フィンチの嘴 / ジョナサン・ワイナー
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書 名:フィンチの嘴 (くちばし)
     〜ガラパゴスで起きている種の変貌
    The Beak of the Finch
     〜A Story of Evolution in Our Time
著 者:ジョナサン・ワイナー / Jonathan Weiner
訳 者:樋口 広芳、黒沢 令子
発行所:早川書房 1995年8月31日 初版発行
定 価:2,200 円
ISBN4-15-207948-7 C0045
* 1995年 ピュリッツァー賞受賞作


理論をしのぐ現実の進化

進化論発祥の地ガラパゴス諸島には、独自の進化を遂げた鳥 ダーウィンフィンチがすんでいる。その嘴は「自然が作り出した工具」 と呼ばれるほど多彩で精巧だ。
ガラパゴスの中央に浮かぶ小さな溶岩の島で、研究者夫妻は、 生きたフィンチを一匹一匹調べた。そして20年におよぶ調査の末に 夫妻が直面したのは驚くべき事実だった。フィンチたちは刻々と 変貌を遂げ、ダーウィンの予測をはるかに上回る規模と速度で 進化していたのだ。
化石の進化ではなく、遂に現実の進化を目撃した夫妻の研究を 追った気鋭の科学ジャーナリストが、種を変貌させる自然の力の 驚異に迫る!
(本書裏表紙より)


これは自然科学読物としてほんとに良い本です。楽しめました。
進化論について、ちゃんとダーウィンを振り返り評価しつつ、 ダーウィンが見ることができなかったものについて書いてあります。

進化は見ることができる!
この本の驚きは、この一点に集約されます。
注意すれば、目に見える形で、進化は日々僕達のまわりで 起こっているのです。

ガラパゴス諸島では、干ばつと大雨、数年ごとのエルニーニョの選択を 受けてフィンチは変わり続ける。 アメリカの綿畑では次々と新開発の殺虫剤が撒かれ、蛾は耐性を強化しつつ 生まれ変わり続ける。
生物は常に変異体を作り続けている。雄雌の交配によって産まれる子は 必ず親とは少し違っている (半分づつ似ている) し、時には近い種との 交雑によって、変異は供給される。
その多様性があるせいで、未知の環境の変化 (淘汰圧) がやってきても、 全部が死なない限り、その時に生き残った者が、増えていく。 単純だが、その繰り返しが進化だ。
今までは化石記録に見られる変化の遅さから、進化速度は人間が 観察できないほど遅いと思われていたが、そのスピードは思ったより速く、 また速くなり続けている。少なくともグラント夫妻の研究ははその変化を 目撃し、記録した。

種を分け、そこに留まらせている力は、静的なものではなく、 動的な平衡状態です。
生物は既に環境の容れ物のなかにいっぱいに詰まっている。 その中で、それぞれの生物個体が増えよう増えようと 押しあいへしあいしながら、進化は進んでいく。 そして容れ物 (環境) は、急に縮んだり、緩く広がったり、 様々な周期で変化し続ける。
良く観察すれば、季節ごと、年ごとに微妙に変化する環境に合わせて その時々に最適な個体が生き伸び、不利な者が死んで行く。 豊かな年には数が多く変異が多彩になり、交雑し、厳しい年には 適応度の山の頂上付近の者だけが残る。 それは毎世代ごとに行われている。

大波小波の変異があっても、長いスケールで眺めて環境が同じ所を 行ったり来たりしているならば、化石記録には同じような形をした 生物が見られるだろう。進化の速度は環境の変化速度を反映している。
現代は、環境自体が人間の手で高速に、ある方向へと変えられている。 それによる淘汰圧も巨大だ (現代ほど多くの生物種が短期間に絶滅する ことは、生物が始まって以来5回しかないそうだ)。 それに伴って生物の形も高速に変化している。進化を観察するのに実に 適した時代なのだ。

この本の意味するところはとても新しく、驚くようなことなのですが、 言葉はとても易しく、わかりやすい。数式もグラフも一つもない。 実際に目にしている調査の様子を文章にしている感じで、その様子が 目に浮かぶ。それがわかれば理論名なんかは並べなくても良い。 一般の人が読めるように、かつ正しく書かれている、優れたドキュメントです。


1997/02/14 T.Minewaki
1997/12/28 last modified T.Minewaki

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