☆ 樋口範子の本棚(著作集) ☆

                                                         更新日: 2006年04月17日
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タイトル 発行日・発行所原作者 内  容

ぼくによろしく
2006.04
さ・え・ら書房

(原作者)
ガリラ・
ロンフェルデル・
アミット
 「日記をつけたら、どうかしら?きっとあなたのためになるわ」とシロニー先生に言われ、やむをえず、「わかった。日記を書くよ」と答えたシオン少年。
 シオン少年は、8人兄弟の長男で、パパは刑務所、ママは再婚。引き取ったおばあちゃんもお手上げの悪がきで、とうとうシロニー家の里子になりました。当初は文字の書き取りさえできなかったのが、シロニー先生がつきっきりで勉強をみてくれたおかげで、書き取りがうまくなり、日記を書くのを断われなくなったのでした。
 しかし、書き始めた日記の中で、シオン少年は、もう一人の自分に出会います。上流階級?のシロニー家での生活、一時休暇で戻った町で、昔の悪がき友だちとの間に生じるすきま風、家出をしたときに海岸で出会った少女バティアとの淡い恋など、ついつい物語りに吸い込まれてしまうようでした。
 また、シロニー先生とシオン少年のそれぞれの考え方が、少年の目を通して実に生き生きと描かれています。その描写に、わたし自身何度がはっとさせられました。



シュクラーン   
   ぼくの友だち
2005.12 
すずき出版


(原作者)
 ドリット・     オルガット


 ユダヤ人少年ガブリエルは、家族とともにアルゼンチンからイスラエルへ移民してきた。イスラエルは家族にとって安住となるべき国でしたが、彼は同じ団地に住む子どもたちから仲間はずれにされていました。
 あるとき、ガブリエルはアラブ人少年ハミッドに偶然出会いました。彼は学校に通うことをあきらめ、遠いガリラヤ地方から来て、働いていました。ユダヤ人とアラブ人は同じ土地に住みながら、仲良くなることは許されていません。しかし、二人の少年の間には、民族をこえた友情の絆が結ばれました。
 この二人の友情が、ハミッドの兄と友人が計画した「テロ」を未然に防ぐことになりました。作者は、「二人の絆の強さが「テロ」を未然に防ぎ、民族の違いを克服し、和平に進むことも夢ではない」と伝えようとしています。
 友だちのほんとうの絆、友情とはいったいなんなのか、家族の中で語り合うきっかけになればと思います。


コルドバをあとにして
2005.02 
さ・え・ら書房


(原作者)
 ドリット・     オルガット


 17世紀にスペインのコルドバに住んでいた13歳のユダヤ人少年カルロスが、カトリック教会の異端審問の嵐が吹き荒れる中を懸命に生きたお話です。
 異端審問(宗教裁判)で父は殺され、母は投獄されてしまいます。その中で弟を黒死病で失い、父方の叔父家族と一緒にコルドバを逃れ、船でアムステルダムに向かいます。
 母を必ず救出すると誓ったカルロス少年は、男気あふれる船長、船の中で知り合った友人、カルロスに画才を見出したフランス人画商、そして年老いた召使など、たくさんの人々に支えられながら、数奇な運命を切り開いていきます。
 日本人にとって、ユダヤの世界はなかなか理解できないものですが、17世紀のスペインにおけるユダヤ人とそれに対する凄惨な迫害が、日本人にもわかりやすく書かれていると思います。



もうひとりの息子
2003.03 
さ・え・ら書房

(原作者)
 ドリット・     オルガット


 イスラエルには、1947年の国連総会での「パレスチナ分割案」可決にもかかわらず、ユダヤ人と同じようにここをふるさとと主張するアラブ人が住んでいます。1948年にイスラエルが建国されたおり、この地にとどまってイスラエルの市民権を得ることを選択した人たちも多くいました。
 この物語の主人公ハミッドもその一人で、彼の家族も故郷を離れませんでした。地域医療に尽くそうとアラブ村を飛び出した医学生ハミッドが、不動産屋の紹介で、ひとり息子を戦死で失くし、心を閉ざしたユダヤ人家主の老女ミリアと出会います。
 運命のいたずらは、二人を思わぬ共同生活へと導きますが、民族問題が二人の間を襲ってきます。作者は物語を通して、「異文化に暮らす人との間に橋をかけられるのか」と問いかけています。これはわれわれ日本人の問題でもあると思います。



