BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL EURO2000への挑戦
CONTENTS
6月3日-5日/アントワープ→デルフト

6月3日(土)

羊の日

メールの返事を書くが、今日はカプラーでもつながらない。

ゲントへの往復を買い、ホームに上がったら、ICが出発直前だった。すでにドアは閉まっていたが、旗を振って笛を吹いている車掌のところから乗せてもらう。

ゲントに着くと、トラムと徒歩でまっすぐにシント・バーフ聖堂をめざす。ファン・アイク兄弟の≪神秘の仔羊の礼拝≫という祭壇画を見るために。前も、ほぼこの作品のためだけに、この街に来たのだった。しかし、集中して見ると疲れる。さすがに40分もずっと見ていると。

ファン・アイク兄弟とシント・バーフ聖堂中央のふたりがファン・アイク兄弟。

橋を渡って散歩する。日陰が気持ちいい。頭蓋骨が熱を持っている感じ。日射病寸前かと思い、小噴水で顔を洗う。今日に限ってミネラルのボトルを忘れてきてしまった。

辛いので、涼しいところで休んだり、トイレに行ったが直らない。すごく気持ちが悪い。"Quick" に入ってコカコーラ・ライトのミディアムを買う。いつもなら炭酸飲料など飲まないのだが、あっという間に吸収してしまい、瞬く間に生き返った。単に脱水症状だったらしい。

FNACで3時からライブがあるようなので入ってみる。IALMAというグループで、サンチャゴ・デ・コンポステラの伝統音楽の系統のようだ。6人の女性がタンバリンのような打楽器と地声でのコーラスを繰り広げる。このライブではバックにバイオリンとコントラバスがついた。場合によってはトランペットも加わるらしい。

IALMAこの6人がIALMA。

たまたまにしてはけっこうよかった。なにしろ小さな会場だったし。TowerやVirginのストアライブみたいなものだ。

元気になったので、駅の方向へ歩く。ゲント美術館に寄ってボッシュ≪十字架を担うキリスト≫に再会する。ここではゲントの祭壇画の写真コピーをパネルで展示していた。これで細部を見ると驚く。合唱する聖女たちの服の模様、床のタイル、寄進者たちのマント、これでもか、というほどの精緻な写実、深く秘められた謎、たたえる静謐。やはりすごい作品だ。しかも、羊へのこだわり。

アントワープに着くと雨が強くなっていた。

プレメトロに乗ってフルーンマルクトへ。昨日スーパーで買った食料があるので、サンドイッチかハンバーガーか・・・ピタがあればいい。雨の中、持ち帰りのできるピタ屋を探す。やっと見つけてピタ・ケバブ180BF(つまりは羊肉サンド)を持ち帰りにしてもらうが、雨がますます強くなる。小走りでホテルまで戻る。ついに雷まで鳴り、屋根のある公衆電話に避難する。そこでインド系のおじさんに英語で駅までの道を聞かれる。「歩いたら40分、プレメトロで行った方がいい・・・」

しかし彼は歩き出さず、なにやら不穏な気がしてきた。自分で決めた5分のリミットもたったのでホテルまでまた小走り。濡れネズミ状態で帰還。

6月4日(日)

勘定できないオランダ娘

今朝も通信はつながらない。オランダに入国する日だというのに。アムステルダム行きICは1時間に1本、毎時26分に発車。通信をあきらめて7時35分にはフロントでチェックアウト・・・がなかなかできなかった。

まず、電話代の計算ができない。というより、機械の操作法がわかっていない。きわめつけは、デポジットで600BF払ってあるから引いてくれ、と念押ししたのに、デポジットの意味を知らない。担当は初日に「外線はダイヤル9」と間違いを教えてくれた娘だった。結局マネージャーや同僚の応援を得て正しい精算に到達したのだが、そこで貴重な15分が失われた。でも、この娘は悪くない。必要な知識も訓練もなしで現場に出したマネージャーが悪い。

