World Beer Cup 2002


 2002年4月9日10日の2日間、アメリカ オハイオ州 クリーブランドにて
World Beer Cup 2002が開催されました。
 WBCは2年に1回開催され、世界中で販売されている1,000種を越える市販ビールがエントリーする一大コンペティションです。主催は米国ブルワーズ協会で、審査形式はPPBT(Professional Panel Blind Tasting)と呼ばれるもので、専門家が醸造元や銘柄名などの情報を知らない状態でテイスティングをおこない優れたビールを選ぶという方式です。
 参加ビールの数や原産国の多さ、それに審査方式の客観性からいっても、ビールのワールドカップと呼ぶべきものでしょう。

 今回、日本人のジャッジはJCBA(日本地ビール協会)会長の小田さんを筆頭に、田村さん、木内さん、谷さんの4名の方が日本から参加され、現在、仕事の関係でアメリカ ジュージア州に駐在している私を含めて総勢5名がWBC2002の審査に参加しました。

 ジャッジは総勢で70名以上ですがなんといっても多数派はアメリカ人です。地元での開催というせいもあり約50名が参加しており、Charlie Papazianや Ray Danielsといった著名人も参加しています。第二の勢力は12名を擁するドイツ。さすがにビール王国の面目躍如といったところです。日本は5名の参加で堂々の第3勢力となっておりました。日本の次はMichael Jackson を含めて総勢3名が参加するイングランド。それ以外にもフィンランド・イタリア・オーストラリア・ブラジルなどから1〜2名の参加がありました。ヨーロッパでビールが盛んに飲まれているベルギー・オランダ・アイルランドなどからのジャッジ参加はなくすこし残念でした。
 このようにジャッジのメンバー構成がアメリカ人中心になっていたことは審査の進め方やひいては審査結果にも大きく影響していました。その中で第3勢力としての日本人ジャッジの役割は審査結果の片寄りをただす意味でとても多きかったと思っています。その理由については後ほど説明したいと思います。

 それではまずWBCのジャッジがどのように進められていったか順をおって説明していきます。

事前準備  2002年1月頃

 まず、ジャッジとしての推薦を受けるとWBC事務局から電子メールでスケジュールの概要と宿泊の確認、それからどういったカテゴリーのビールを審査したいかという問い合わせシート(右参照下さい)が送られてきます。今回のシートには76種類のカテゴリーが記載されておりその中から自分がやりたい順に1〜20番までの番号を振るように指示されていました。
 私はベルギーやドイツなどのビールを中心に希望し事務局に返送しました。
今回は結果的にかなり希望が反映され、Mertzen/OktoberfestやDunkel Weizenなどの審査を担当することが出来とても幸運でした。
 宿泊は同僚のジャッジと2人部屋に泊まれば料金は主催者持ちになるので今回は相部屋を希望しました。前回参加したGreat American Beer Festibal 2001ではアメリカでのジャッジ初体験だったため大事をとって個室にしたのですが、一人で部屋にいると退屈だったのと結構良いホテルでの開催だったため宿泊料金の個人負担が意外と大変だったことへの反省です。
 結局、日本から参加された木内さんと同室となり、審査や参加ビールに関する話がいろいろと出来とても楽しく過ごせました。

4月8日 WBC開催前日

 午前中は会社に行って半日分の仕事をする。私が住んでいるジョージア州 アトランタからオハイオ州 クリーブランドまでは飛行機で2時間程度なので、午前中働いてから出かけていっても夕方5:30から始まるオリエンテーションには充分間に合います。昨年9月11日のNYでのテロ以来飛行機の搭乗前の審査はずいぶんと厳しくなっていますが、近頃は旅行用ナイフやカッターナイフなどの危険物を機内に持ち込もうとしなければそれほど長時間身体検査をされるということもありません。

 飛行機は定刻通りクリーブランドに到着。はじめてきた空港なので勝手がよくわからないが幸い大して大きい空港でもないので迷わずに市内行きの電車に乗ることが出来ました。
 電車沿いの風景はかなりさびれた重厚長大産業の街といった風情。
 後日WBCから帰ってきてアメリカ人にクリーブランドのことを聞いてみたがこのあたりはかつては製鉄業などが盛んな地域だったそうで、やはり見た感じそのままの歴史を持つ地域のようです。