六号病室のなかまたち
2001.10 
さ・え・ら書房

(原作者)
 ダニエラ・     カルミ
 この本はイスラエルで左派労働党のラビン首相が、不幸にもイスラエル人右派の青年に暗殺された1995年頃に書かれたものです。これによってイスラエル、パレスチナの平和への道が閉ざされてしまい、現在も和解には達していません。
 弟をイスラエル兵に殺された少年サミールは、パレスチナ・アラブ人のひとりとして、生まれたときからイスラエルへの憎悪と敵対心の中で育てられてきました。
 ひざの手術を受けるためイスラエルの病院に入ったサミールは、不安と孤独で押しつぶされるような病院生活を過ごしますが、同じ病室のイスラエルの子供たちと少しずつ言葉をかわしていく中で、サミールの心は徐々に開いていきます。
 パレスチナ・アラブ人サミールとイスラエル人ヨナタンの友情を心わくわくとしながら読むことができます。



今日はびっくり   
   ハンバーガー
2003.10 
偕成社

(編者)
日本児童
文学者協会
 この本は、シリーズ「ごちそう大集合」の第5巻です。樋口さんはこの中の「ぼくたちみんな小麦の子」を書いております。以下、編集委員会の文章です。
 この本を読むときっとおなかがすきます。だからおなかがすいているときには読まないほうがいいでしょう。 ますますおなかがすいて、グウグウ鳴り出すと困りますからね。
 この本には、ごちそうや食べ物の話ばかりをそろえました。みなさんに読んでほしい「おいしい話」がもりだくさんです。
 食べ物は元気のもと。ぜんぶ読んで、心もからだも元気いっぱいにしてください。


   

キブツ その素顔
1993.3
ミルトス社

(原作者)
 アミア・        リブリッヒ
 キブツとは、イスラエルで営まれている「共同農村」であり、20世紀の初頭に、ユダヤの青年たちが社会主義の理想をもって、「理想郷」を建設しようとした実践的運動です。この本は、著者があるキブツの創設期から現代の世代までの人々に直接インタビューし、その生の声をまとめ、ありのままのキブツの姿を伝えようとしたものです。
 著者の「日本語版によせて」から抜粋します。「文字になった彼らの半生きが、キブツという場を超えて、人間のもつ本来の強さ、弱さについても、私達に何か示唆してくれるものと信じております。日本の読者の皆様が、キブツの歴史とその功績を評価してくださり、お一人お一人の生き方に、何か取り入れていただければ本望です。」
 私はこの本を一気に読み、大きなショックを受けました。皆さんにも是非一読していただきたいと思います。
   

この子はだあれ
1993.3
文芸誌 群

樋口範子

 
 この本は、著者が初めて世に出した短編集です。ちょっと照れながらも、10年間の習作約50篇から10篇を選び、範子さんの内面の思いを世に問うているようです。10篇のタイトルは、”ナイル川へのモノローグ”、”ただいま”、”ふるさと”、”なんかおかしい”、”この子はだあれ”、”愛をば”、”反抗期”、”朝子の手紙”、”らんぷ”、”オリエンタル・ドリーム”です。
 私も2児の父親ですが、子育てに悩まされ、ここに出てくる少年の感情や行動などに心が揺れてしまいました。また、恐らく著者の養護学校での経験を基にしたお話には読者に社会の問題点を突きつけるようで、私も自問自答してしまいました。
 「それが重々わかっているにもかかわらず、短編集を出していただきかったのは、どうしてでしょうか。今もって頭を捻っています。」という著者の言葉がよくわかるようです。

      

   注)さ・え・ら書房: 〒162-0842 東京都新宿区市谷砂土原町3−1
                Tel: 03-3268-4261 URL: http://www.saela.co.jp

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