第117話:ジェームズ・ジョイスの視線の先には。 |
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アイルランドが誇る文学者は数多いが、やっぱりジェームズ・ジョイスははずせないだろう。ちょっとでもジョイスに関係があれば、パブもホテルもプレートを誇らし気に飾り、もちろんジョイスゆかりのダブリンを訪ねるツアーも存在する。 ジョイスの作品がアイルランドという故郷に深く根ざしていることは事実だが、しかしまた、ジョイスが長く異郷で生活を送ったことも事実である。 そのジョイス像は、オコンネル通りからわずかに東に入ったところにある。丸い鉄縁の眼鏡をかけ、ステッキをついた像は、晦渋と皮肉に満ちたジョイス作品を思わせないこともない。
しかし、気になるのはその視線である。なぜか不自然に斜め上を見上げているのだ。いったい、その視線の先にはなにがあるのだろう? ![]() なんと、それは中央郵便局(GPO)の屋上ではためくアイルランド国旗なのだった。共和国宣言が出され、1916年イースター蜂起の舞台となった、あのGPOだ。それも東側から見つめるあたり、大陸にずっといたジョイスの生涯を考えると、出来過ぎの気がする。 なお、まったくの余談だが、独立運動の英雄オコンネルの視線の先にあるのもまた、アイルランドの誇りである。ずっと形而下的だが・・・。 ![]() (第117話:ジェームズ・ジョイスの視線の先には。 了) text and photography by Takashi Kaneyama 1999 |
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