BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL


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3月10日(日) 20:30 Lazio - Roma

歴史的敗戦は煙の中。

チケットを求めて

午後6時にホテルを出て、テルミニ駅へ向かった。ここのバス停から910番でスタジアムへ行けるはずなのだが・・。バス・インフォメーションが行列だったので自力でバス停を探し当てて待つ。イングランドあたりなら、このへんでもはやスタジアムへ行く連中はうじゃうじゃいるのでわかりやすいのだが・・。

とにかく待って、来た910番に乗る。かなり長い時間乗っていたような気がするが、36分ほど。

スタジアムが見えたので、とにかく降りる。見えることは見えるが、けっこう距離はある。いちおう切符売場をチェックする。どうも、sold outではないらしいが、不明。どっちにしろ、どの窓口がどれなのかわからない上に、全然進まない行列が固まっていて無秩序状態。

まあ、このへんで状況観察。とりあえず、座席区分を調べておく。わかりやすいことに、チケットの束を持っている男が仁王立ち。近づくと、ちょうど50ユーロで若い男からチケットを買っていた。正真正銘のダフ屋だ。

さて、交渉開始。56.5ユーロの席(に予約手数料5.5ユーロがかかって62ユーロで購入という券だが)を60で。いちおうTribunaなので、あっさり妥結。たぶん、さっき50ユーロで仕入れた券だ。ううむ、こんなにわかりやすくていいのか?

ほとんどゴール裏。

スタジアムを半周してゲート入場、ボディチェック。今回はしっかりチェックされた。

席を探すと、そこは限りなくCurva(ゴール裏)に近いエリアで、コーナーフラッグよりも後方なのだった。

しかも、私の席には先客がいた。悪びれないカップルだったが、よく見るとビブスを持っていた。つまり、場内整理かなんかのスタッフが休んでいたらしい。なんともはや。

で、回りが空いているので怪訝に思っていたら、みんな柵に寄りかかって立っている。本来ならCurvaにいたいのに、っていうラツィオ・サポたちなのであった。で、指定席なのだが、ほとんど意味をなしていない様子である。そうか、そういうことなのか。


Curvaとの境界には警察官が並ぶのだが・・。

試合前には意気軒昂だったが・・。

さて、さすがに永遠の都ローマというべきか、剣闘士やコロッセウムのイメージと現代のカルチョをだぶらせているのである。オープニングのイメージ映像なんか、映画「グラディエーター」からの引用で始まってローマ上空を滑空する鷲の映像で締め。そのあとに選手紹介、という手順。

たしかに、熱狂する市民と歓呼に応える英雄(それを目くらましに利用する政治家も)という構図はそのまま古代も現代も一緒のような気もする。

そして、キックオフに至る15分間はゴール裏をスクリーンに見立てたウルトラスにとってのディスプレイの時間。みんなが期待して待っている。

拍手で終わる。私のいるエリアでも、上から水色と白色の帯が降りてきた。ラツィオ・カラーだ。

Curvaには巨大な剣闘士の絵。いくつもの発煙筒。なお、ちなみにイタリアでも発煙筒はルール上持ち込みを禁止されている。ただ、取り締まりがゆるいだけである。イタリア人が交通信号を守らなくても警察がほとんど注意しないのと同様に。

無秩序な人々。

いつのまにかゲームが始まっている。試合中は席に座ることになっているし、最初は全員座っているのだが、いつのまにかアホな連中が前に行って立って見ている。はっきり言って見にくいこと夥しい。結局、ゴール裏との境界に立っている警備の警察官(ヘルメット、防弾チョッキに拳銃!)と並んで立って見ることにした。で、だんだんなしくずしに上方へ移動していった。

ゲームはといえば、ラツィオに覇気がない。ボールを持っても攻め上がる人数もいないし、飛び出しもなければサイドチェンジもない。結局、中央のクレスポめがけて放り込んでは跳ね返される繰り返し。アイディアがない、という以前にコンディションの不良を疑うほどだった。

