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 詩の部屋

老人のいる河


ほらあの
畳橋の手前の
新河岸河の淀みに
釣糸を毎日たれている老人がいるでしょ
隣のおじいさんだって知ってる

隣のじいさんは
大きな釣竿を岸に立て
背中を丸めてこじんまりと動かない
時々植木鉢に水をやっている姿を見かける
ばあさんが二階で洗濯物を干していた
片目がつぶれたノラがいるだろう
あいつが植木鉢に近づくとばあさんが怒るんだ
ノラが嫌いなんだ
けっこうかわいいのにな

でも
植木鉢におしっこをかけるのよ
大事にしていたサツキが枯れたっておじいさんが言ってた

じいさんは毎日釣りをしているのか
雨の日も釣りにいくのか

雨の日にも見たことがある

確か息子夫婦が近くに住んでいると言っていたが
孫をつれて時々は訪ねてくるんだろうか

何回か見たことがある

この河には大きな鯉がいる
大きな鯉を釣ってどうするつもりだろう

どうするつもりなのかしら
この河の水はきれいじゃない
屎尿処理場の排水が流れ込んでいてその排水で育った鯉なのよ
とても食べられそうにない

釣って楽しいんだろうか

わからない

じいさんは寂しいんだろうか

わからない

死ぬまで釣しているんだろうか

わからない

釣り上げた泥臭い大きな鯉を
ばあさんと見つめて
何を考えるのだろう

わからない
今日は釣れてないみたい
おじいさん動かない


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