BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第72話:大西洋の洗礼。

バスが止まった。

"Cliff of Mohr!"

陽気なガイド・ドライバー、デズモンド・モロイが節回しをつけてコールした。

ここが、「モハーの断崖」だ。

「約1時間。3時半出発だ。短いかね?」
「ノー〜〜〜」

うめくように乗客たちが答える。すでに何回かのストップで強風と凍てつく寒さを感じているので、30分でも長いくらいだ。

石の板ではさまれた道を上っていく。すでに左手には切り立つ断崖が見えている。ティン・ホイッスルが奏でる陽気なリールが聞こえてきた。この寒さで、バスカーが吹いている。

注意書きには、「現在も崖は崩れつづけているので、柵を越えてはいけない」とある。崖には多くの鳥が営巣している。波が打ち寄せる。

道の途中には、水がシャワーのように降り注いでいるところがあった。強風で、海水が吹き上げられているらしい。フードをしっかりかぶって駆け抜ける。

突風で体が浮きそうになった。思わず笑いながら、建物のかげに逃げ込んだ。

"European wind trap".

先にそこで風を避けていた老婦人が私にささやいた。やがて彼女は"Hey, Kids!"と子どもたちを呼んで両脇で支えてもらいながら、道を戻っていった。彼女は、決まり文句のような"Nice view!"なんてことは言わなかった。

「私はここでPOWERをもらった」

彼女は、そうたしかに言ったのだ。

雄大な景色、というだけではない何かを、自然の厳しさ、というだけではない何かを、人は感じることができる。

帰る時が来た。くだんのシャワーを通り過ぎるために構えていたら、急に風向きが変わって頭の上に水がぶちまけられた。

"No---!"

私と、もうひとりの少女が、声を合わせて一緒に駆け出した。

"It's salty".
"Sure, it's sea water."

いや、彼女が言いたかったのは、もっと別の事かもしれない。その塩っぽい味を、彼女はきっといつまでも覚えているだろう気がする。ここは、ある啓示の場なのかもしれない。

モハーの断崖
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(第72話:大西洋の洗礼。 了)

text, QucktimeVR and photography by Takashi Kaneyama 1999

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