BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第37話:どこへ行けばいいのだろう?

街の明かりが見えた。gunだ、videoだと遊び回っていた中国人の女の子2人も、杖をついているウェールズ訛りの老人も、フェリーのサンタからもらったプレゼントを持って駆けていた子どもたちも、今は息を詰めて窓の外を見ている。

ダブリン。

ドアが開き、簡単にさし渡された板を1枚越えれば、そこが港だった。曲がりくねった通路を歩いていくと、大声でなにやら呼ばわる大男がゲートに立ち構えている。

"I'm from Japan".と言うと、「そうか、じゃあ、パスポートを」。いちおう、ここが入国審査/パスポートコントロール/イミグレーションなのであった。ヒースローとは対照的に、なんの質問もなくパスした(ヒースローでは滞在期間、目的、友人のありなし、ひとりかどうか、帰りの航空券、所持金、現金か銀行にあるのか、まで聞かれた)。

問題はここからだ。どこへ行けばいいのだろう?

「B&Bはどこで予約できるのか?」

出口にいたスタッフに聞くと、「あそこにフリーフォンがある」と言う。

フリーフォン? 無料電話?

行けば、大きな掲示板に40軒くらいのホテルやホステルの情報があって、下のテーブルに電話が2台あった。それぞれのホテルには3桁の番号があって、それをダイヤルするとつながる、ということだろう。

だが、そこにあるのはホステルかホテルのシェアリングがほとんどで、家庭的サービスのB&Bというものではなかった。すでに時間は19時20分。真っ暗だ。

とにかく、いちばん安いホステルに電話した。満室。

次は、ここにしよう。私がミシュランの赤本でチェックしていたOrmond Hotelが、なぜかここにあった。シェアリングで30ポンドだが、レッティング(leting、専有の意)なら60ポンドだろう。チェックしたのは「モデムポートあり」の表示があるなかでいちばん安くて、もっとも中心部に近かったからだ。にもかかわらず、ここを候補からはずしたのは、それでもまだ高いと思ったからだ。

しかし、1アイリッシュポンドが約140円と判明したいまなら、一考の余地がある。いくつかB&Bのあてもあったのだが、いずれも中心部から離れているし、ロンドンでまったく通信できなかったことを考えれば、ここはホテルか。

Ormond Hotelへ電話。部屋はある。60ポンド。4泊。8時半までには着く。それから、なにかよく聞き取れなかった。聞き返すと、

"All right. Details when arrival".
"Sure. I'll get there. Thanks".

次は、どうやってホテルまでたどり着くか。荷物はあるし、地図はろくなものがない。

「え〜と、タクシーはどこで乗れますか?」
「あのバスに乗りなさい」
「あれ? いくらですか?」
「2ポンド」
「ありがとう」

かくして、私はバスに乗り込んだ。彼女の顔が伝えているメッセージは、「バスの方が安いよ」というアドバイスではなくって、「タクシーなんかいない、あのバスしかない」という指示なのであった。

フェリーの大部分の乗客は車で来ているので、「foot passengers」はバス1台で十分だった。バスが出発したとき、港にはひとりの客もいなかった。

(第37話:どこへ行けばいいのだろう? 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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