Earth

◆ 生物多様性の持続的利用と明日の地球 ◆
ピーター・レーブン 講演

2003年 コスモス国際賞受賞記念講演
2003/10/25 千代田放送会館

[授賞理由(要旨)]
 ピーター・レーブン博士(Peter Hamilton Raven)は、1936年生まれ。 1971年から現在まで30年以上にわたって、 米国・ミズーリ植物園長を務めるアメリカにおける代表的な植物学者である。
 同博士の専門は植物分類学で、1965年に花と昆虫の共進化に関する研究を発表、 花生物学と現在呼ばれているこの分野の研究の端緒を作った。

 これらの研究活動の中で、同博士は1960年代から地球上の数多くの生物が 絶滅の危機にさらされていることに注目、人類が生存していくためには、 地球における生物の多様性を保存することが不可欠であることを、世界で最初に 提起した植物学者の一人である。



以下、Minew の解釈による内容紹介とコメント。

「コスモス国際賞」は授賞する人選が良く、これまでにも リチャード・ドーキンス氏やジャレド・ダイヤモンド氏や デビッド・アッテンボロー氏 の受賞記念講演を聴きに行ったことがある。

今回受賞のピーター・レーブン博士は、講演タイトルにある通り、 生物学の専門家として「生物多様性」の重要性を早くから主張してきた人である。 落ち着いた口調だが、講演の内容は、説得力を持って厳しく地球・人類の 危機を指摘するものだった。

* * * * * *

まずは人口が急激に増えすぎ、多すぎる。
1万年前・400 世代前、世界の人口は 300〜400 万人程度だったが、 現在の地球人口は約 63 億人で、年に 8000 万人づつ増えている。 このうちアメリカや日本のような先進国に住む 20% の人々が 世界の総資産の 80% を消費している。半分の人々は貧しく、1/8 は飢えている。

増えた人口を満たすだけの食料がない。
過剰な食料生産、狩猟、漁獲が行われたせいで、土地は荒廃し再生産が 不可能になり、水資源が枯渇し、漁獲は持続不可能な線を越えている。 現在すでに持続可能な状況にはない。 人間は、太陽光の光合成による生産資源のうちの半分を消費し、 生成される水資源の半分以上を使用している。
それでも人口は増え続け、消費は増えつづけるだろうことは明らかだ。 将来は水資源をめぐっての戦争が始まるだろう。

生物多様性の減少。
地球上に生物はいったい何種いるのだろうか。1000 万種を超えるだろうと いわれているが、名前が付いているものでも 160 万種しかないし、名前があっても 性質を知られていないものが多い。バクテリアやウイルスなど小さな生物の世界は 未知といっていい。
結局のところ、人間が知っている生物世界はごくごく狭いものである。 そんな、未知の生物で満たされた世界を、私達は破壊し絶滅させ、 知ることも利用することもできないまま永遠に失おうとしている。
ここ 400 年程の傾向では、年に数百種の絶滅が観察されている。 「島理論」に従えば、その生息域が縮小されると、そこに住む生物種数は 指数的に減少する影響を受ける。 外来侵入種の拡散による在来種の絶滅も広く起こっている。
生物種はお互いに密接に関連しているので、一部の種の絶滅により 全体がどういう影響を受けるのかも分かっていない。生物多様性の減少は 間違いなく人間活動にも深刻な影響をもたらすであろう。

悲観的な予測を示したが、力を合わせればまだ間に合うかもしれない。 生物多様性を維持し、持続可能な世界を実現するためにはどうするベきか?
人口増加を抑えること、消費の増大を抑えること、新たな技術を開発し 食料生産システムを変えてゆくこと。 そのために、地球の現状を正しく認識し、生物についての知識を深めること。 個人や国家の利益を超え、人類愛に基づいた安全と平和への努力を 個人個人が行っていかなくてはならない。

* * * * * *

大量消費の先頭を走っている日本・アメリカは厳しく非難されています。 当然ですね。 日本の人口は減りつつあるからいいとしても、エネルギー消費量(電力、石油) は増えているし、食料はあふれているし、車は渋滞しているし。 この消費大国で人々の意識を根本から変えるには一体どうしたらいいのか、 途方に暮れる気分になってしまいます。 やはり「痛い目」に遭わないうちは目が醒めないのか。

個人的には、クーラー、電子レンジ、自動車が無い生活ですが全然平気だし 人口も増やしていないのですが、それでも持続可能なレベルの消費活動を はるかに超えているような気がします。とても後ろめたい。

花の万博記念コスモス国際賞 (Link)
受賞記念講演会・日本語 (Link) 英語 (Link)
ミズーリ植物園 Missouri Botanical Garden (Link)

2003/11/05 T.Minewaki
2003/12/05 last modified T.Minewaki

生命のよもやま話MINEW home

T.Minewaki / minew@post.email.ne.jp