BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第36話:海を見ていると飽きない、というのは本当だろうか?

船が動き出したのは、15時55分だった。fast swift ferryではなく、cruise ferry。クルーズというだけあって船内は豪華で、バー、レストランはもちろん、ショップ(一応国際航路だから免税店も)、スカイデッキ、両替、ビデオルーム、ゲームランド、子ども用遊び場、とひと通り揃っている。

ただ、問題は高速船なら1時間49分なのに、クルーズだと3時間15分もかかるということなのだ。ただでさえダブリンに着くのがツーリスト・インフォメーションが開いているぎりぎりの時間なのに、これで望みは断たれた。しかも明日からは土日だし。だいたい、どうして15時15分発の高速船が運航しなかったのだろうか?

しかし、乗りかかった船である。後方にスクリューが巻き起こす泡の軌跡を見ながら、ぼんやりと物思いに耽った。

海はすでに暗かった。海はすでに暗かった。

海を見ていると飽きないっていうのは本当だろうか?

よし、試してみよう。何もしないで後部展望デッキに座って海面を見る。甲板には出られないようになっているので、ここが海にもっとも近い。

そして、私はようやく思い出した。私は船酔いをする性質があったのだった。最近は瀬戸内海でしか船に乗っていないので、ころっと忘れていた。

相当大きな船なのに、揺れる。かつての悪夢を思い出させる縦揺れだ。その昔乗ったクルーズでは風呂場のお湯が大波を立てて半分以下になり、ディスコではジャンプすると全員が揃って1メートルくらいずれて着地する、という凄まじさだった。

いかん。海を見るどころではない。まずトイレの位置を確認し、楽に横になれるところで着くまで寝ることだ。その移動の最中にも、思わず笑ってしまうほど揺れる。そうか、高波で高速船は運航中止になったのかもしれない。

華麗なラウンジで、寝た。豪華なラウンジで、寝た。

楽しそうに笑いさざめきながら人々が行き交う。いかん、この揺れと同期するんだ。揺れに逆らわず、身を任せよう。ダブリンまであと3時間。

(第36話:海を見ていると飽きない、というのは本当だろうか? 了)

text and photography by Takashi Kaneyama 1999

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