BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第74話:「もう、戻って来たよ」

バスが連なるあたりには、昨日のツアーガイドのモロイがいた。

「おはよう。今日はどこへ行くのかね? アラン? 向こうのバスだよ。え? なに?」

そこにたむろしていたオヤジたちが、何かをモロイに言っている。

"The boat is cancelled".

たしかに、そう聞こえた。

バスのチェックをしている青年に聞いても、

"The boat is cancelled, this morning".

やがて船会社の女性も出てきた。

「今朝の船は欠航。風と高波で船は島から戻って来れない。今晩は、わからない。でも、たぶん、むずかしい。3時半にはわかるから、あそこの事務所で確かめて。明日はクリスマス・イブの特別便が2時。クリスマス前はそれが最後。そのあとは27日までなし。予約の変更はもちろんOKだから」

へなへなと腕から力が抜けていった。ま、物事はそうそううまくいくものではないのだ。また、出直すか。

たったいま別れてきたフレディのいるホテルへと戻る。ドアはロックされている。今日からクリスマス休業だからだ。ブザーを鳴らしても、誰も出てこない。ようやく、昨日の朝食の席で見かけた客が部屋に戻るところだったので、合図して錠を指差す。彼が右手を挙げて「わかった」という仕種をして、奥に消えていった。

やって来たフレディに「もう、戻って来てしまったよ」と軽口をたたくつもりだったが、やはりまず、事情を説明した。

「今朝の船が欠航になった。今晩の船が出るかは3時半にわかるが、たぶんダメだろう。もし今日船が出なかったら、今晩もう1泊したい。それから、荷物をしばらく預かってもらえないだろうか?」

「同じ部屋でいいかい? そこにいていいよ。もしも今日出るんだったら、キーをそこに置いていってくれればいい。フロントも何もかも閉めちゃうんでね。ステイするんだったら、朝食も出すから。あ、11時半に部屋の掃除が入るけど、いいかな?」

甘んじてその好意を受けることにした。雨はますます強くなっていた。

(第74話:「もう、戻って来たよ」 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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