BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第78話:boatとは?

もしも今日も船が出なければ、そのままアランをあきらめるか、27日以降に再トライするか、クリスマスはどこに行くかを再設計しなければならない。問題は31日にダブリン入り、1月2日の船で英国へ渡るという予定がほぼフィックスであるということだ。もちろん、予定は変更できるが、苦労していろいろな要素のバランスをとった上での計画が根底から崩れることになる。

今までだったら、たぶん3通り以上の代替プランを作った上で、いろいろな事態に対応できるようにしただろう。しかし、今回は何も代替プランは立てなかった。ダメならダメで、その時に考えよう。

船会社で、

「今日の船は・・・」

「出ます」

「じゃあ、昨日の便のチケットを変更してください。荷物はこのへんに置いていいですか?」

かくして、私は島への旅人に再び帰り咲いた。ところで、みんな船を"boat"って言うんだよなあ。"ferry"での"ship"でもなく。どんな船なんだろう? 街をまたもや散策する時間をもらった私は、つまらないことを考えながら、もう十数回は歩いたであろうゴールウェイの中心街をゆっくりとさまよった。

港へ向かうバスは満員だった。45分ほどで着いた。いや、ここは港というよりは埠頭であった。誰も案内せず、なんの案内板もない。人の流れに着いて行った先に"boat"はあった。

やがて、渡し板が渡され、乗船が始まった。ちゃんと券のもぎりもやるし、立派な、たぶん200人は乗れるであろう船であった。瀬戸内海の小島を結ぶような、数十人乗りのものを想像していた私は、とりあえず窓際に席をとって窓の曇りを指でこすった。

アラン諸島へ。イニシュモアへ。"boat"は、定刻に埠頭を離れ、すぐに速度を上げた。いまだに雨は降りつづき、波は高かったが、へさきの向こうにもう島は見えていた。

(第78話:boatとは? 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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