BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL EURO2000への挑戦
CONTENTS
5月28日-30日/パリ

5月28日(日)

起きない男

とくに何の予定もない。早朝、思い立って髪をばっさり切った。爪も切り、髭も整える。部屋を変わらないといけないので、荷造りしてから下へ降りる。すると愛想のいいマスターが、「部屋は変わらなくていい、あ、朝食も込みです」と仏・英・日混じりで伝えてくれた。ふうむ。昨晩、部屋を取ってくれた爺さんは片言の英語だったが、この主人夫婦は英語は完璧、日本語まで話すのであった。

カルネを買ってルーヴルに行ったら長蛇の列だったので、その行列を撮影してから歩いて河岸を東へ。鐘が聞こえたのでノートルダムの方へ曲がる。そういえば、映画「アルマゲドン」で隕石に吹き飛ばされた怪獣はノートルダムだったろうか? タワーに上れば至近距離から見られるかもしれない。

タワーの方も行列で、40分も待って螺旋階段をひいこら昇る。怪物たちと対面。物憂げに頬杖をつく怪物クンがやっぱり一番人気。

ノートルダムの守り神憂いに沈む悪魔

セーヌの北側を歩くとローラースケーター多し。バスティーユへ。惣菜屋、八百屋が並ぶ。こういうところのメシはうまかろう、とPlat du Jourで羊を食う。なぜかワインをいろいろ聞かれた。そんなに高い店じゃなし、ハウスワインでいいよと言おうと思ったら、実はそこはワインバーなのであった。

オペラ座は日曜は休み。チケット入手は明日だな。

シャトレーまで戻り、ポンピドゥー前のストリート芸を見ていたら豪雨。外にいた全員がセンターのなかへ殺到する。そういうことであれば、とチケットを買って上へ。ブラッサイ展をやっていた。ルオーの≪ヴェロニカ≫とも再会。改装されて、巨大なインスタレーションやマルチメディアにも対応し、産業製品も展示されている。ヴェスパ、オリヴェッティ、ソニーもあるのだ。

約束の時間になり、マダム宅へ。刺身も含めた料理の数々もさることながら、ワインはニュイ・サン・ジョルジュとポマールを堪能。昔答案をまるごと回覧するというカンニングをさせてあげたおかげで歓待を受けているらしい。

そのまま不覚にも爆睡。「起きなさい! どうするのよ!」「いや、そういう問題じゃないんだ・・・」

5月29日(月)

憧れの白アスパラガス

というわけで、今日はマダム宅で昼食を作ることになる。

いったんホテルに戻ってから突然思い立ってスターリングラードまで散歩しに行く。それからバスティーユのオペラ座に行って今晩の「ドン・ジョヴァンニ」を買う。やはり売り切れだったので、ダフ屋から値切る。400FFを320FFにさせた。本来は220FFの席だからこんなものか。

それからマダムと乳母車と共に買い物。ムフタール市場が月曜で休みなので"Champion"へ。白アスパラガスが、あまりに太くゴツイのでウドに見える。その他ポワローや巨大ピーマンやズッキーニなど、安いのに興奮する。

料理はゆでた白アスパラにトマトとモッツァレラをあしらってレモンと塩。メインはオッソ・ブーコもどきで、仔牛の骨付き肉をポワローやズッキーニと共に赤ワインで煮込む。パリで料理できるとは思わなかった。マダムは「料理は全部作ってくれる」という約束で結婚したそうである。ちなみに、ご主人の職業は料理人。というわけで、私の「ローズマリーどこ?」という質問に「え? ゴムマリ?」とぼけてくれるマダムなのであった。

昼食のテーブル白アスパラとオッソ・ブーコもどき

「ドン・ジョヴァンニ」の前にホテルに戻ってひと眠り。スーツもネクタイもないが、まあいいだろうと思って行ったら、問題はなかった。どうせひとりだし。心配された爆睡の再発もなく、建築も内部から見られたのでよしとしよう。

5月30日(火)

雨に煙るランス

朝から、けっこうな雨だった。傘なしでランスへ向かう。Gare de L'EST(東駅)から1時間半。以前来たときには修復中で≪ほほえむ天使≫の像の部分が見られなかったのだ。

駅からカテドラルへ。修復は終わっていたが、柵で近づけないようになっていた。

いったんツーリスト・インフォメーションでシャンパンのカーヴ見学について情報収集。予約なしで今から間に合いそうなテタンジェにしよう。歩くこと20分たらずで到着。英語かフランス語か、選択の機会があったのだが、英語だとあと30分待つので、とにかく早いフランス語にする。どうせわからない、という点では同じだ。

で、総勢5名で地下に降りる。もとは教会のクリプト、もっと前はローマ時代の遺跡だったらしい。例の澱(おり)集めの手回しや、テタンジェ一族の話を聞きつつ、膨大なシャンパンの眠る穴蔵をめぐるわけだ。

シャンパンのカーヴシャンパンの中を歩く

そして最後に試飲の一杯。帰りにはもちろんおみやげのシャンパンも買えるが、悪徳カーヴのように押し売りもどきのことはまったくない。しかし、配送の手配をしてくれないので、持ち帰るほかないので買うのはやめた。

そこからフジタ礼拝堂へ。道に迷いつつ雨の中を歩いたのに、門は閉まったまま、休館なのか昼休みなのかの掲示もない。どっちにしろ藤田嗣治という作家を好きになったことは一度もないので、なんの未練もなくカテドラルへ戻る。

大聖堂の中を見る、というよりは雨宿りに近い。ステンドグラスを愛でていく。シャルトル大聖堂の方がはるかに有名だが、こちらのものも悪くない。なのに、ここでは内陣裏のシャガールのステンドグラスの方に人気があるというのは考えものだ。しかもBGMまで流している。記念品売場はすっごく大きくなっているし。

ランス大聖堂、説教壇の鷲とステンドグラスランス大聖堂、説教壇の鷲

しかし、かく言う私もシャガールのステンドグラスのところでムービーを撮影し、記念に古地図とポストカードを買ったのであった。人間はしょせん、俗物なのだ。

パリに帰ってトルコ料理屋で羊のケバブ・サンドを買って持ち帰りにする。安くてうまくて量があって幸せな気持ちになり、そのまま寝る。どこかJazz Clubにでも行こうかと思いつつ、生理的欲求には勝てない。

zzz......zzz......

photo & text by Takashi Kaneyama 2000

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