BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL


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3月7日(木) ミラノ

やっぱりSOLD OUT。

インテル対ユヴェントゥス戦のチケットを求めて

早朝、今後の旅行日程についておおまかなプランを作ってみる。しかし、この旅が「ダイスをころがせ!」である以上、このままでいくとは思えない。

銀行が開く8時半に出かけた。インテルポイントの場所とは、銀行Banca di Romaのなからしいのだ。しかし、教えられた近所のポイントに「Banca di Roma」はない(調べれば「Banca Popolaire di MIlano」という名前の銀行なのであった)。

仕方なく、中心部に出ることにしてメトロの駅にもぐる。切符の自動販売機は全滅。1日乗車券を買いたいのだが、イタリア語で何というのだろうか? しばらく考えた末「Buon gironoというんだからUno girnoで通じるのではないか?」とキオスクで「Biglietto, uno girono per favore!」と叫んだら、あっけなく切符が出てきた。E3.00、なんか安いのでやや不安になる(しかし、ちゃんと1日中使えた)。

結局、銀行のドアに「Inter - Juventus 云々」という張り紙があったので中で聞いたら、恐れていた通り売り切れだった。つづいてFNACに行ったがやはりSold out。なにしろ、もともと「イタリア・ダービー」である上に、首位インテルと2位ユヴェントゥスが1ポイント差の状態で直接対決するのだ。

これで当日のチケット入手にファイトが沸いてきた、てなもんだ。

ミラン戦には早すぎた。

つづいてミランポイントへ。移転したそうだが、難なく場所を発見。しかし、目当ての3月21日のUEFA CUP戦ミラン対ハポエル・テルアヴィヴは、「まだ早い」と言われた。これも予想通りではあるのだが。試合のチケットは1週間前くらいから売り出すのが普通なのだ。

結局、何の収穫もないままメトロまでの道をとぼとぼと帰る。10分ほどで着くはずが、20分たっても着かない。考え事をしているうちに道をはずれたらしい。

方位磁石と地図を出して真面目にオリエンテーリングし、20分後に正しい道を見つけ、その20分後にメトロに着いた。ふう。ずっと速歩だったので非常に疲れた。しかも、昨日の夕食も今朝の朝食も抜いていたので空腹感がピークに達していた。

24時間ぶりの食事

とりあえず、次の目的地ピナコテーク・ブレラへ向かう。場所はすぐわかったので、近所でよさげなトラットリアを探す。運良く、このあたりには適当な値段の店が軒を並べている。

で、メニューを比較検討して決定したのだが、入ったら「まだ開店していない。20分後に開ける」ということだった。このとき、11時55分。ああ、ここはイタリアだった。

しょうがないので少し範囲を広げて散策するが、ピンと来る店はなく、結局20分後にその「Trattoria del Angolo」に入る。2階に案内され、プリモに自家製ニョッキ、セコンドに仔牛肉のソテー(ピザソース風)リゾット添えを選ぶ。ハウスワインのハーフ・カラフ(赤)も頼んで最後にエスプレッソで締める。

なかなか流行っている店のようで、30分ほどで2階の10以上あるテーブルがほぼ満席になった。実は私にとっては24時間ぶりの食事なのだったが、無事に胃袋におさめる。とにかく疲労感がはなはだしく、今日は早めに行動を切り上げることにする。

チップ込みでE25を払い、すぐそばのピナコテーク・ブレラへ。しかし、ここが実はつまずきの原因だった。

悪いことは重なる。

まず、ワインが回って頭痛がしてきた。アルコール摂取したせいで水分不足になっている。しばらくじっとして休むことにする。その間、「Museum?」と道を聞くツーリストに「Upstairs.」と道案内していた。

少し気分がよくなって入場しようと10ユーロ札を出すと、「6.20ユーロ。おつりはない」と無碍に断られる。食い下がろうとした途端に、手で制止して次の客の相手をし始めた。失礼なヤツだ(若い女だが)。たしかに、細かいおつりを絶対に出さない窓口は他にもあるが、彼女の目の前の出納器にはちゃんと小銭も細かい札もあるのだ。融通が利かないというか役人根性というかイケズというか。

さっきのトラットリアの勘定で札をくずしておけばよかったのだが、10ユーロ札があればなんとかなると思っていたのだ。ええい、癇に障る、と「D'accord!」となぜかフランス語で捨て台詞してから隣のショップへ行った。若い店員をつかまえて、なんとか10ユーロ札を1ユーロコイン10枚にしてもらう。次に、細かいお釣りが出るように絵葉書を2枚買う。違う店員に「細かいお金はないのか?」と聞かれるが「これが全部」とコインを見せると渋々だがお釣りを出してくれた。

かくしてE6.20ちょうどを調達し、窓口に帰還。さっきの女にコインを出して入場券を受け取った。ああ、血圧が上がった。その間に、日本人の小学生の団体と一緒になってしまった(たぶん、ミラノ日本人学校の課外授業だと思う)。

マンテーニャ【死せるキリスト】とベッリーニのいくつかの作品、それにラファエロ。さらにデ・キリコとピカソ。普通に入っていたらなかなかいいところなのだがなあ。

因縁の場所

実は、前回ミラノに来たときにはあまりに時間が無くてここピナコテーク・ブレラには寄れなかったのであった。さらに、スフォルツェスコ城の博物館は閉まっていてミケランジェロの手になる【ロンダニーニのピエタ】も見られなかった。ゆえに、今回はこのふたつはどうしても見たかったのだ。

そういうわけで、因縁その2であるカステッロ・スフォルツェスコへ歩いて向かう。時間に余裕があるせいで、適当に展示室を回るがいっこうに【ロンダニーニのピエタ】が見あたらない。「Dove esta Pieta Rondanini?」と警備員に聞くと、親切に場所を教えてくれた。しかし、イタリア語だったのでだいたいの方角しかわからなかった。それはイタリア語で聞くからである>自分。

もう一度場所を聞いて、暗い入り口を抜け、吊り廊下を渡ってついに対面した。このピエタはミケランジェロ晩年の遺作ともいわれ、キリストの頭部も嘆く聖母マリアも荒削りのまま未完になっている。

しかし、注目すべきはキリストの両足で、ほぼ磨かれており、最初のヴァージョンをそのまま使ったことでもわかるようにミケランジェロの意図を反映したものであるはずなのだが、プロポーションが異様なのだ。明らかにバランスを欠いており、解剖学的にもあり得ないようなねじれ、というかデフォルメがなされている。私には、ミケランジェロの後継者がマニエリスムにおいて実践した「ねじれ」とか「デフォルメ」(パルミジアニーノに典型的なように)を先取りしているようにさえ思える。

まあ、これでやっとミケランジェロの三大ピエタに会えたわけだ。

天気がいいので、城の裏の公園でひなたぼっこする。ミネラルウォーターを買って飲み干す。こうしていると気持ちのいい午後である。まだ4時前なので、他の教会や美術館にも行けるのだが、今日はこれで引き上げよう。


帰途、会った途端に手を振る幼女に、別れの挨拶。

photography and text by Takashi Kaneyama 2002

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