BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第113話:"Hello, Mrs. Fanning".

とくにあてもなかったが、とにかくGPOに行った。すでにここは、私のお気に入りの場所になりつつある。少なくとも、風雨を避けてクレジットカードで電話できるし、椅子さえある。

まずはMrs. Tarrantに電話して、今日から泊まれるか尋ねてみよう。ダメなら(たぶん、ダメだ)通りの向かい側にあるツーリスト・インフォメーションで手配すればよい。

そして、もちろんダメだったのだが、ウチと同じ通りのMrs. Fanningに電話してみなさい、と言って電話番号を告げ、じゃ明日ね、と電話は切れた。

これで電話もせずに別のところに泊まったら、何を言われるかわからない。言われた電話番号にかけてMrs. Tarrantから聞いたと言うと、あっけなくOKであった。GPOにいるんなら、19か13のバスに乗って・・・と停留所からの道順を早口にまくしたてて、日本人はどうもみんなこの通りを見つけられないので、いつも詳しく伝えているんだけど、と言った。

それはたぶん、その早口に圧倒されて聞き返せないんじゃないだろうか、とはもちろん言わず、これからすぐ行ってもいいかと尋ねた。

ダブリンバスのインフォメーション・センターで3日間有効のパスを買い、バスに乗った。実は、どこのバス停で降りるかは、わかっていない。もちろんMrs. Fanningは言ってくれた(と思う)のだが、実はバス停の名前がわかっても、それほど役に立たないのだ。だって、バスから停留所の名前が見えないどころか、立ち止まってしげしげと見ても停留所名がわからないのだ。ゆえに、バス停の名前を言ってドライバーか乗客に教えてもらうのが、たぶん常道なのだろうが、そういう他人頼りをいつもやるのはイヤなのである。

というか、ゲームをしたかった、というのが正しいかもしれない。コンパスと地図で、走るバスの現在位置をどれだけ把握できるか? 問題は、こんな荷物を持って移動するときに、そんなことをやるのはアホ、ということだ。

結局、ひとつ早く下車した程度で、10分程歩くと目的の住所に着いた。

"Hello, Mrs. Fanning".

そこは、B&Bというよりはホームステイのような部屋であった。玄関から小さな居間を通り、家族が団欒するDKを抜けた右側の、天窓しかない部屋(といってもGround floor、1階なのだが)。隅にフライングVタイプのギターケースがあり、ドロワーには衣類がかかっていた。まるで10代の子どもの部屋を一時拝借したような感じだ。

着いてすぐにトーストと紅茶を出してくれたのが嬉しかった。実は、こうした家庭的なB&Bというのは、ほぼ初体験なのであった。

(第113話:"Hello, Mrs. Fanning". 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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