“ 角川文庫万華鏡”のこと
 角川文庫はその歴史、内容、出版点数において、岩波、新潮と並んで日本の三大文庫といって良いと思うが、惜しむらくは書誌的資料に乏しいことにある。岩波・新潮文庫には過去にそれまでの出版記録ともいうべき文庫の全点目録が存在するが、角川文庫にはない。角川文庫の出版点数は現在、一万五千点に迫る勢いであろうが、それだけに品切れ、絶版の点数も多いので、その出版内容を過去に遡って辿れないのが難点である。
 唯一の書誌は角川書店が創立五十周年に記念として出版した『角川書店図書目録(昭和20年ー50年)』がある。しかし、同書を出版したのが平成七(1995)年にもかかわらず、出版記録を昭和50年までとして、見事に発行人春樹時代を道連れに1975年以降の出版を切り捨てたことが、この本の致命的欠陥となったしまった。今でも角川文庫を愛するがゆえにこのことが残念でならない。
 一個人が文庫本を集めて、書誌的作業するのは限りがあるが、まず、著者別整理番号でいうと、赤帯翻訳文学の450番までを一つの目標にリストを作ったみたい。これまで調べられた範囲では、合本、改訳、新訳を含めて、総点数はざっと1200点ほどになる。時間の許す限り、この「角川文庫万華鏡」と題したホーム頁上に順次リストアップしていきたい(いしい たかもり)。

2009.7


“赤帯101番から150番”までリストアップ
 やっとのことで、赤帯150番まで追加リストアップできました。これで赤帯450番までの三分の一を終了。暇を見つけては、キーを叩いて入力、次は200番までを目差して頑張りますので、少しお待ち下さい。
 今回のリストで注目すべきは103番のショーロホフ『人間の運命』です。初版が昭和35年ですからかなり昔の本です。あの安保闘争でデモ隊が国会を取り囲んだ年です。その文庫の改訂版がどうしたことか、初版から50年近くたった平成20年に出版されました。そこに新たに書き加えられた新解説を起訴休職外務事務官の肩書きで論壇を沸かせた、あの佐藤優氏が書いていて、すばらしいロシア論になっているのにびっくりしました。一読を皆さんにお薦めします(いしい たかもり)。

2010.新春


 頑張って“赤帯200番”まで終了
 リストを作っていて、角川文庫にしかない作家、作品にぶっかることがあります。おおむね作者の知名度が低かったり、忘れられた作家の作品で、そうした作家に何かの拍子に出会えるのが、まあかっての角川文庫でした。
 今回リストアップした中では、161番のウィラ・キャザーの『別れの歌』はそうした一冊です。センチメンタルな物語で、必ずしも彼女の代表作ではありませんが、私の好きな作品です。
 訳者は龍口直太郎の同作品は最初新潮社から昭和15年に出版され、戦後三笠書房から昭和20年代に二回体裁を変えて出ていたものが、昭和29年に角川文庫になりました。しかし、角川文庫でも昭和39年(懐かしい東京オリンピックの時)の三版以降目録から消えてしまい、その後今日まで重版も、他の文庫になることもなく、ましてや新訳など望みようもありませんから、この角川文庫版は貴重な一冊です。
(いしい たかもり)

▼左より角川文庫版『別れの歌』3版カバー付。昭和15年の新潮社版。戦後20年代の三笠書房版の二冊。

2010.2.15


“赤帯250番”まで終了しました。あと200!。
 一作者、一作品が増えて、かなりリストアップは捗り、半分以上を終了できました。HP作成のため、赤帯の文庫を整理して感じたことは、海外での原作の映画化がその翻訳出版の強い動機づけになっていることでした。時代が新しくなるほど顕著ですし、また品切れや絶版で眠っていたものが、映画化で再版され息を吹き返して読むことが可能になる。これは角川文庫に限らないことですが、私のような語学オンチにはありがたいことです。
 その一方で映画化や作家の人気などを度外視した古典発掘や訳者の思い入れのある作品の翻訳も見かけられて、うれしくなりました。二、三そんなわが道を行く編集者魂を感じた文庫を紹介しますと、ベン・ジョンソンの「新聞商会」、若草物語の作者オルコットの伝記の名著、コーネリヤ・メイグスの「不屈のルイザ」などです。それぞれの訳者による「あとがき」からもその本に対する情熱が感じられます。その一部をスキャンして掲載しました(いしい たかもり)。

▼「新聞商会」の訳者、上野精一のあとがき(クリックすると大きくなります)
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▼「不屈のルイザ」の訳者、吉田勝江のあとがき前半(クリックすると大きくなります)

2010.4.10


“分類番号”500番、700番台の新設と移動。
 昭和40(1965)年3月発行の解説目録をみると、その巻頭に角川文庫全体の発行点数は二千五百点を超えたとの記述があり、新たに500番から始まる外国推理文学が分類項目として登場、514番まで掲載されている。
 そして昭和43(1968)年4月発行の目録で、さらに700番台として空想科学小説が分類項目に加わると、既存の分類番号から新分類項目に移動する作家も出てくる。その空いた番号は新作家に与えられるので、当然同一番号の違う作家の文庫が出てくる(分類番号はカバーにしか印刷されていないので裸本では分からない)。
 今回の赤帯300番までは、こうした移動作家が出てくる時期であったらしく、283番のチェスター・ハイムズが521番に移動した後、その新283番はモーリン・デイリが入った。271番のトニー・ヒラーマンが717番に移動すると、その空いた271番はニコラス・ガガーリンとなった(いしい たかもり)。

▼トニー・ヒラーマン『祟り』。
271番も717番も装幀は全く同じ。

▼後釜の『風はどこへ』

2010.7.25


 およそ二年かけて、450番まで完了! 今回はサッカレーの処女長編に注目。
 <原作映画化は、古典が文庫になるチャンス>

 近代小説の始祖としてデッケンズに並び称されてきたサッカレーだが、日本ではどういうわけか翻訳も少なく(角川文庫にはデッケンズは未完結も含めて、七作品もあるが、サッカレーは初めて)、忘れられた作家でしたが、スタンリー・キューブリック監督による映画化もあって、昭和51(1976)年、サッカレーの最初の長編小説である『バリー・リンドン』がめでたく邦訳され、角川文庫の一冊(赤帯405番)となりました。
 訳者の深町眞理子氏もあとがきで縷々、この作家と作品の重要性を述べ、翻訳の機会を得られたことを喜んでおります(いしい たかもり)。

▼表紙カバー(右:訳者あとがきの一部)
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▼映画のスチール写真が帯を飾った

2011.5.10

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日本語になったメグレ 巴里とメグレと殺人と 角川文庫万華鏡