しかし、徒歩とトラムでアントワープ中央駅には8時23分に着いた。こうなるといちかばちかで走る。切符売り場で「Delft, one way please!」と言ったらゲント行きの切符がきた。「違うよ。デルフト!」と言ったら「Internationalはあっちだ」。慌てて横移動してやっと買えたときには、ちょうどディスプレイから"0826 Amsterdam IC"が消えていた。昨日みたいなこともあるかと思い、ホームまで上がったがすでに列車は出ていた。ぜいぜい。全荷物をかついで走るのはけっこうこたえる。

このあとホームで約1時間待ち、違う列車に乗っておろされたりしながら、なんとか正しいアムステルダム行きに乗り込み、ロッテルダムで各駅停車に乗り換え、デルフトに着いた。

まずは駅のすぐ外のVISAでキャッシングして、オランダギルダーを入手。ツーリスト・インフォメーションであるVVV(フェーフェーフェー)をめざして歩く。そこでホテルを3泊確保し、地図(有料)をゲット。

ホテルまでまた歩く。しかも道を間違えた。運河沿いの大きなホテルで、運河と正面に面した角部屋、そして大きな机と天井まである戸棚、肝心な電話。なんかデザインが幾何学っぽくてモンドリアンの国を思わせる。

デン・ハーグへ列車で向かう。

日曜日なので、デン・ハーグのインフォメーションは閉まっている。顔写真を駅構内で撮影する。コインの入れ方からわからない。オランダ語を解読しつつ、なんとか白黒(小)4枚をゲット。椅子の高さを調整しなかったので上目遣いだが。

一路マウリッツハイス美術館へ。入り口がわかりにくく、閉館しているかと思ってしまった。ここでイヤーリー・カールト(オランダ各地の博物館・美術館で1年間有効なカード)を作る。このカードのために写真を作ったのだ。切符売り場の親切な白髭のおじさんにハサミを借り、記入事項を教えてもらいながらカードに書き込み、写真を貼る。これで55G、だいたい5館以上入れば元が取れるから、私のような者にはかなりお得である。またオランダに来る理由も出来たし。

さて、ここの最大の目玉であるフェルメールの≪青いターバンの少女≫はいま、大阪にある。フランス人の団体が来て、ガイドが「この絵はいま日本で展示されています」というと悲鳴とブーイングとため息があがった。思わず「すみません、すぐ返します」と謝りそうになったが、誰も私を日本人だと思っていないようだったので黙っていた。

それでもまだここにはフェルメールの≪デルフトの眺望≫と、≪ディアナとニンフたち≫がある。とくにこの≪デルフトの眺望≫こそが、私が来た目的なのだ。

外へ出て、サーディン・サンドを買って食べる。ハーグ市立美術館へ。エッシャーのオリジナルのエッチング展示があった。かの有名な無限階段や自分の手を描く手やメタモルフォースや、代表作のほとんどすべてを網羅するコレクションで、これだけで興奮してしまい、展示の最後のショップでカードやTシャツを買い込む。

Tシャツはミュージアムショップに最後の1着があるからそこで買って、と言われて行った。ここのレジの娘が異様に数字に弱く、32.5Gの買い物に50G札を出したらおつりに10G札と25G札をくれようとする。違うだろう、と言うと彼女はやり直しをするのだが、どういう回路になっているのか、また同じように過大なおつりを差し出す。オランダ人でも勘定に弱い人は実在した。

展示に戻ってモンドリアン・コレクションへ。有名な樹木を描いた連作が抽象へと向かうのがよくわかる。なかなか気に入ったので、またもやミュージアムショップに寄ってカードを買い込むが、9Gに100G札を出したらさっきの彼女がまた頭を抱え込んだ。

デルフトへ、もはや慣れてきたSneiltreinで戻る。

ビストロを名乗る店で魚を食べようと入った。英語のメニューもあったが、お得なコースはオランダ語だけだったのでウェイトレスが英語で説明してくれて、結局そのなかからアスパラガスのスープと鱒のグリルにする。パンについてきた香草バターもおいしかったが、驚いたのはメインの鱒についてきた付け合わせの野菜が三段重ねだったことだ。上はブロッコリー、カリフラワー、チコリのボイル。中はポテトのカレー味ロースト。下はイチゴとクルトンが入ったグリーンサラダ。

