BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIALスペイン蹴球紀行
CONTENTS
3月23日-25日/バレンシア→マラガ
アンダルシアの猫

3月23日(木)

朝の6時半にチェックアウト。タクシーで空港へ。チェックインしたら「1時間遅れ」と言われる。今度は座席指定である。ジェット機だろうか? と思ったが、さらに小さなプロペラ機。しかもスペイン製。世の中には知らない方がいいこともある。

無事にマラガに着陸し、迷ったがなんとかバス乗り場に。30分待って、さらに30分後にホテル着。

ばかでかいホテルで、大通り、港が目の前というロケーション、しかも警備員がドアを開けてくれる。とにかくチェックインする。部屋がまたすごい。モデムポートと電源がベッドサイドとテーブルの両方にある。石鹸からひげそりからコロンからバスローブから、いやはや。

で、さっそく乾かなかったせんたくものを干す。このへんが、にわかブルジョアである。

出かける。ピカソの生まれた家。無料だから文句は言わない。またボールペンで模写してしまった。しかし、ピカソの線画はむずかしい。

市場へ。バス・ステーションへ。その途中にインフォメーションを発見して、スタジアムの場所とバスを聞く。マラガのツーリスト・インフォメーションはなぜかみな全部スペイン語である。17番で10分ほどらしい。

バス・ステーションにて、とにかくネルハとミハスへのバス時刻表をゲット。ネルハは印刷した時刻表があったが、ミハスは、窓口のにいさんが、彼の横の壁に貼ってある手書きのメモを見ろ、ってことである。ううむ。タフだ。

戻る途中の中華料理店でランチ。595ptsのmenu del dia(定食)にビール。

ここでホテルに帰ればいいものを、港で遊ぶ。客船が停泊している。

ヒブラルファロにでも行くかと、バス停を探すが見つからない。これも神のおぼしめしかと思う。もっと修行せよ、もっと歩け、もっと苦労せよ、ということだろう。歩き始めたら、目の前でタクシーを降りるカップル。これもきっと神のおぼしめしと思い、乗る。ときには神様も優しいのだ。しかし、そのうちバチが当たるような気もする。

ヒブラルファロに着いた。ここは、とにかく絶景である。夢中で写真を撮っていたら、雨である。しかたなく山を降りることにするが、バスは40分後。今度は、歩く。途中、猫ちゃんに写真を撮らせていただく。


シャイなのか、からかっているのか、手練手管なのか、
アンダルシアの猫はじらすように少しずつ逃げていくのである。
男心の辛さを味わう。

気がついたら、海沿いの歩道に出ていた。


浜辺では、少女が貝を拾っていた。

ま、はっきり言うと道を間違えてものすごい遠回りをしたのであった。結局、ホテル前に辿り着いた時には1時間半たっていた。

そのままホテルに戻って休めばいいものを、スタジアムに行こうと17番のバスを待つ。雨が激しくなる。まるでスコール。バスに乗る。スタジアムの名前はRosaedaとかいうのだが、次はAv. de la Rosaedaという表示が出たので降りた。早いな、とは思ったが。で、やっぱり早すぎたのである。

すごい雨なのでどこかの戸口に雨宿り。なんでコスタ・デル・ソルに来て雨宿りなんだろー。小降りになったところでタクシーをつかまえる。バスに乗ろうにも、小銭が尽きてしまったのだ。すぐだった。十数人がぞろぞろ、うじゃうじゃしている。土曜日のチケットを売っているようだ。なにしろ西日がきつい。夕方5時のキックオフなので、とにかくソンブラ(日陰)にしようと聞いたら、「Tribunal」だという。そこの窓口で、1枚。「Central?」と聞かれたので、「Si.」と答えると11列の5番、これでいい? と言われた。が、そう言われてもわからんので、いい、と言ったら14,000ptsだった。げげげげげ。でも、ブルジョアになりきるからいいや。日本円で9,333円。やっぱり高いか。

ちなみに、ここはすでにプリントアウトされたチケットの束から選んで売る方式。昔ながらのものである。Tribunalの他に、Preferencia、Gol、Fondとある。それぞれ、メイン、バック、ホームのゴール裏、アウェイのゴール裏に相当するようだ。わかんないけど。

しつこい物乞い。喜捨は富の再分配なのか、モラルハザードを助長するだけなのかについて若干の考察(この項は改めて詳述の予定)をめぐらししながら帰る。

チケットもゲットしたし、さあ帰ろうと信号を待っていたら、前のおばさんが振り向いて、後ろを差し示し、右腕で大きい半円を描いた。振り返ると、その方向には虹がかかっていた。さあ、写真を撮りなさいよ、と身ぶりで語りかけて彼女は去っていった。

少し行くと、小さな空き地で子どもたちがサッカーをしていた。少し大きな子どもがゴールキーパー兼コーチ。彼らはリバウドやラウルに憧れて、いまは無心にボールを追いかけている。

気がつけば、雨はやんでいた。

3月24日(金)

