短大生の短歌    

      やや俵万智風ですが
授業中に歌会をやり、学生に作ってもらった短歌です。彼女たちの学生生活がよくでています。どうかご鑑賞ください。
 無題 (六月)

 梅雨に入り毎日雲が空を覆い家の中には濡れたTシャツ
 体重計昨日と変わらず針をさす女としては悲しき悩み
 毎朝セッセと見に行く掲示板目指すは休講出てればラッキー
 ああ眠い昨日バッチリ眠ったのに何故この授業耐えられないの
 たのしいこと悲しかったことふと涙がふと笑いがでる恋心
 言葉がさまよい歩き口には出すことできずコーヒーを飲む
 待ち合わせの時間つぶしの立ち読みは星占いのページをめくる
 「じゃあまたな」次の約束ないままに「また」は二度とないかも知れぬ
 いさぎよく立ち去る女のカッコ良さわかっちゃいるけど私にはできない
 十三の時にはとばして読んでいた俵万智の歌に胸痛みおり
 朝五時の誰も通らぬ朝もやの中にパレードのまぼろし
 月曜日ラッシュアワー窓を開け風になって飛んで行きたい
 ヘッドホンつけて目を閉じ聞きほれる君がとなりで歌っている
 君の歌いつも頭でまわっているそんな私を君は知るまい
 青々と繁る若葉の下に座し交わす言葉の影は白々
 人波の失せた地下鉄構内で足音高く十時十四分
 最愛の私待つ人どんな顔?五分早めに逢いにいくわれ
 君知らず「元気ないね」とくすぐられ食べてしまいそうあとひとくち
 好きなのにためらってしまうキス直前昨日血の味今日何の味?
 縛られた見るはずもない夢見たこともない君の笑顔
 放課後にバイトがあると嘆いてもお金ないから仕方ないのね
 ああいやだ本当にいやだ梅雨時はじめじめしてて髪が広がる
 思いっきり泣いて困らせたあの人をあれから一年また夏がくる
 あの日から優柔不断の私をだましつづけるあいつの笑顔
 改札でいつも毎度の待ち合わせそれでも始めはそしらぬ態度
 電話して 電話するよと別れぎわ耳にあてた手がうごかない
 ここはダメ ここもまずいなあって一体何を期待しているの?
 デート前 セブンイレブンでガムを買う二人でかめばキスはOK!
 倫理学今日もあくびをおさえつつ苦痛にたえる九〇分間
 バイト代服を買いすぎ消えてゆく買い物をするために今日も働く
 枕草子演習でわかった奥の深さ意外と楽しいレポートづくり
 朝起きて大騒ぎして家を出て遅れなかったとホットする日々
 ベルが鳴りあの人からかと手をとめてコール音に耳すます日々
 道に咲く花を見つけて思い出す家にもあったな青いあじさい
 何回も見ても変わらぬ顔なのについ見てしまう思い出写真
 二人では自由になりたいと思うけどいざなってみると何かさみしい
 おしゃべりがとっても好きな私の口の休憩場所はあの人の前
 あんな人大っきらいと思いつつおみやげ渡すああ寮生活
 「じゃあまたね」その言葉からどのくらい月日がたったかわからない
 「もう切ろう」そう言ってから一時間ずっと切れずにいる電話
 手つかずの卵サンドは半分に割って食べるのが愛の形
 有名なデパートで買うからお買物おしゃれして楽しい日曜
 満員電車の背中と背中よりかかってくるおやじやめて下さい
 今日こそは好いことあると言い聞かせ期待しすぎた短大生活
 あの時の笑顔に再び会いたくてアルバム開きむなしく感じる
 「おやすみ」と言って受話器を置くまでの少しの沈黙なぜかうれしい
 十二月飼っている犬の誕生日十才になってもまだまだ元気
 いつもとは違って若いお坊さん詠んでるお経をまた間違える
 電話での言葉で理解試みる遠距離電話は推理小説

 「夏」 (九月)   

 夏の雲棒をつきさしくるっと回せば青空生まれのふわふわわたがし
 夏休み長すぎました学校の授業に慣れなくつらい毎日
 今年の夏出会いのないバイト先私の青春返しておくれ
 夏休みバイトもしないで遊んでて終わったころにはふところ寒い
 有栖川緑あふれる夏の陽にシャワーのごとく虫の鳴く音
 夏休み暑さに負けてなにもせず気がついたなら涼しくなりぬ
 世間では夏期休暇だというけれど進路が決まらず右往左往する
 図書館の窓より見ゆる夏の空ノートとる手をふと休めたり
 精一杯に野球観戦、海、バイト、これがわたしの夏休み
 夏の海何かいいことありそうで行ってはみたが雷雨に見舞われ
 彼のひとの告白めいたなぞときを赤ペン片手にてんさくしてみる
 夏は過ぎ思いがけない展開をどうする二人それからの夏
 夏の夜星を見上げて語りつつ告白の瞬間落ちた流星
 照りつける太陽の光うけている日にやけた肌去年と同じ
 夏の海浅い所で砂だらけ高い波こいボディボード
 夏祭りほろ酔い気分の横顔を暑さ忘れて見とれてしまう
 君と二人人まばらなる公園で最後の花火を片づけている
 旅先にて出会いし男は幻も昼の渋谷は酔いをさまさす
 目眩する朽ちてゆくよな灼熱に私は希薄になってゆく
 炎天下半睡の私のからだ青いゼリィの大気を泳ぐ
 純白の氷にかかるいちごシロップひと夏の恋にどこか似ている
 毎日が充実していた暑い空去っちまったものは仕方がない
 誰もいない朝はさわやかな夏の浜辺二人のために海カモメが鳴く
 午前九時タオルケット乾日ぼし暑さ静けさお昼寝三時
 サンダルの白はかがやき焼く素足こげゆく肌とすみわたる心
 夏休み二ヶ月あればなにかあるでもなにもないのは何故だろう
 日が沈み川辺のそばで音聞こえ そうだ今日は花火大会
 夏の夜に吹く風涼し見上げれば空には花火だ思わずタマヤー!
 真夏日のディズニーランドは命がけ頭くらくら足はふらふら
 まずやせて毛までぬかなきゃ遊べない夏なぞいっそなければいい

