ヌマガメの飼い方(基礎の基礎)

このホームページを開いて以来、多くの方から質問をお寄せいただきましたが、その中で結構多いのがヌマガメの子ガメ(具体的にいうと、ミドリガメとして販売されているミシシッピーアカミミガメや、ゼニガメ(ほとんどがクサガメの子供))に関することでした。

また、私の病院に来院するカメの多くも、これらヌマガメの子供で、飼育法を全く知らないで飼ってしまったという悲劇が後を絶ちません。

ヌマガメは本来割合と丈夫な種類が多く、飼育にあまり気を使わないでも何とかなるものですから、ついつい基本的な最低限の事さえも押さえないまま、天寿を全うできないカメを大量に消費しているのが現状です。いかに丈夫とはいえ、5cmにも満たないカメはきわめてデリケートな生き物ですから病気にも罹りやすく、体力のないことも相まって治療も非常に困難になります。

ここでは、最低限これだけは守って欲しい、ヌマガメ飼育の基礎について、公衆衛生学的な面も含めて述べてみようと思います。



飼育の準備

飼育ケージ(容器)
仔ガメの場合は、あまり極端に広いケージは必要なく、間口30−45cm、奥行き20cmくらいのプラスチック製の水槽あるいは小型の工具箱や衣装ケースなどが良いと思います。水槽の高さは、カメがよじ登って逃げ出せない最低限の高さ(大きさにもよりますが20cm位)で十分で、あまり深いと夏場は空気の流通が悪く蒸れてしまいます。

スーパやペットショップなどで、小型のプラスチック水槽その他を組み合わせた「亀の飼育セット」などが売られていますが、あまりにも小さすぎたり、カメの生理を十分に考えていないものが多いのであまりおすすめいたしません。

ガラスの水槽も悪くはないと思いますが、仔ガメのうちは頻繁な水換えが必要となるので、毎日の水換え時に破損する恐れがあります。

小型プラケース

昆虫ケースとして販売されていることも多いです。

衣装ケース

安価、軽量、サイズが豊富で便利です。側面にバルブを加工して取り付け、排水をしやすくしています。

ガラス水槽

ランチュウケースと呼ばれている高さの低いものです。

ケージ内に入れるものと、水の量
仔ガメのうちは頻繁な水換えが必要なので、ケージ内もなるべくシンプルにして、掃除がやりやすいようにします。底砂は敷かない方がよく、カメがのって日光浴ができるような大きめの石を1個だけ入れておきます。

石の種類は鉄平石や熱帯魚店で売っている木化石などがよいと思います。石の1部は完全に水上に出ているようにし、その部分にスポットライトをあてて乾いた部分を作ります。

ケージ内の水量についてはいろいろ意見が分かれるところですが、私は仔ガメのうちは亀の甲羅がほぼ浸かるくらい(底に足が着いている状態で首を伸ばせば呼吸ができる程度)でよいと思います。かなり少ない水量ですが、その代わり頻繁に水を換えて下さい。

また別の意見として、甲羅の横幅よりも少しだけ深い水量がいいという話もあります。この利点は、もしもカメがひっくり返ってしまっても水中で容易に体を元通りに立て直すことができるので、溺れる恐れがないと言うことです。

木化石
鉄平石
カメの浮島

照明とスポットライト
急速に成長するヌマガメの子供には、十分な量の紫外線が必要です。また、本来昼間活動して夜眠るという生活パターンをとる動物ですから、適切な照明は欠かせません。太陽光線にあててあげられれば理想的ですが、冬期や仕事の都合で昼間家にいることのできない方は、人工的なフルスペクトラムランプ(太陽光線を模した紫外線を出す蛍光灯)が絶対に必要です。

さらに体を温めるための熱電球も必要です。これはレフランプといった名前で普通の電気店で販売されている電球で十分です。小型の水槽でしたら20−30Wのミニレフランプがよいと思います。

フルスペクトラムライト

トゥルーライト、レプタイルデイライト、レプティサンなどがあります

レフ電球とミニレフ電球

保温
買ってきたばかりの子ガメが調子を崩す原因として多いのが、保温が十分にされていないことによるものです。温帯に住むカメとはいえ、甲長5cm以下の小さなカメは、秋から春にかけてはしっかりとした保温設備を設けてやらないといけません。

昼間は小型の容器ですと、ホットスポット用の電球や蛍光灯からの熱である程度の保温が可能ですが、問題は夜間です。水量が少ないときやプラスチック製の容器の場合は、火事の危険があるので水中型のヒーターは一部のものを除いて使用できません。また特に寒い時期は空気そのものも暖めてあげた方が健康的に育ちます。

空気を暖めるものとしては、ひよこ電球がよいと思います。これは光を発しない熱電球で、これをサーモスタットに接続して、ケージ内の最低温度(20度くらい)を維持するようにします。

