BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第57話:郵便局は、郵便を出すところだった。

ダブリンのGPO(General Post Office 中央郵便局)が観光名所になっているのは、ここが1916年のイースター蜂起で義勇軍が最後まで立てこもったところだからだ。

英国支配からの独立をめざして、決起しよう。しかし、頼みの武器弾薬は直前に英国に発見された。「蜂起は延期」。その指令に反してわずかな人数で英国軍に立ち向かった者たちがいた。が、当然ながら、あっという間に鎮圧されてしまった。

これだけなら、たぶん無謀な跳ねっ返りでしかなかっただろう。ところが、英国がろくな裁判もせずにリーダー格の16人を次々に銃殺刑に処したため、世論は急転回し、16人は愛国の士、独立運動の殉教者となった。

日本で言えば、坂本龍馬か吉田松陰か。いや、現在のアイルランド共和国の成立ということでいえば、国の起点かもしれない。しかも筋がドラマチックだ。絶望的な戦況、ろくな武器もなく、次々と倒れていく仲間、これ以上の犠牲は出せないと投降したら、待っていたのは即刻の銃殺だった。怒った民衆のエネルギーは・・・と、こういう舞台なのだが。

行ってみれば、クリスマス前でどこの窓口にも長い行列ができていた。当たり前のことだが、郵便局は郵便を出すところであった。

ついでに両替のレートをチェックしよう。公衆電話は、さすがに故障中は1台しかない。データポートがついている電話は、1台もない。日本なら、グレ電はいたるところにあるし、ISDNも赤外線通信もできるというのに。まあ、予想できたことだが。

そうか、ここから小包を送れるのか。だったらもっと本を買ってもよかったな。そう思いながらショッピング・ストリートを西に向かった。

いや、これからでもやってみるか。市場をのぞきながら、考えを決めた。

GPOに戻って小包料金のパンフを見つけ、窓口で小包用の箱を売っているかを聞いた。ここでは大型の封筒しかない。

"Where can I have a mailng box?"
"Try EASON".

EASONは、さっきまで私が物色していた本屋である。小包用の箱なんてあったかな? とにかく行ってみたら上階に画材用品の一角があり、その奥にシンプルな箱があった。梱包用テープと合わせて3ポンド29ペンス。

ホテルに戻る時に近くのバス停をチェック。荷物を抱えてGPOまで歩くのは避けたかった。すると、なんとそこにはPost Officeが。ホテルからひとつ置いて隣が郵便局だった。

部屋で梱包。持ってきたが一度も着ていないフリースや、ロンドンの地図、買い込んだ本やCDを詰めると箱にちょうど隙間なくおさまった。テープでガンガンに止め、念のために箱に直接宛先をを表書きする(伝票がはがれちゃってもいいように)。

意気揚々とと小さな郵便局に乗り込んだが、なにやら厳しい顔で言われて「国際小包は扱っていないのかなあ」とシュンとなる。しかし、郵便局に箱を持っていく用事なんてすぐわかるはずだ。

結局、すぐ脇の計量器に荷物を載せ、日本までの料金を支払ってそのレシートを箱に貼り、渡された伝票に必要事項を記入してまた窓口に渡してチェックしてもらってから、その伝票を荷物に貼って隅に積んでおく、という手順なのであった。

そう言えば、日本でも私にとっては郵便局は鬼門だし。まあ、なんとか無事に送れたみたいだから、よしとしよう。

しかし、問題がひとつ、その後に判明した。これからの旅行用に買った「ハンディ判アイルランド全国地図」を東京に送ってしまったのである。あ〜あ、なんのために買ったんだか。

(第57話:郵便局は、郵便を出すところだった。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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