BON VOYAGE!

PREMIERSHIP EXPERIENCE
「サッカーをフットボールと呼ぶ街で。」
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<2.> 11月11日:MANCHESTER UNITED「夢の劇場」


マンチェスター・ユナイテッド対ミドルスブラ

11月11日(土)オールド・トラフォード・スタジアム午後3時キックオフ

北スタンド、最上段。階段にして5階分。やっと席について隣のおじさんにスコアを尋ねた。「0−0」。よかった。

ギグスがいない。フィールドのどこにもギグスがいない。たぶん、8日(水曜日)のゲームで脚を痛めて途中退場していたので大事をとっているのだろう。代わりにニッキー・バットが入っているようだ。中盤は他にベッカム、スコールズ、キーン。前にはたぶんヨーク(コールはケガしているはず。このふたりは外見では見分けがつかない上にプレーも似ている)。バックには・・・ガリー・ネヴィルとシルヴェストルはいるようだ。GKは例によってパンツを引き上げながらプレーするバルテス(マッチ・プログラムを買い損ね、選手紹介も聞き損ねたので客席から見た推定)。

ゲームは圧倒的にMANUが支配していた。ほとんどミドルスブラのゴール側でボールが動く。ミドルスブラの苦しいクリアはもちろん拾われ、パスもほとんどカットされ、またMANUの攻撃がつづく。

しかし、なんといっても目立っていたのはミドルスブラの中盤のドレッドヘアの男だった。とにかく運動量が多く、よくつなぎ、ボールキープもうまい。ポジショニングがいいので、ボールを奪えたわずか機会には必ず顔を出していて、前を向いて時に疾走し、時に長いパスを繰り出す。

どこかで見たような気がするが、名前を思い出せない。タイプとしては守備的中盤なのだろうが、ミドルスブラでは前めでプレーしているようだ。

さて、MANUのゴールは時間の問題だな、と思っていたら、このドレッドヘアがパスカットし、スライディングタックルをかわして軽く右にアウトサイドキックでパス。「ああ、まずい!」と思う間もなく、ダイレクトの折り返しをドレッドヘアがもらった時にはGKと1対1。鮮やかなループシュート。ボールはバルテスの頭上を越えて先制点をくらってしまった。

スタンド全体がシーンとするなかで、南東隅のアウェイ席だけが熱狂。なんと両ゴール裏ともホームに割り当てられていた。ちなみに、東側のゴール裏には広大な車椅子席スペースがある。ここももちろん一杯。さらにちなみに、私のいる北スタンド最上段のさらに上はガラスで囲まれた贅沢なボックス席で、テーブルがセットされ、テレビで他チームの試合もチェックできるエアコン付き。

失点で俄然MANUサポーターが盛り上がり、ファイトソングで鼓舞する。

前半40分過ぎにはテディ・シェリンガムがイン。スールシャール(英国の発音ではソルスキア)がケガしたためだが、大歓声で迎えられた。この大歓声は、フツーに録音しようとしたら、間違いなくメーターの針が振り切れる大音量であって、すべてが人の声だというのが信じられないくらいの地響きがする。

しかし、相変わらずドレッドヘアはよい。一度、右サイドで味方がボールを奪った時、自分は右前方へ走ってボールへ寄りながら(ついでにDFをひとりつり)、左手で大きく左のスペースに出せと指示していた。これがすごいのは、このあとフリーでボールをもらった左サイドのプレーヤーは、次にこのドレッドヘアへのパス、後ろからの攻め上がりへのパス、自らのシュート、もう1回右へのサイドチェンジと選択肢をいくつも持てることだ。3手先まで読むとは、こういうことだ。それも、守備から攻撃に移った瞬間に。

ハーフタイムにはくじの抽選があったりして、後半開始。ミドルスブラが大金星か? という予感はまったくなく、MANUの疲れを知らない猛攻が続く。ベッカムの美しい弧を描くクロスに、3人が重なることなくラインを作って突っ込んで行く。ヘディングは枠をはずれた。ヨークが中央を突進し、スコールズ、シェリンガムと短いパス交換でDFの隙間をこじ開ける。が、シュートはDFの足に当たってしまう。

こんな攻撃をつづけざまに受けてはたまらない。MANUが巧妙なのはキーンやDFが交代するかのように攻め上がって来るので、自然と攻撃にリズムの変化が生まれ、しかも他のプレーヤーは一息入れられる。

そういうわけで、ベッカム→ロイ・キーンからニッキー・バットが同点ゴール、3分後にはヨークのシュートの跳ね返りをシェリンガムが逆転ゴール。あのドレッドヘアの先制も、MANUの試合を盛り上げるための引き立て役にしかならなかった。

その後もMANUはゲームを完全に支配。とは言いながら、けっこう危ない場面もあって、そこでリスクをおかして攻めなくてもいいだろう、リードしているのに、と思ってしまう。まあしかし、そのまま2−1で試合は終わり、人々は幸せに家路についたのであった。めでたし、めでたし。

(後日注:12日朝のBBCニュースで判明。ミドルスブラのドレッドヘアはカランブーだった。そうだそうだ。私は彼がレアル・マドリッドにいたときに生で見ているのになあ。すまない、忘れてしまって)

MANCHESTER UNITED 2−1 MIDDLESBROUGH

photography and text by Takashi Kaneyama 2000

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