 「家族」 (十月)

 スーパーの魚の切り身四切れでよかったと思う四人家族
 あれもダメこれもダメよと母親の言うこときいたら婚期遅れる
 外出時にいつもかけられる言葉は どこ?だれ?いつ帰ってくるの
 留守番の電話の声をたずねられ世間話でかわしてみる
 それくらい私が伝えてあげるのにわざわざ母にかわれという父
 平日は家庭のために働いて休日家族の運転手となり
 父さんの今夜のおかずは何だろう夕食時の母の口ぐせ
 かたくり粉少しひかえめ八宝菜祖母の好みの家族の食卓
 年寄りの繰り言毎日聞きながらお茶を飲むのも日々の日課
 平凡な日々の中ではわからない親のとうとさわかる日が来た
 机の上のプレゼント留美からの手紙はまた一つおばさんになったね
 明るい食卓楽しい家庭そんなのいらない自由がいいの
 週末に広げられた東京スポーツ家族一同競馬の予想
 親にとって幾つになっても子は子らしい思い出話にため息一つ
 近づけば反発しあう磁石かな遠くていいの家族の中は
 三十路まで結婚しないと恥ずかしい?年をとるとはなんと苦しい
 結婚しつねに家族と生きてゆくなぜにみなあきはせぬのか
 鍋物の中身が減らぬそのことでしみじみ感じる一人の重み
 私のこと〇〇〇なんて呼んじゃダメ使っていいのは彼らだけ
 テーブルについても雰囲気ものたりない一人欠けてる家族のだんらん
 母親と出かける食事にショッピングなにげないけど小さな幸せ
 食事時ものほしげにのぞいてる犬もまるで家族の一員
 友達と一緒に旅行に行くからと本当は違うのごめんなさい
 友達の家に泊まると信じる母本当の事は何も知らない
 いつまでも子どもと信じる親心教えられない本当の自分
 髪の毛はリカちゃん人形色でもこれが私の弟
 「あいつとはどうなっているんだ」目も合わせず酔わなきゃ聞けぬわが父である
 母親は声を殺して泣きおりぬ母を失い夢に目覚めて
 何この親!喧嘩することあるけれどいつのま〜にか仲良しこよし
 月下に浮かぶ白きほほ白き横顔私を抱いて安らかに寝ね
 両親と久しぶりのランチタイムでも服買う条件付き
 姉の恋さぐり続けてはや十年私は母のおかかえスパイ
 結婚で幸せという文字を手にこれから始まるたいへんな日々

 「将来」 (十一月)

 人生は厳しいものだと悟ったが今からでもまだ遅くないよね
 プレゼント何が欲しいと聞かれたら迷わず答えるドラエモン
 人の世に幸か不幸か生を受け生かすも殺すも自分次第
 私として生きられるただ一度の人生絶対に無駄にはしないぞ
 平凡なOL生活あこがれて買ったばかりのリクルートスーツ
 十年後夢が叶えば自分のお店十年日記にはじめの一字
 何年かたった私のその姿どうか幸せでありますように
 いい年になった私の職業はしがないOL?それとも主婦?
 将来はうたかたみたいすぐ消えてすぐ浮かんでくるから
 口で言うのは簡単!夢のある将来!消費税0%!
 不安だよ聞かないでよね落ち込むの 未来は知らぬ今の私
 いつまでもこの幸せが永遠に続くことを祈る毎日
 悩んでもやってみないとわからないどうなるのかな私の将来
 20代今は女が旬なとき魅力引き出そうシワ生えぬうちに
 将来の夢とは何か考える考えなおせどお金と安定
 結婚して過ごす幸せ夢見ても相手がいなくちゃ夢のまた夢
 口に出すその前にまず行動を不言実行夢への道
 「結婚」と口にするより難しいこれが私の生きる道」と
 来年の内定七月大喜び八月バイトに明け暮れる日々
 春からは楽しいお茶くみ頑張ります相手を見つけてとっとと結婚
 40代せっせっとパートでお金ためつらい後には楽しい老後
 学生でいられることの気楽さを説いて聞かせるあなたは大人?
 「女の子は短大でいいよ」って笑いながら言ってた君をふと思い出す
 ポケベルは今年限りで解約し来年からは携帯もとう
 夢なんてないとは言えず無難な職業を答えた幼い頃
 変わってしまう恐怖から変われない恐怖に変わる恐怖
 結婚も仕事も出来る今の世で自由の中を揺れる女たち
 ランドセル下ろした途端「将来」という文字見ても胸おどらず
 いつまでも子どもでいたいと望むけどそれでも無情に時は過ぎゆく
 将来は誰かも何にも知らぬから理想の自分をそこに見いだす
 仕事でのキャリアはいらないカタガキも私はただの奥さん≠ナいい
 がむしゃらに探さなくてもいいじゃない幸せきっとどこかにあるから
 大好きな人と結婚できるなら他には何も望まない?!
 ダイヤよりきらきら光る夢いっぱい明日という日は私の宝箱
 大学で自由だった分社会では自由に縛られ労働の日々
 上京してはや二年過ぎ東京にやっと慣れたら地元へUターン

           一九九六年度 古典文学史授業短歌会より(主宰岡部)   
ホームページへ