BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

CONTENTS

第62話:羊、馬、牛。草、丘、石壁、川。パブ、パブ、パブ。

バスは西に向かって疾走・・・はしなかった。それは、なだらかな起伏の平野と丘を着実に前進していく馬車に似ていた。

結局、ゴールウェイにはバスで向かうことにした。時間は少し余計にかかるが、風景を楽しんでみたかった。ダブリンからゴールウェイは、アイルランド海に面する東岸から、大西洋に面する西岸まで、アイルランドを完全に横断する行程になる。それでも、普通の道路を走って3時間半。

途中の町には、Request Stop、つまり希望したら止まるというところが多い。なので、いくつめのバス停留所だからどこ、という計算は意味がない。

窓の外では羊や牛が草を食む。草原は低い石積みの壁で仕切られている。時おり、小さな川をバスが渡ると、町が近いという合図のように町並みが現れた。

たぶん、その町の大通りなのだろうが、目につくのは広場でも教会でも駅でもなく、パブなのであった。ある町では子どもたちが聖歌を歌って募金をしていた。クリスマス休暇の帰郷なのだろうか、たくさんのプレゼントを抱えた人々。

この大地を魅力的なものにしているのは、まぎれもなく人である。

ゴールウェイには30分遅れで着いた。バスを降りるとき、ステップを踏み外して見事に落下した。ちょっと痛い大地との出会いで、私の新しい旅が始まった。

(第62話:羊、馬、牛。草、丘、石壁、川。パブ、パブ、パブ。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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