第130話:午前4時半、そしてタクシーは来なかった。 |
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Mrs. Tarrantが用意してくれた目覚ましラジオにも、自分の腕時計にも頼らず、午前4時にはもう支度ができていた。 階下のダイニングルームには、シリアルやブラウンブレッド、スライスチーズ、ヨーグルト、みかんなどがセットされていた。お湯を湧かしてお茶をいれ、ミルクティーをすする。なにがなくても、温かい紅茶だけはどうも必需品のようである。 短いThank youカードと一緒にキーを置いていく。タクシーは4時半でお願いしている。まだ少し早かったが、外で待つことにした。 なかなかタクシーが来ない。予約してもらったわけでもあり、カンタンにキャンセルするのは気が引ける。しかし、出発時間が5時45分なのであって、チェックインは少なくとも30分前にはすませたい。なにより、アイリッシュ・フェリーがこのクリスマス・新年時期にちゃんと運航するのかが、かなり不安だった。できれば早く着きたいのだ。 タクシーはいまだ来ない。Mrs. Tarrantが予約し忘れた? それはありそうにない。タクシーのドライバーが寝坊している? そういえば、いつも通りに止まっているタクシーがあり、ドライバーがこの通りに住んでいるのではないか? という憶測もしたのだが、そのタクシーはいまもそこに止まっている。あるいは、タクシー会社で午後の4時半と勘違いしたのか? どちらにせよ、時間は刻々と過ぎていく。こんな早朝に郊外の住宅地で、すぐに流しのタクシーがつかまるだろうか? どこかの電話ボックスを見つけて、タクシー会社に電話するしかないかもしれない。その電話ボックスだって、すぐに見つかる保証はない。 4時45分。私は見切りをつけて歩き出した。まず、バス通りへ。通行量はけっこう多い。幸い、数分でタクシーの空車がやって来た。 「ダブリン・ポートへ」 今度の渡航もまた、不安なスタートで始まった。これからも、波乱がありそうだった。そして、その予感は的中したのである。 (第130話:午前4時半、そしてタクシーは来なかった。 了) text by Takashi Kaneyama 1999 |
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