7時半という、スペインでは法外な早起き。すばやく身支度をして荷物を片付け(PowerBookの配線もしまうのだ)、7時45分にはホテルを出る。

月が出ていた。もちろん、朝日も出ている。海に広がる朝焼け。

バス・ステーションへ。歩いて20分。ネルハまで465pts。なんと、乗ったのは私ひとりである。大丈夫だろうか? と思ったら、次の停留所で数人乗った。で、そこは私の宿泊しているホテルの真ん前であった。しかもチケット売り場まである。ううむ。20分、ムダに早起き、ムダに歩いたか。

海沿いの道をバスはひた走る。

ネルハ。「フリヒリアナへのバスはどこ?」とドライバーに聞くと、道の向こうを指差す。そこにはチケットボックスがあったが、そこのおじさんは「次は12時」という。目算がはずれた。10時前にネルハに着けば接続するバスがあると思ったのに。

でも、いいのだ。それでは「ヨーロッパのバルコニー」を見に行こう。そして、さっそく迷った。

あまり人も行き交わないので、散歩するじいさんに道を聞く。

「ついてこい」
「スペイン語はしゃべれるかね? わかるのか? わからないのか。ふうむ」
「ここじゃ」
「この道をまっすぐ行って、最初の交差点は・・・渡らない。二番目も・・・渡らない。三番目も・・・渡らない。まっすぐじゃぞ。いいかね」
グラシアス、ムーチャス・グラシアス。

で、無事にツーリストの流れに乗ってヨーロッパのバルコニーへ。いやはや。たしかにすごい眺めだ。後ろは山、前は海、両脇は浜辺や岩場。かすかな波音。ここで、テラスでワインでも飲むのがブルジョアなのだが・・・写真を撮っただけである。


実は、これでパノラマの8分の1くらい。

さすがに2時間も暇をつぶせず、バス停手前の公園のベンチでぼーっとする。

さっきのチケットボックスに行ったら、フリヒリアナへの切符はバスで買え、という。「いけっ・おん・ぶす」が「ticket on bus」という英語だと気づくのに0.37秒ほどかかった。

タクシーで行っても15分かからないだろーが、他の西洋人ツーリストもわからずに右往左往しているので一緒に待つ。バスがやって来たら、どこからか湧いたように人が集まってきてバスは満員を通り越して立っている人まであり、それでも乗り切れない。もっとつめればいいのだが、この人々はこういう混雑の経験がないのであろう。それでもなんとなくみんな乗って出発。

着いたとたんにツーリストは「まず一杯」で、カフェというかバールは大忙し。眺めのいい店、ってのがたくさんあるのであった。私もセルベッサとボカディーリョ(サンドイッチ)。意外に普通の値段である。

ここはいわゆるアンダルシアの白い村。とにかく上をめざす。街路が途切れて山道になった。しかし、向こうから降りて戻って来る人々がいる、ということは何かがあるんだろう。いったい何があるんだろう?

狭い道なので、少し余裕のある地点まで戻って道を譲る。笑顔、笑顔。

さて、どこまで登るのやら。眼下には白い村の屋根。遠くには海。足元には野の花。

そして、着いたところは眺めのいいバールなのであった。しかし、テラス席が空いていないので、柵のそばで眺めを楽しむ。

その裏手は山。深くもないが谷。岩山に近いやせた土。少し奥に行くと牛糞のにおいがする。

山道を降りる。いかにも白い村。

猫がいたが・・・じらすように逃げて行った。

小さい男の子(推定5歳)が怒られていた。「もう、またこんなに汚しちゃって!」そばでさらに小さい女の子(推定3歳)が待っている。やがて放免された男の子に女の子が手を伸ばす。男の子はその手をしっかり握って、「さあ、ついて来いよ」ってなもんである。

じいさんが小さなバケツをふたつ持って、長い階段の途中で大声で呼ばわっている。やがてレスタウランテからおばさんが出て来た。魚売りだ。


花を撮っていたら、サングラスの少女が通り過ぎた。
街全体がシエスタのような昼下がり。

白い壁、赤茶色の屋根、草花が飾られた窓。生活が見せ物になることに、複雑な感情もあるのだろうか? と思うが、とにかく村人はそんなことにはかまわず、たくましくパワフルなのであった。

休む。眺めのいいバール(さっきとはまた違う)のそばで石のガードレールに座って脚のストレッチングをする。足をそらせて腱を伸ばすと、すごくよく効く。歩いてはいるが、体操はしていないので、体が固くなっているのかも。

バスを待つこと小一時間。今度は全員座れて帰る。ちなみに、英独の人々はきちんと並ぶが、その他は頓着しない。元気なばあさんなんか、レディー・ファーストをフル活用して堂々と割り込み、じいさんにたしなめられていた。それでもどうにか事が運ぶのだ。時間通りではもちろんないが。

ネルハに戻って、今度は洞窟だ。バスのチケットを買う。わずか105ptsだ。で、また1時間近くあるので散歩しようとしたら、チケットボックスのおやじが青くなって呼び止めた。
「そっちじゃない。向こうだ」

