BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第136話:静か過ぎる。

今度こそ。再び「オールド・トラフォード」駅に降り、"football field"の矢印の方向へ歩き始めた。試合開始の4時間前である。たしかに早い時間だが、それにしても、誰もいない。今日がマンチェスター・ユナイテッドのホームゲームであることを感じさせるものがひとつもない。

やがて、スタジアムが見えた。box officeも閉じている。そのときでさえ、そうかsold outだし当日券なんかないからなあ、と悠長に構えていた。ねらいは怪しい人々とのコンタクトである。法外な値なら、あっさりあきらめてスポーツバー(パブか?)に行く。キックオフが過ぎようとも、交渉はねばる。覚悟は決めている。勝負の日だ。

しかしまあ、拍子抜けのする出足である。それでは、まずMuseumでも見ようか。試合のある日でも、やっているらしいし。

Museumの入り口を探す。あ、その前にbox officeの掲示でも見ておくか。どれどれ。

「1月3日 マンチェスター・ユナイテッド対ミドルスブラ」

おや、今日の試合じゃないか、と読む私の目に飛び込んできたのは"postponed"という単語であった。

「・・・ブラジルで行われる世界クラブ選手権の試合の関係で、この試合は延期されました」

な、な、なんてことだ。悪夢だ。なんでこんな無茶なスケジュールを組んでまでマンチェスターにやってきたのか。う〜む。それで誰もいないのか。当たり前か。

さすがに笑うとか泣くとかの前に呆然としてしまった。ア、アホじゃ。ほんまもんのアホじゃ。

しかしまあ、「事前にあんまり調べない」というのが今回の方針でもあり、現地での情報収集を怠ったつけであろう。ネットでも調べられたし、スカイスポーツをもっと丹念に見ていればわかったはずなのだから。こういうことでもなければマンチェスターなんて来なかっただろうし、来てみればそれはそれで興味深い都市ではあるし。

というわけで、あっさりギアを切り替えた。試合がない、ということは「ツアー」(オールド・トラフォードの内部をガイド付きで案内してもらうヤツ。なんと、ピッチには立てるわ、ドレッシング・ルームに入れるわ、という垂涎もの)がある、ということだ。今日のツアーに今日申し込んで空きがあるのかどうかわからない。某ガイドブックによれば前日の電話予約で取れるなんて思うな、なんてあったが。しかし、ここまで来たらやることはやろう。Museum、Shop、そしてTour。

私は勢いよく、たぶんかなりヤケクソな気持ちで、スタジアムの向こう側へと歩き始めた。

(第136話:静か過ぎる。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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