モンテッラ・ショー。

ローマが先制するのに時間はかからなかった。モンテッラ、モンテッラ、モンテッラ。あっという間のハットトリック。はるか向こうのゴール前で起きているのは「モンテッラ・ショー」だった。

トッティ、デル・ヴェッキオ、カフーらが突破してチャンスを作ると、いいところにモンテッラがいて、ことごとくシュートを決めて0−3でローマが圧勝の雰囲気。

ラツィオはフリーキックでミハイロヴィッチが蹴っても、いつもの切れがない。ゴールをはるかにはずれていく。

ゲームは前半30分で決まった。というか、それ以降はラツィオ・サポが抗議なのか発煙筒を投げ入れたり、立って見る連中が多くて試合に集中する環境ではない。

発煙筒だらけ。

後半はさらに状況が悪化して、煙が充満して視界は不良、鼻やのど、眼がやられてみんな鼻と口をハンカチやマフラーで覆って観戦する始末。


ゲームなんか見えない。

後半にはスタンコヴィッチが一矢報いたのだが、煙で見えなかったくらいだ。

帰る人が続々。1−3にはなったものの、ゲームの流れは覆らず、さらにモンテッラが決め、最後にはトッティが見事なループシュートでとどめ。


黒煙が上がって消防隊が出動。

ホームで迎えるダービーで1−5という歴史的敗戦になってしまった。これはもう、恥辱もの。ザッケローニ監督の首が非常に心配である。好きな監督なんだけどなあ。

それにしても、ラツィオ・サポってのは。ついに何か燃やしたらしく、黒煙が上がって消防車が出てきたし。発煙筒をのべつまくなしに焚いて、試合を見えなくするし。だいたい、セルビアの民族主義者と関連するグループもあって、ラツィオのウルトラスはある意味札付きなのである。

最後にはガラガラになったスタンドでどの席でもどーぞ、って状態になった。歓喜するローマ・サポは完全にお祭り騒ぎ。

ゲームはやっと終わり、とぼとぼと帰る。スタジアムのあちこちで炎が見えて不穏。

帰れない人々。

さて、来たバスで帰ろうとするが・・人波に飲み込まれたうえに、車もバイクも無秩序に出口に向かうものだからひどい混乱になっていた。とくにバイクは路肩どころか、歩道にどんどん乗り上げてくるので危なくってしょうがない。ハコ乗りの車、旗を振る二人乗りバイクががんがん走る、みんな陽気な暴走族ってとこか。

なんとかバス停まで戻るも、実はローマ中心部に行くバスはこの道路の向かい側には止まらないのであった(たぶん、単純往復ルートでなく、スタジアム付近のルートが環状になっているのではないか、と思う)。

結局、終点であるPiazza Manciniまでいったんバスで行って、そこでテルミニ行きをつかまえる算段をしてバスを待つのだが・・。バスが全然止まらない。止まるはずの番号のバスが全然止まらないで通過していく。おかしい。どーもおかしい。

むなしくバスを待つ十数人で難民のような風情になってきた。ようやく、バスが止まった。もはや、どこ行きでもいいから、この連中を乗せて行け、とお願いするつもりで運転手に駆け寄る。

運転手はとにかく「Si,si. Com'on, com'on!」と全員を乗せてPiazza Manciniまで行ってくれた。どうやら、最初からそのつもりだったようである。推定だが、試合後に出るローマ中心部行きのバスはPiazza Manciniからしかなく、そのピストン輸送のために空車がどんどん我々の前を通っていったのだ。かの運転手は、来ないバスを待っている我々を見かねて、どうせ空車なんだからとピックアップしてくれたようだ。こういう機転というか融通の利かせ方もまた、イタリアらしい気がする。

かくして、深夜のローマはバスは走り抜けて無事にテルミニ到着。煙とトラブルにまみれた一夜が終わった。

photography and text by Takashi Kaneyama 2002

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