BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第80話:Mainistir houseの人々。[その1]

夏の最盛期には2,000人ものツーリストがやって来るというイニシュモア島。しかし、この寒い冬にやって来るのはごくわずかだ。ほとんどのB&Bは冬には休むし、わずかに通年営業しているB&Bもクリスマスには休む。稀な例外であるMainistir houseにいるゲストは8人だった。最大100人が収容可能なホステルだが、私たちはいつも、本当の火が焚かれる暖炉のある小さなダイニングに集まっては、本を読んだり編み物をしたり言葉を習ったりした。

ゴールウェイとロンドンにそれぞれ留学しているオランダの女子学生2人。パタゴニアで固めたカナダからの(たぶん)30代の夫婦。リタイヤ後の人生を楽しんでいるオランダの老婦人。ゴールウェイに住んでいるやたら豪快なオランダ女性。冬の天候が好きなアイルランド語の教師。そしてわけもわからずにやって来た日本人がひとり。

24日の船を最後に、27日まで船はない。泣いても笑ってもこの8人で3晩と4日を暮らす、ということだ。ホストのジョエルと、時おりディナーにやって来る島の人々をのぞけば、「なにも足さない。なにも引かない」状態である。

ホステルなんて、たいていは、全然しゃべらないとか、突然怒ったりとか、いつも危ない真似をしでかすとか、ヘンなヤツがいて大変なんだよなあ、と漠然と思っていた。しかし、なかなかこの連中は一筋縄ではいかない、ユニークな人々であったのだ。まあ、ひとりヘンな日本人がいたが。

しかし、初日は誰がゲストで誰が島の人かもよくわからず、名前も覚えられず、途方に暮れそうになった。そんな状態を救ってくれたのは、PowerBook2400だった。

(第80話:Mainistir houseの人々。[その1] 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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