BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL


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3月12日(火) (ローマ)→パレルモ

歯磨きしながら海を見た。

目が覚めたら港だった。

列車ごと船に積み込まれた。同室のビジネスマンが、甲板にあがれると教えてくれた。船内のバールでコーヒーも飲めるらしい。


朝日がのぼってきた。

船は、あっという間に対岸のシチリア島に着いた。慌てて列車に戻る。やがてメッシーナ駅。寝台車の人々は、みんなここで下車していった。私以外の全員が降りてしまったのだ。

「シチリアでは列車よりバスの方が速いんだ。列車で行くなんてuncomfortableだよ」

そう言ったビジネスマンも、すでに降りていた。列車は、長い待ち時間のあと、ゆっくりと動き出した。

「カプチーノをどうぞ」

車掌が熱い淹れたてのカプチーノを持ってきてくれた。この車両にいる乗客は、私ひとりだった。

シチリア島の北岸を鉄道は走っている。寝台車両ぜ〜んぶを独り占めした私は、隣の個室に移って、寝台に寝ころびながら海を見ていた。

個室内で顔を洗って歯を磨く。目の前を海が遠く近く過ぎ去っていく。

パレルモの街には、いたるところに青空市場があった。

パレルモ駅に着いた。構内でツーリストインフォメーションが見つからず、有料のホテル紹介で4泊確保する。あるはずのものが見つからないと悔しいので、再度インフォメーションを探してようやく発見。いろいろ資料をもらう。

青年が「ナガイ・・」という日本人の名前らしきものを言い出した。(永井荷風? そんなに有名?)一瞬迷ったが、すぐにわかった。

「永井豪! マジンガーZ!」

彼はコミックスを全巻持っているそうだ。

Hotel Moderno。駅から通りをまっすぐに行くのだが、荷物を担いで歩くと優に20分以上はかかる。チェックインし、荷物を整理してから外に出てみる。あまりに暖かいので、Tシャツにメッシュのベストだけにしてみる。

バルコニーに洗濯物がはためき、道の両側にはさまざまな露店が出ていた。迷路のような露地をぐるぐる回るが、どこまで行っても店がつづいている。


パンに薄切り肉のスープ煮をはさんでくれてE1.30(約150円)。

立ち止まって眺めていたら、「食うか?」と聞いてきたのでうなずいた。某仙人とは違っておごってもらったわけではなく、ちゃんとお金を払う。

面白くなって、次々に探訪。つづいて、揚げ物各種をパンにはさんでくれる店で、テキトーに頼む。カウンターに座り、ビールも飲む。やたら陽気なお兄さんで歌いながらサーヴする。「パレルモのカンツォーネさ」「パレルモの言葉はちょっと違うだろ?」「どこから来た? 東京?」「あ、お前日本に行ったことあるよな。どこだった? フクシマ? ホッカイドー?」と店中を巻き込んでしまう。

つづいてはジェラートである。さっき見つけた店へ。どの味にするか? ストロベリーとバニラ、と頼んだらバニラはなく、パンナでいいか? と聞かれた。このパンナが濃厚なクリームで、堪能した。あっという間にフルコースの食事をはしごした気分だ。さらに市場でイチゴをひとかご買ってホテルへ戻る。

シャワーを浴びてから洗濯。ハンガーをカーテンレールに吊って窓際に洗濯物を干す。いかにも素早く乾きそうな布陣で、非常に満足する。そのままベッドで熟睡。夜の8時まで寝てしまった。

いったん起きて、インフォメーションでもらった資料の検討。メールの未読分の整理。そうこうするうちに眠れなくなってしまった。

photography and text by Takashi Kaneyama 2002

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