水を暖めるもととしては、各社から防水型の爬虫類用ヒーターが発売されています。サーモスタットが内蔵されているものもあり、便利です。また、フィルム状の遠赤外線ヒーターを、水槽の外側の底の部分に敷いておくのも良いと思います。熱帯魚用のヒーターは、先にも述べましたが火事の危険や、カメに火傷を負わせる恐れがあるので使用しないで下さい。

  • 保温時に注意すること

  1. 水換えをするときは必ず水温調節をして、古い水と新しい水の温度差がないようにして下さい。水温の急変=体温の急変につながり、健康を損なうもとになります。
  2. 暖めすぎは非常に危険です。保温器具はできればすべてサーモスタットと連動させ、さらに温度計をケージ内に必ず設置して下さい。器具を設置した日は、何回も水温と気温のチェックをして下さい。さらに器具の故障にも注意が必要です。

水中型ヒーターひよこ電球 遠赤外線フィルムヒーター

ヌマガメの餌
ミドリガメ、ゼニガメなどの子供は、肉食傾向が強い雑食性です。食べ馴れるとかなりいろいろな食物を食べますが、単食にならないように、与えて害のないものを組み合わせて与えて下さい。
  • 人工飼料

人工飼料でもっともお奨めできるのは、テトラ社の「テトラレプトミン」です。ヌマガメはこれだけ与えていても大丈夫だといってもよい飼料です。これに同社の「ガラマス」という淡水ヨコエビの乾燥したものを補助的に与えればなおよいでしょう。

おやつ的に与えるのには、乾燥イトミミズや、ディスカスハンバーグ(熱帯魚用の冷凍餌)、ほんの少量のドックフードやキャットフードなどもよいでしょう。

  • 天然飼料

本来野生状態で食べているものは、小魚、昆虫類、ミミズ、小型の貝類、水草、小型甲殻類などですから、これらのものを与えることも大変よいことです。特に食欲不振になったときなどは、これらの生き餌で食欲を刺激してやるとうまく食べてくれることがあります。ただし生き餌は栄養的にすぐれている反面、寄生虫や病原菌、その他重金属などの環境汚染物質に汚染されていることがありますから、あまり継続的に食べさせないほうが安全かもしれません。

生のレバーや刺身、生肉、野菜なども食べるようなら少量あげてもかまいません。ただし海産の魚やエビ類はあまり多食させない方がよいといわれています。淡水産でも金魚やワカサギなどは、こればかり与えるとビタミンB不足になる場合がありますので注意して下さい。

冬眠
仔ガメは、生後2年までは冬眠をさせないほうが安全です。冬でもしっかり保温して飼育して下さい。3年目からは栄養状態のよい、病気でないものに限って冬眠をさせることが可能です。

カメとサルモネラ菌
サルモネラ菌はカメに限らず自然界のありとあらゆるところに生息しており、その中のいくつかは人に対しても病原性を持っています。決してカメだけが悪者ではないのですが、ヌマガメの生育環境(暖かくて、水分があって、有機物が多い)は菌が増殖するのに適しており、増えた細菌が人に対して感染を起こす恐れは十分に考慮しなければいけません。

健康な成人であれば、細菌に対する抵抗力を持っていますから、多少の菌が体に侵入してもほとんど発病せず、まれに発症しても軽い腹痛や下痢程度で済んでしまいます。

しかし乳幼児やお年寄り、抗ガン剤投与などで免疫力の落ちている方は、サルモネラ菌に対する抵抗力が弱いので、かなり重篤な症状が出る場合があります。これらの理由から、アメリカ各州では10cm以下のカメの販売を法律で禁止しています。(特に小さなカメは子供が触ったり、場合によっては口の中に入れる危険もあります)

ただしそうだからといって、カメを飼ってはいけないといっているわけではありません。基本的な最低限のこと、

  1. カメに触れたり、ケージの掃除をした後は必ずよく手を洗う。
  2. 小さなお子さんにはカメを触らせないようにする。
  3. カメのケージの汚水は、キッチンの流しには捨てない。
  4. できるならば、食事をする場所ではカメを飼育しない。

などを守っていただければ、全く問題がないと思います。

仔ガメの病気
水の汚れと温度管理、食餌に対して気を配っていれば、ミドリガメやクサガメは元気に育ってくれるでしょう。とにかく小さなカメは、食餌をとらなくなったらかなり重症だと心得ていて下さい。1日でも食欲がないときは、飼育環境を見渡して、何か不都合な点がないか、よく考えて改善してあげて下さい。

仔ガメに多い病気としては、

  1. 甲羅が異常に軟らかい。(くる病や代謝性の骨疾患です)
  2. 眼が開かない。(ビタミンA不足や眼球の細菌感染などです)
  3. 皮膚や甲羅に白く綿のような物がつく。(正常な脱皮のこともありますが、皮膚表面の細菌や真菌(カビ)による感染症かもしれません)
  4. 身体が異常に膨らむ(特に四肢の付け根)。(体内に異常なガスが発生している症状で、危険なものです)
  5. 甲羅の継ぎ目から出血する。(甲羅の感染症や敗血症の恐れがあります)

いずれにせよ、早めに動物病院に相談して下さい。

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