1月28日
弘子マガジン展V 〔ツバキ三題〕


木口版画に使用する用材は、ツゲ・ツバキ・ヤマザクラなどです。それぞれ入手が難しい材木です。数年前の早春、近くのお寺さんから「昨年の秋、境内のツバキが倒れました。何かに使えますか。見に来てください」と、電話がありました。せいぜい直径が10cm余りのツバキを想像しながら行って見てビックリ。なんと胴回りが2mもある大木のツバキでした。それも、何ということでしょう、倒れてから半年余りたつツバキが満開の花を咲かせているのです。とまどいを感じながらチェンソーを入れてみると、すでに大幹にはキノコ菌が入り込んでいて殆ど用材として使えないものになっていました。径が20cmもある大枝は木口版画に使用できるものでした。この大枝は自然乾燥をして永く使っています。元禄時代に寺や神社の境内にツバキを植えることか流行したそうですが、このツバキも、その時代に植えられたのではないかと想像できます。なぜ、こんな貴重なツバキが倒れてしまったのでしょう。もともとこのツバキは境内の林の中に立っていたのです。何百年もの間、周りの草木を支えたり支えられたりしてきました。ところが、墓地造成のために周囲が開墾されました。支えを失ったツバキは環境の変化について行けず倒れたのです。このツバキにを刻むときには、数百年の生命に思いをはせながらながら仕事を進めます。

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