BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
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11月25日・オクスフォード「オリーヴおばあちゃん。」

雨中の散歩。

実は今日が最後の滞在日だったりする。ふうん。思わず帰りの航空券の日付けを確かめた。やっぱり26日発だった。そうか。

朝食のあと、晴れではないが雨でもなかったので、ウォーキングを決行する。ここから歩いてオクスフォードの中心部へ向かい、川べりの公園を散歩するプランなのだが。

まずはオクスフォード・ユナイテッドのスタジアムに寄り道。今日の試合は3時かららしい。Division Twoということは、3部ということだ。


今日の試合はNotts Countyと。

それはともかく、さらに西へ。私がついついフラフラとバスを降りたあたりに来た。

そうこうするうちに川のせせらぎが聞こえて来たので道を北側に逸れる。小さな橋を渡ると、そこはAngel & Greyhound Gardenという公園だった。

いったんメインロードに戻ってから、Rose laneに入り込むとChrist Church Meadowsだ。川は増水し、白鳥が佇み、ジョギングする若者が行き交う。ちなみに、この時点ですでにかなりの雨が降っていたが、フードをかぶればなんとかなる程度だった。

川沿いの雑木林、瀟洒な橋、芝生の向こうにそびえるChrist Churchの塔。天気の穏やかな暖かい日にはものすごく気持ちのいい散歩道だろうが・・・。雨はだんだん土砂降りになってきた。

白鳥が2羽、撮影している私の方にすーっと寄って来た。「おお、白鳥にも私のフェロモンが伝わるのか!」と思ったら、単に岸辺に餌を漁りに来ただけだった。ヌカ喜び。

駐車場の裏口のような出口を抜けたら<Alice's Shop>の前、パブHead of Riverのところだった。ここから南へAbington Roadを下ると、前回滞在したFalcon Hotelだ。おお土地勘は鈍っていないぞ。

さびれかけた博物館で。

雨がひどいのと、いい加減濡れて来たのでMuseum of Oxfordに入る。古いタイプの博物館だ。ここの注目は展示解説パネルの日本語訳がものすごくズサンなことで、誤字・誤訳のオンパレード。たまりかねて訂正した訳文をパネルに落書きしている人がいて、そっちの方がはるかに正確だった。ワハハハハ。誰か教えてやれよ。可笑しいのは、アラビア語訳でも誰かが訂正の落書きをしていたことだ。よっぽど予算がないのかもしれない。

展示自体はけっこう面白いし、Carfax Towerでかつて時を告げていた人形もここにいたし、場所もいいのだからリニューアルすればいいのに。それにしても、オクスフォードが宗教改革と清教徒革命をノホホンと乗り切って、プロテスタントにあっさり変わる節操のなさというかプラグマティックなあたりが興味深い。

最後にはミレニアム企画なのだろう「写真で残そう20世紀」のような展示があった。ふと見つけたこの写真には、こんな手紙がついていた。

これは私の父モーリス.バウエルが15歳頃、1943年あたりの写真です。父は1945年に横浜港に占領軍の一員として上陸し、「連合軍に降伏するよりも・・・」と、次々と崖から飛び下りる人々を目撃しました。しかし、東京の街では「LIberator」として歓迎されたそうです。父は1994年に亡くなりました。おそらく、広島に派遣された際の放射線障害がもとではないか、と思われます。

日和見に走る。

外に出たら、雨がやんで・・・いなかった。VirginやWHSmithに入ってみたりしつつ、雨がさらに激しくなるだけなのでバスで帰ることにする。Oxford Unitedの試合を雨中で観戦する元気はない。

途中、ケバブ屋でテイクアウェイを買う。部屋に戻って濡れた衣類を乾かす。3時からプレミアの試合を見ようか、と思ったらスカイ・スポーツは入っていなかったのでBBCでラグビーのオーストラリア対ニュージーランドを見る。熱いコーヒーを自分でいれる。さらにホットチョコレートも作る。ぬくぬく。明日帰国便に乗るという緊張感がまったくない。

さて、6時半近いので出かけようと思ったら、PowerBookのトラックパッドが効かなくなった。クリックは機能するのでフリーズではないのだが。結局強制再起動を繰り返してなんとか正常終了させる。慌てて飛び出したが、こういう時はバスがなかなか来ないのだ。おおおーーーい。

合唱のコンサートで。

それでも7時15分、開演15分前には演奏会場のUniversity Church of St. Mary The Virginに到着。最前列に席を確保。ほっとしていたら、隣のおばあちゃんに話しかけられた。これが、一見してただのおばあちゃんではない。女学校の校長みたいな背筋のきりっとした人である。始まるまで、植物園の歴史やラファエル前派やチョーサーについてお話。チョーサーを知っているどころか、好きだという。ううむ、やはりただ者ではない。

コンサートはオクスフォード大学出版局のアマチュア合唱団が、ニューヨークの合唱団とジョイントしてやるもので、オーケストラは小振りの室内編成。思わず某老舗出版社の合唱部を思い出してしまった。

最初にパーセルの小曲、つづいてFinziという英国の作曲家の作品。ここで今度はニューヨーク合唱団のメンバーだけで黒人霊歌のナンバーを繰り出す。この指揮者が秀逸で、いかにもアメリカ人らしい屈託のなさで聴衆を巻き込んでいく。最後には、聴衆にも一緒に歌わせるのだ。そのために楽譜も配り、コンサート中に練習しちゃう。この演出は幕間の歓談でも話題の中心で、かなり好評(というか、そういうことをあまりこちらではやらないらしい)だった。

さて、メインはハイドン。かなり長いのだが、緊張感を持続してなかなかのもの。私はといえば、目の前30センチにソプラノ独唱者の大きな胸が迫ってきて、緊張感を持続せざるをえなかった。なんか、音楽を聞くより視線のやり場に神経を使ってしまった。

最後の夜にすごい人に出会った。

終了後、おばあちゃんに名刺をお渡しし、おばあちゃんは紙切れにアドレスを書いてくれた。お名前はDr. オリーヴで、やはり先生、しかもサマーヴィル・カレッジの先生だった。それも博士。住所なんか、「オクスフォード、サマーヴィル・カレッジ」である。大変すばらしい人とお知り合いになってしまった。

土曜日の夜。人気のクラブの入り口には行列が出来ていた。ディナーを楽しむ人々、家路を急ぐ人々、友だちとはしゃいで騒ぐ人々、いつまでも道で話し込む人々。

私は、止まっていたバスに駆け込んで「Headington Post Office.」と言い、1ポンド貨で10ペンスのおつりをもらいながらレシートを引きちぎった。

私は帰っていく。とりあえずは宿へ。そして家へ。homeって何だろう? 本当に帰るところはどこなのだろう?

photography and text by Takashi Kaneyama 2000

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