大英博物館で 見つけた ビールパン







 皆さんの中にはイギリスに旅行されたことのある方もたくさんいらっしゃると思います。
 私も1995年秋にロンドンに遊びに行きました。

 ビール好きの私は、パブ巡りやBritish Aleを楽しむのが一番の目的でしたが、1日中飲んでばかりいても飽きてしまいますので、美術館や博物館巡りにも時間をさきました。

 ナショナル ギャラリーのすばらしい美術品に感動するとともに、入場料がタダというのにも再度感激しましたが、収蔵品の範囲の広さとある種雑然とした面白さがあるのは大英博物館でした。

 大英博物館の収蔵品ではマグナカルタの原本やロゼッタストーン・パルテノン神殿の彫刻群などが有名です。
 確かにこれらのものを見ていると大英帝国の栄光とイギリス人の収集好きについて、つくづく感心させられます。
 イギリス人は絵を描くのは下手だけれども、集めるのはプロだと云われるのもうなずけます。

 この博物館の中に、日本人にとても人気のあるエジプトのコーナーというのがあります。場所としては2F西側で、一般的にはミイラのコレクションの豊富さで有名です。
 包帯でグルグル巻きにされた何体ものミイラとその棺が大量に置かれており、’よく考えるとここは古代エジプト人の墓場のようなものなのだナー’等と考え込んでしまうような展示室です。


 実は私はこのエジプトの展示コーナーで、とても楽しい発見をしました。

 普通の人にとってはあまり大したものではないので、ガイドブックなどにも出ておらず私もその場に行って初めて見つけたものです。  でも、ビールの歴史に興味のあるあなたにはこの展示品の素晴らしさはきっと理解していただけると思いますので、是非お勧めしたいと思います。

 その展示物とは、紀元前1,900年頃のエジプト中王国時代のビールパンと、ビール作りをあらわした人形です。

(1)ビールパンとの初対面
 ビールパンとは、麦などの穀物をこねたものに麦芽を混ぜてパンにしたものです。
 もともとはパンとして食べていたものを、麦芽汁にして飲むようになったのがビールの起源だと云われています。
 エジプトやメソポタミアの時代、ビールとパンはもともと同一の原料から分かれた兄弟のようなもので、今日ビールの主要な原料となっている麦芽は、初めはビールを作るためのものではなく、パンに酸っぱい味を付けるためのものとして使われたようです。
(参考文献:ビールの文化史 春山行夫 平凡社刊)



   ビールの歴史をひもとくと、必ずと言っていいほどこの話しが出てくるので、
 私もビールパンについてはよく知っていたのですが、
 実は本物のビールパンというものを自分の目で見たことはありませんでした。
 日本のビールの歴史は、せいぜい江戸末期から明治以降の200年程度のものです。
 また、その時点でのビールの醸造法は既に近代的なものになっていた訳ですから、
 日本国内のビール関係の展示物をいくら探してもビールパンに巡り会える訳はないわけです。

 ところが、世界中から何でもかんでもとにかくいろんなものを分捕ってきて(たまにはお金を出して買ってきて・・)、整理して置いておくのが大好きなイギリス人の趣味のおかげで、私は大英博物館の一番奥の部屋でビールパンに出会うことが出来ました。

  (2F西側展示室は正面玄関から行くと一番奥になります)


コレが約4,000年前のビールパンです




(2)ビール作り人形
 次に面白かった展示品は、ビール作りの作業を人形で表現したビール作り人形です。

 日本でも酒作りの作業を描いた絵や絵巻物・よりリアル作業工程を再現した人形などを見かけることがあります。酒作りは日本人にとってとても大事な文化ですから色々な形で表現されていて当然だと思います。

 一方、ビール作りに関する作業について説明した絵や人形などと云ったものを日本国内で見かけるといったことはほとんどありません。
 ビール工場に見学に行ったときなどに見かける説明図の大半は現代の工業化されたもので、たまに古い絵などがあってもほんの雰囲気程度のものが多く、昔のビール作りの工程全体を一貫して見せてくれるようなものにはほとんど出会うことがありません。

 これも、日本という国でのビールという飲み物の歴史の浅さから来るものだと感じざるを得ません。
 ビール発祥のエジプトやメソポタミアでは、ビール作りは生活を豊かにする重要な技術であったわけですし、それ自身が文明の一部であったわけですから色々な記録が残っています。
 大英博物館のエジプトコーナーにあるビール作り人形も4,000年前のハイテクであるビール作りの工程をていねいに表現したものです。

 人形の下に貼ってあった説明書きの簡単な訳を下記します。

 4,000年前の先端技術の記録は、今日趣味として私たちがビールを自家醸造する際の作業内容と実はとてもよく似ています。
 ビール作りといった人間の生活と密着した事柄というものは、実は大して進歩していない(或いは工業化により悪くなっている)のではと考えてしまいます。

<説明書きの概要>
 この木製の人形はビール作りの作業を説明したものです。
 召使いたちがビール作りをしている。
 右側の人形は、ビール作りの準備としてビールパンを軽く焼く作業をしている。
 女はパン生地をこね、横の男は麦を粉にし、もう一人の女は少しあぶったビールパンをジャーの中の液体に浸している。
 中央部分の人形はビール作りの最終段階をあらわしている。
 男は麦汁を漉して大きなジャーに入れており、もう一人の男は水を運んでいる。
 最後に出来上がった液体は、ふたの出来るジャーに移され発酵が終わるまで保管される。

          エジプト中王国時代 B.C. 1900

 コレはビールとは関係ありません          
 大英博物館の展示物の中でももっとも有名なものの一つ
     ロゼッタ ストーンです          

 


Morio Murakami Presents 01/Nov/1996 Ver 01. Rel 01. Mod 01
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