バス停の方向が逆だ、と教えてくれたのであった。

やがてやってきたバスは「洞窟へ行かない、5分後の次のバス」という。まあ、5分もせずに次のバスが来たが。乗ったのはわずか4人。そして洞窟へ。ここはガイドツアーではなく、自由に見る。写真もいいようだ。少なくとも制止されなかった。ただ、いくらフラッシュを焚いてもこの雰囲気を再現するのは難しい。

ここのウリは、ものすごく高く深い地中の空間である。SFホラーで、地底人の宮殿って感じ。あるいは「エイリアン」で最初に卵があった、宇宙船の不時着場所のグレードアップ版。そう、H.R.ギーガーの世界を巨大な空間に繰り広げたようなもの。人間の矮小さを感じる。

なお、洞窟内で、突然写真を撮られる。出ると、「あなたの写真、500ptsで買わないか?」という手口である。なんか、公的にこういう商売をするのもどうかと思うが、つい買ってしまう。だって、333円なんだもの。

そして、またもやバス待ち。テラスで日記を書き、写真のチェックをし、猫を追いかけてもまだ時間がある。やがて、待っている人もいなそうだったので、心配になってこの時刻のバスが運行しているか、ツーリスト・インフォメーションのスタローン似のおにいさんに確認。確信をもって「走っている、あそこで待てばいい」。今日はバスを待つことで一日が過ぎて行く。

そして18時30分、バスがやって来た。いやあ、よかった。あとはこれでマラガまで帰るだけだ。左側に座れば海が見える。正面から西日が刺す。海に陽光が映えて・・・いたらしい。だって寝ていたから。

着いてからエル・コルテ・イングレスの地下で買い物。夕食と朝食用にcavaのハーフボトル、ラム&コークの缶、ミックスジュース、スモークサーモン、コーン缶、スモモ、キウィ、サンドイッチ三種、デザートのチョコレート。うふふ。

3月25日(土)

ミハスに行く、というプランもあったがあっさり放棄。

結局WEB作りとアップロードに11時過ぎまでかかった。

ホテルから外に出ようとしたら、黒山の人だかりで警備が厳しい。つまみ出される者も。サインねだりとカメラ、バルサのユニフォームを着た子ども。おお! 昨日、セレブリティ? と思ったのはFCバルセロナだったのか?

で、いちおうアルカサルに行くが、30分でホテルに戻り、警官(がけっこう来ていたのだ)に聞くと、イエス、バルセロナ、フッボル・チーム、ということなのであった。そうか、リバウドやクライフェルトと同じホテルに泊まっていたのか。

しかし、私は観光客なのでカテドラルに行く。キリストの磔刑の山車を飾り付け、整備している。お祭りがあるのかもしれない。ちなみに、マラガの観光ポイントで有料だったのはここだけであった。

後ろ髪をひかれてホテルに戻る。私は宿泊客なので、もちろん中に入れるのだが、人込みをかきわけるのに苦労する。で、ロビーにもホールにもペンやカメラを持った人がエレベーターを注視している。ソファでくつろぐ。私もここで選手を待とうかな? と思ったが、そのうち眠くなってきたので、なんかアホみたいだし、部屋に戻る。で、戻ると眠くなかったりする。ラムコークが冷蔵庫でよく冷えていえる。う、うまい。

外には出たものの、しかし、食欲がない。そういうときに店を探しても気分が出ない。2時を過ぎると、街全体がシエスタに入る。バールだけが活気を呈している。路地をさまよう。おお、日本語だ、と思ったらファイナル・ファンタジー7のポスターだった。

ううむ。で、結局ホテルに戻ってひと風呂浴びて、スタジアムへ出かける。ブルジョアだからタクシーで行く・・・にも数人がタクシー待ちをしている状態だったので、バス停まで歩く。今回はマラガのマフラーを持った(さすがに首に巻くと暑い)人々についていくだけだ。

キックオフ30分前に到着。オフィシャルショップでマフラーを買うのに5分もかかる。とにかく、割り込み以前に自己主張して店員の注意を引き付けた者が勝つ世界。

というわけで、スタジアムを4分の1周して自分の席を探し当てたときには選手の練習が終わるころだった。その席というのが・・・メインスタンド中央、下段の一番上(その上は貴賓席)という、いい席というよりは、こんないい席をふらっと来た日本人に売っていいのか? という極上の席であった。目の前にはセンターラインがまっすぐ伸びている。

近くのおじさんにチケットを見せて「この席でいいんだよね?」「ん? おお。そうだ、ここだ」

前半、幻のゴール。そのあと、本当にゴールして1-0でマラガがリード。

ハーフタイムには、さっきのおじさんが「おまえはマラガ応援しているんだよな?」と私がさっき買ったマフラーを引っ張って確認する。なので、マフラーをかかげて「Malaga!」とやって周囲に大受け。

あともう少しで勝てる、という時にフィーゴのFKからヘッドで合わされて同点。そして疑惑のPKで逆転されてしまう。場内騒然。がぜん警備が緊張する。貴賓席に向かって抗議なのか悪態なのか、とにかく罵詈雑言の嵐。

歩いて帰る道で、山車の行列に出会った。


磔刑へと引かれていくイエスを模した山車を、
白い頭巾をかぶった信者がかついでいく。

text by Takashi Kaneyama 2000

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