、位置づけを見直し、次代に向けた戦略を再考してほしい。 注1: 本稿の内容は筆者が教えている大学での学部学生及び大学院学生向け講義ノート「サービス経済論」をベースにしている. 注2: 日本標準産業分類では、鉱業、建設業、製造業が第2次産業である. 注3: 上述したとおり、先進諸国は大体第3次産業が3分の2以上を占めている.一方、BRICsやアジアその他の開発途上国は大体50数パーセント前後かそれ以下なので、6割が一つのラインだと考えている.世界各国のサービス経済化のデータは(こちら)を参照.日本はドイツと同様に先進諸国の中ではサービス産業のウエートが低いことがわかる. 注4: Gronroosによる「拡張されたサービス・オファー」はこのような考え方と同様である. C. Gronroos, Service Management and Marketing: Customer Management in Service Competition, 3rd Edition, Wiley, (March, 2007). |
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