野菜の三段重ねブロッコリーは食べてしまって、もうない。

6月5日(月)

フェルメールの街歩き

朝には通信のテスト。一発でつながった。いつもこうだといいのだが。今回はメールだけ。アントワープでおととい書いたメールをやっと送れた。

朝食込みの料金なので、しっかり食べる。外は寒く、ずっとまくっていた袖をおろして長袖にする。月曜日はほとんどの美術館が休館になるので、今日はデルフトの市内を散歩してから、またデン・ハーグにでも行くつもりなのだが。

まずは新教会へ。ここのショップで『デルフトのフェルメール』という本を見て、「あ、そうだ。生まれた家とか絵の場所とか見なくっちゃ」とようやく思い出し、VVVへ行って英語版の『フェルメールの足跡を訪ねて』というパンフを買う。これにしたがって19のポイントを順番に回ることにする。

4番目で雨がひどくなり、ホテルに戻ってジャケットを着る。傘はないが、防水でフードもあるのでしのげるはずだ。生まれた家、≪小路≫が描かれた場所、父親の生家、住んでアトリエとした家・・・の、それぞれ「あったはずの場所」をめぐる。建物はもちろん変わっている。

デルフトの小路ここがあの≪小路≫だと言うが・・・

旧教会はまだ修復中。雨の中、運河の街の迷路をさまようのも一興か。もう繰り返したくないが。とにかく、午後1時45分、全19ポイントを回り終える。しかし、たった一つ残ったエクスカーションがあった。それは≪デルフトの眺望≫が描かれた場所。

デルフトの眺望いまの≪デルフトの眺望≫。

さて、運河の景色と新教会の塔以外はまったく違う、と言ってもいい。なぜか石のベンチもあるが、なんのインフォメーションもなく、本当にここかと不安になる。が、たぶんほとんど間違いなく、ここだ。

デン・ハーグへ。まずはVVVで地図と交通路線図をゲット。どちらも有料。で、メスタグ・パノラマは月曜も開いているという情報を頼りに訪ねたのだが、閉まっていた。掲示には「開館:火曜から日曜、12-17」とある。ああ、やっぱり嘘つきの某ガイドブックめ。

トラムでスケフェニンヘンへ。雨で寒いとなればさすがにほとんど人はいない。寂しい浜辺だ。パノラマを撮っていたら電池が切れてきたので取り替えた。次は最初から電圧が低く、あっという間に取り替えるはめになり・・・ついに電池の予備が切れた。持参している4セットのうち、昨日使った分は未充電だったので3セット持ってきたのだが、予備の2セットは放電していたか、充電不足で役立たず。

スケフェニンヘンの浜辺電池が切れる直前は海の上で撮影。

そういうわけで、今日はこれから撮影はなし。それはそれで、こころおきなくシーズンオフの海岸を楽しめる。カイト(凧よりも戦闘的)を揚げて回転させる少年。この寒いのに靴を脱いで海水に膝までつかるひと。なぜか数分間抱き合ったままの若い女性ふたりのペア。

トラムで駅まで戻る。途中、マドゥローダムに寄ろうかとも思ったが、別に行きたいところでもなし、見送る。そのままデルフトに帰る。

ホテルへの途中にスーパーがあったので買い出し。くるみ入りサラダ200g、炒めビーフン350g、肉団子280g、メロンサラダ、牛乳500cc、ワイン250cc、チョコムース200g。これで約800円。しかも、部屋の湯沸かし器で肉団子を袋ごとボイルし、そのお湯でビーフンを温めようという魂胆である。味の補強には大韓航空のコチュジャンがある。なんて完璧。

ところで、モロッコでは日本がフランスにPK戦の末に負けたらしい。

photo & text by Takashi Kaneyama 2000

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