私とパソコン画                    梶村 元二
退職したら絵を描こう。出来たらパソコンで描いてみたい。そんな気持ちを持ち続けて会社生活を卒業しました。絵を描くのだとMACが良いと聞かされていましたので、迷わず手に入れたまでは良かったのですが、どんな絵が描けるのかが分からなくて、つまりどんなソフトがどんな機能を持っているのかが分からなくて、手当たり次第に試してみました。

当初は水彩画を一つのターゲットとして描き始めました。先ず困ったのが紙の上に筆で描くのと違って、正面のモニターを見ながら、手元のタブレット(絵を入力するための画板)の上で硬筆を使わなければならないことで、思うような線が描けないのです。これは練習しかないと思い、ともかく数を描くことと観念しました。

その内、ある程度使えるようになって来まして、何枚か描いていったのですが、幾つかの障害が出てきました。まず第一にデスクトップのパソコンですから野外に持ち出して絵をスケッチするわけに行きません。画用紙にスケッチしてきた絵か、写真を撮ってきて、それを見て描くしかないわけです。また、絵を描くソフトにはそれぞれ豊富な機能が備わっていますが、それを十分使いこなすだけの知識と経験がないために、どうしても単調な絵になってしまいます。

それより何より描いていて、一番不満だったのは苦労して、慣れないパソコンで描くよりも、今までと同じように紙の上に筆で描いた方が描き易いし、それなりの絵になるわけです。つまり、「パソコンを使って絵を描く」というのは、一体どういう意味があるのか、分からなくなってしまいました。

その解決の方向として「パソコンでなければ描けない絵」を目指そうという目標を立てました。筆で描けなくて、パソコンでしか描けない絵とはどんなものなのか、すっかり頓挫してしまいました。

ある日、よく立ち寄る書店で、画集関係がある棚を見ていましたら内田正康という方が描かれた「四季の詩」と言う本に目がとまりました。中をパラパラとめくっただけで、これこそ悩んでいた答えがそこにあることを直感しました。早速購入してじっくりと見せていただきました。
この内田さんの絵は筆で描かれたものではありません。色紙(イロガミ)を切って貼り付けた「貼り絵」なのです。しかも大胆に省略された構図で、例えば最初のページの「山腹の春」では絵の半分ぐらいを占める土手が草色一色なのです。この感じを出すには筆機能では塗りむらが出ますが、「塗りつぶし]機能を使えば実現できそうだ、と考えて早速試行錯誤を始めました。

色の紙を切って貼り付けるように、単純にある部分に「選択範囲」を選定して、「選んだ色で塗りつぶす」と言う単純作業の積み重ねです。この方法で描いた最初の絵が下の「スイスの山」です。初めて描いた絵にもかかわらず、筆で描いた絵にはない独特の風味を感じました。
  

      
  
途中、紆余曲折はありましたが、基本的にはこの手法を踏襲して、今日までに二百数十枚以上の絵を描いてきました。描きました絵は私のホームページ「KAJIの館」に載せていますので興味のある人はご覧下さい。
「KAJIの館」: http://www.asahi-net.or.jp/~qb2m-kjmr/

私はねっからの技術屋なものですから、細かい表現にまで凝ってしまいまして、内田正康さんがその画集の中で表現されているような大胆の省略がまだ達成できていません。
その都度、自分なりに課題を見つけながら描き進めています。先週描きました最新作で、昨秋老人会で行った高尾山の紅葉です。