 ただ、WBCが開催されるルネッサンス ホテルは市のど真ん中にあり、このあたりは近代的な高層ビルが何本か建っておりそれなりに立派です。ホテルから目と鼻の先には五大湖の一つのエリー湖があり、湖につながる川とそれに架かる大きな橋もすぐ近くにあるといった場所です。日本でいえばさしずめ滋賀県大津のような雰囲気です。ホテルにチェックインしたあと早速オリエンテーション会場に行くと小田さんほか日本から来られているジャッジの皆さんとすんなり再会でき、まずはほっと一安心。

 オリエンテーション会場ではまず右写真のJudging Packetというものをもらいます。これには明日からのジャッジに必要な個人別のスケジュール表、各ジャッジ毎に割りふられたジャッジ番号が刷り込まれた採点シート、ジャッジバッジ、スタイルガイドライン、ビアスタイルスタイル表記に用いられる英語表記の短縮表現を解説したシート、金銀銅賞を与える際の基準書などが入っています。これをもらったあとは主催者側の挨拶があり、そのあとDMSやダイアセチルなど数種類のオフフレーバーの再確認のようなことがあり解散となりました。まあオリエンテーションといってもほとんど顔見せと簡単な連絡程度の会合でJudging Packetをもらうのがメインという感じです。

 このあとは日本人ジャッジ全員で田村さんが事前に調べておられたGreat Lake Brewing  というブルーパブにでかけました。ここのビールはGABFなどで何回も賞を取っており、レストランの入り口には賞状やメダルがいくつもかかっていました。
 ビールはPale Aleや Dortmunder Lager さらに Eliot Ness という名前の付いたAmber Lager など特徴的なビールを5〜6種類楽しむことが出来ました。さすがに何度も賞を取っているだけあってどのビールも味のメリハリが利いており、スタイルの特徴がはっきりしたビールばかりでした。
 一方で味や香りの特徴が強すぎて沢山飲むにはむかないというコメントをしておられた方もおられ、それもまた事実でした。

4月9・10日 WBC本番

 主催者側提供の朝食(パンとジュース程度の簡単なもの)を済ませたあといよいよ9:00からWBCの審査開始です。審査の進め方は基本的にJapan Beer CupでJCBAが採用している方式と同じですが、以下のような手順で進みます。

 ・前日にもらったスケジュール表で指示された部屋に行き
     指定のテーブルに座る
    座席は指定されていないのでどこに座っても良い
    WBCの場合はアメリカ人ジャッジとドイツ人や日本人などの
      外国人が適当に混ざるようにしているようで
      日本人同士が同じテーブルに座ることはほとんどない
    テーブルには筆記用具と水、舌の感覚を戻すための
      薄切りのパンが置いてある

 ・スケジュールはセッションとフライトによって指定されています
    基本的に1日に午前1セッション、午後1セッションの計2セッション
    1セッションで2〜3フライトのテイスティングを実施
    各テーブル1フライトで12〜20種類程度の
      同じスタイルのビールをテイスティングする
    各フライトは基本的に1時間以内で終了
    1フライトは各ビアスタイルの審査の1ラウンドに対応している
    各テーブルには6〜8人程度のジャッジがいる
    各ビアスタイルの最終審査以外はジャッジを半分に分けて2チームとし、
    各チーム6〜10種類程度のビールをテイスティングして
    各チーム上位3つのビ−ルを選ぶ

 ・エントリーしたビールは各スタイル毎にまとめられスタイルガイドラインに沿って 審査される

 ・ラウンド数は該当スタイルのエントリー数によって決まる
    該当のビアスタイルのエントリー数が10程度しかないビールは1ラウンド目の 審査が最終審査となるのですが、
    Pale Ale やBrown Aleなどのエントリー数の多いビアスタイルの場合は
    3ラウンド目が最終ラウンドという場合もあります

 ・ジャッジは1ラウンド目の審査をする場合のみ自分のジャッジ番号が事前印刷されている採点表に評価を書き込み提出する
    これはコンペに参加した醸造所へのフィードバックとなっているそうです

