第2話:予約カウンターの美女。 |
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Miss. Leenamはそう言ってにっこり微笑んだ。クリスティン・スコット・トーマスが、まだ若くてなんの不幸も知らなかった頃のような屈託のない笑顔だ。 13年前、初めてロンドンへ来た時には、あてのあったホテルすべてに電話したがどこも満室で、暗い隅にあったインフォメーションカウンターにただひとり居た中年婦人にベイズウォーターのホテルを紹介してもらったのだった。それがいまや、華麗なBHRC(British Hotels Reservation Centre)となって数人が詰めている。 積みたくもない経験を積んだ結果、「美しいものには注意せよ」という教訓がしみついた私でさえ、グラッとくるEnglish beautyではあったが、まずは宿を確保しなければならない。
かくして、あとは名前の確認と、クレジットカードの提示、1泊分のデポジットと手数料を合わせて75ポンドを支払う。
これはかなり無理な注文で、ビクトリア駅から南東の方角ってくらいしかまずわからない。彼女は苦労してしるしをつけてから、ため息をついた。
心を込めて、相手の目を見つめて"Thank you, so much".といえば、心を込めた笑みと"Thank you".が返ってくるはずだ。その法則は、今回も正しかった。しかも今回は美女にため息までつかせてしまったのだ。 うむ。新しくなったロンドンも悪くないな。気分は軽い。財布も軽い。あっという間に予算オーバーしてしまっていることについては、ノーコメント。やっぱり「美しいものには気をつけろ」なのかもしれない。 (第2話:予約カウンターの美女。 了) text by Takashi Kaneyama 1999 |
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