◆ ソロモンの指環 / コンラート・ローレンツ ◆

Book Image 書名:ソロモンの指環
   King Solomon's Ring
著者:コンラート・ローレンツ Konrad Zacharias Lorenz
訳者:日高 敏隆
発行:早川書房 ハヤカワ・ノンフィクション文庫
定価:580 円(税抜)
1998年5月31日 2刷
ISBN4-15-050222-6 C0145 \580E


目次
  1. 動物たちへの忿懣(ふんまん)
  2. 被害をあたえぬもの──アクアリウム
  3. 水槽の中の二人の殺人犯
  4. 魚の血
  5. 永遠にかわらぬ友
  6. ソロモンの指環
  7. ガンの子マルティナ
  8. なにを飼ったらいいか!
  9. 動物たちをあわれむ
  10. 忠誠は空想ならず
  11. 動物たちを笑う
  12. モラルと武器

原著は 1949 年にドイツで出版されたもの。 コンラート・ローレンツといえば、「鳥のヒナの"刷り込み"行動」の発見者として 有名な動物行動学者(エソロジー)で、ノーベル生理学医学賞も受けています。 これは彼が初めて著した本であり、世界的ベストセラーでもあります。

この本には堅苦しいところはいっさいなく、ユーモア溢れる筆致で 彼の飼育した数々の動物たちについての細かな観察が記されています。 アクアリウムの中のゲンゴロウの幼虫、ヤンマの幼虫に始まり、水槽魚…。
そして多くのページを費やしているコクマルガラスの章は驚きの連続・傑作な話に 満ちています。ローレンツはコクマルガラスの言葉を理解し話し、集団行動や 求愛・交尾や、子育てや、本能的行動を的確に解き明かして見せます。 なんと見事な生物であるのかと、読者は感嘆させられてしまいます。 しかしそれはコクマルガラスだけではありません。

ハイイロガンの「刷り込み」についての記述が見られる章 「ガンの子マルティナ」も、その子ガンのいじらしい可愛さとともに 母として追いかけ回されるローレンツの困り顔が目に浮かぶようです。

本書を通して感じられるのは、全ての生物に対して驚きと愛情をもって 観察している眼差しです。そこから全てが始まっています。 まさに、動物は魔法の固まりのようです。

12章「モラルと武器」では、同種動物同士間での戦いについての観察の後、 意外な事実に行き当たります。「オオカミのような肉食の凶暴な動物ほど、 同種個体間での戦いは非致命的であり、負けた相手を噛み殺すことに対する 強い抑制が、本能的に備わっている。」
そして、人間を顧みて、人間はあまりにも急速に武器を発達させたために、 それを抑制する本能が十分に備わっていない(おそろしいことだ)、 と鋭く警鐘を鳴らして本書は結ばれています。

2001/08/11 T.Minewaki
2002/11/04 last modified T.Minewaki

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