 5人の日本人ジャッジは初日、二日目ともほとんど一緒になることがなくバラバラにテイスティングをしました。
 私の場合2日間で4セッションあり、各セッションはすべて3フライトだったので計12セッション参加しました。各セッションで6〜10種類のビールをテイスティングするので、2日間で約100種類のビールを審査したことになります。
 12セッションのうち6セッションは各ビアスタイルの最終ラウンドだったので6つのビアスタイルの最終審査に関われたことになります。2年に1度のWBCで自分の好きなビアスタイルの審査にこれだけ沢山関わることが出来ビール好きの私としてはまさに感無量でした

 中日にあたる4月9日の夜はホテルから歩いて10分くらいの場所にあるChop House & Brewery というブルーパブに出かけました。
 このお店は料理の味も良くお店の雰囲気も落ち着いており私としてはクリーブランド滞在中一番満足したお店でした。

 WBCの審査に参加して感じた傾向と雰囲気

  ・ジャッジの大半はアメリカ人
    彼らはほとんどプロフェッショナルのブルーワーなので実に真剣にジャッジしている
    ある意味で生活がかかっているのかもしれない
    前回参加したGABF2001で隣に座ったアメリカ人がいっていましたが
    小規模な醸造所にとっては大会で賞を取れるかとれないかは非常に営業面で大きな影響があるといっていました

  ・アメリカ人ジャッジはアメリカでポピュラーなビールしかよく知らない
    アメリカ人のジャッジは北アメリカOrigin (American Style Amber Ale)などのビアスタイルを
    審査をする分にはよいのですが、はっきり言ってヨーロッパOriginのビールについてはよく知らないケースが多い
    そのためスタイルガイドラインの特定の部分に着目して自分の意見を通そうとすることがあり、
    議論が変な方向にいくことも多い

  ・ドイツ人もドイツのビールしかよく知らない
    たまたま一人のドイツ人とAmerican Style IPA のジャッジをしたのだが、
    彼ははっきりと、自分はこのビールのことはよく知らないので
     君ともう一人のアメリカ人の二人でジャッジしてくれといっていました
    ついでにドイツ人はこういったビアスタイルがあることも知らないよといっていました
     (その彼は私のむかって右に座っている白いヒゲの人です
       私の向かって左の人もドイツ人で、このセッションは
       珍しく外人ジャッジが半数いました)

  ・アメリカ人ジャッジは特徴のはっきり出ているビールを高く評価する傾向がある
    ある意味ではビアスタイルのガイドに沿ったティスティングをしているともいえますが
    バランスのとれたおとなしい味わいのビールの評価があまり高くならない傾向もあります

  ・アメリカ人ジャッジに対抗する際は好き嫌いをはっきり主張すると効果的
    1ラウンド目(通常は予選ラウンド)の場合どんどん良くないビールから落としていくので、
    落としたいと思うものがあればどんどん先に発言しないといけない
    そうしないと逆に自分がよいと思っているビールが落とされてしまうことになる
    通常このビールを落とそうというジャッジは1名なので、
    対抗手段として ’いやいや自分はこのビールが好きだ!!’と力説すればひとまずボツにならずにすむ
    再度別のジャッジからやっぱりだめといわれてしまうと通常守りきれないがあまりそういうことはない
    本来テイスティングは好き嫌いとは関係ないのですが、なぜかアメリカ人には好きだと力説すると効果的です
    また、彼ら自身もそう主張することが多い
    私が第1ラウンドでかろうじて救ったビールが最終ラウンドで銀賞になったケースもある
    ブラインドティスティングといってもついさっき自分が推したビールがまた出てくれば判るものです

 かくして丸2日間にわたったWBC2002も無事終了しました。
4月10日の夜はまたまた日本人ジャッジ全員で川べりにあるRock Bottom Brewery にくり出しWBCが無事終わったことを記念して祝杯をあげました。
 皆さん思う存分ジャッジが出来満足なさったようでした。

 次回のWBCは2年後の2004年になると思いますが、機会があればまた参加し日本人ジャッジの存在をよりいっそう強く示したいと思っております。



Morio Murakami Presents 15/Jun/2002
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