BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第133話:オールド・トラフォードへの巡礼。

イニシュモアにいたころ、ホットワインを飲み、ポテトチップをつまみながら、夕食をみんなで待っていた。

「次はどこへ行くんだい?」

典型的な旅行者同士の話題である。次は? その次は?

「あ〜、実はマンチェスターに行くんだ。ユナイテッドの試合のために」

「おお、ユナイテッド! チケットは持っているのか?」

反応したのは、なにかの調査のためにずっとイニシュモアに滞在しているというディーディーだった。そう、チケットの入手はむずかしい。それでも行きたいのだ。

「その席って、いい席なの?」

ターニャが無邪気に聞いた。

「オールド・トラフォードは、最高のスタジアムだよ。どこからも試合がよく見える。それ以上に、オールド・トラフォードは特別なんだ。そこに立つのは私の夢だし、日本のサッカーファンみんなの夢でもあるんだ」

知らず、私は大声で力説していた。

「"I was there".ってわけね」

ターニャが妙に納得していた。ニールは、さっきからニヤニヤ笑っている。

「Tak(ニールは私をこう呼んでいた)、僕たちはTraffordなんだ」

「え? それってfamily nameがTraffordってこと?」

「その通り!」

前振りが長くなった。

そして今、ロンドン・ダブリン往復切符の有効区間をはずれてまでマンチェスターに来ている。1月3日(月)にマンチェスター・ユナイテッド対ミドルスブラのゲームが、オールド・トラフォードで行われる。そのために、1月2日、それも日曜日の早朝に海を渡って、さらにマンチェスターまで辿り着くという無茶をしたのだ。

着いて早々、私が「オールド・トラフォード」というメトロリンク(実体は路面電車である)の駅まで出かけたのも、まあ当然であった。

メトロ「オールド・トラフォード」駅これは駅名表示板

「オールド・トラフォード」駅は、拍子抜けするほど小さく、football fieldに向かう人間は誰もいなかった。まだ夕方の5時前である。試合がない日でも、Museumは開いているはずなのだが。

あまりに静かで、暗かった。試合のチケットを闇で売り捌こうとしている怪しい人々、なんてのは影も形もなかった。駅からすぐのところにある"OLD TRAFFORD"は、クリケット場であろう。スタジアムの外観を撮影するにしても、あまりに暗すぎる。そして、猛烈に空腹だった。なにしろ朝の4時以来、何も食べていないのだ。

私は、明日に勝負をかけよう、とマンチェスターの中心部へと戻ることにした。

試合を見られるのか、見られないのか? 今回の旅行で最大の不確定要素。最後のクライマックス。

明日、いよいよ結果が出る。

そして、運命の神はなかなか意外でアホな幕切れを用意していたのだった。

(第133話:オールド・トラフォードへの巡礼。 了)

text and photography by Takashi Kaneyama 1999

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