BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第2話:予約カウンターの美女。

"Can I help you?"

Miss. Leenamはそう言ってにっこり微笑んだ。クリスティン・スコット・トーマスが、まだ若くてなんの不幸も知らなかった頃のような屈託のない笑顔だ。

13年前、初めてロンドンへ来た時には、あてのあったホテルすべてに電話したがどこも満室で、暗い隅にあったインフォメーションカウンターにただひとり居た中年婦人にベイズウォーターのホテルを紹介してもらったのだった。それがいまや、華麗なBHRC(British Hotels Reservation Centre)となって数人が詰めている。

積みたくもない経験を積んだ結果、「美しいものには注意せよ」という教訓がしみついた私でさえ、グラッとくるEnglish beautyではあったが、まずは宿を確保しなければならない。

「シングルで3泊。B&B、ブルームズベリー近く、reasonable price、え〜と50か60ポンドならいいんだけど」

「∬∪∇§・・・(早口で聞き取れない)、ナイツブリッジなら60ポンドであるわ、電話してみましょう」
「∬∪∇§・・・(早口で聞き取れない)、3泊はダメだって。1泊だけは? やめる? じゃ、次ね」
「∬∪∇§・・・(早口で聞き取れない)、ビクトリアの4つ星が70ポンドだけど、どう? いいと思うけど。あ、これがパンフ」
「∬∪∇§・・・(早口で聞き取れない)、OKよ、3泊ね。Can I have your....」

「Name? Here it is.」

かくして、あとは名前の確認と、クレジットカードの提示、1泊分のデポジットと手数料を合わせて75ポンドを支払う。

「え〜と、ロンドンのone day travel cardが欲しいんだけど」
「∬∪∇§・・・(早口で聞き取れない)」
「(どうやら手数料を取るらしいと判断し)それならいいや」
「∬∪∇§・・・(早口で聞き取れない)、chauffer service, ....」
「(要はホテル送迎か)いや、いいよ。地図はもらえる?」
「3ポンド。ハンディ、詳しい、おすすめよ」(←これはわかった)
「う〜ん、いらない。これにホテルの場所のしるしをつけてもらえますか?」
(ここで『地球の歩き方 イギリス』から破いた地図を出す)

これはかなり無理な注文で、ビクトリア駅から南東の方角ってくらいしかまずわからない。彼女は苦労してしるしをつけてから、ため息をついた。

「この地図じゃダメよ。こっちを買いなさい。3ポンド」
「もちろん、この地図じゃダメだけど無料の地図を探すよ。『A to Z』も持っているし」

心を込めて、相手の目を見つめて"Thank you, so much".といえば、心を込めた笑みと"Thank you".が返ってくるはずだ。その法則は、今回も正しかった。しかも今回は美女にため息までつかせてしまったのだ。

うむ。新しくなったロンドンも悪くないな。気分は軽い。財布も軽い。あっという間に予算オーバーしてしまっていることについては、ノーコメント。やっぱり「美しいものには気をつけろ」なのかもしれない。

(第2話:予約カウンターの美女。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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