International People's College(IPC)
留学の記

 

大塚建一(奈良県橿原市)

IPCでのバレーボール

IPC中庭でのバレーボール

 私は、昨年、定年退職を機に、若い頃からデンマークの歴史・文化・社会・特にCooperative Movement(協同組合運動)に関心をもっていたので、デンマークのInternational People's College (IPC)に留学し、夏季講座(7/12-7/19)と秋期講座(9/1-12/21)で学ぶ機会をもった。

 折しも、我が国が21世紀を前に、経済はもとより行財政・教育・福祉等多くの分野で壁にぶち当たり、社会も個人もその価値観や人生観に新たな発想と変革が求められているとき、生活は簡素であっても、充実した社会福祉のもと、心豊かな暮らしをしているデンマークに学ぶところも多く、有意義かつ実り多い留学となった。

 何かの参考になればと、lPC留学生活を紹介させていただきます。

IPCとは?

 先ず、IPCのあるエルシノアは、コペンハーゲンの北44km、ハムレットの舞台として有名なクロンボー城があり、スンド海峡を挟んで対岸のスエーデンが間近かに見える古い歴史のある町で、人口はおよそ5万7000人です。

 lPCキャンパスは、町の中心(オールド・タウン)から歩いて15分とかからない緑豊かな閑静な地にあり、キャンパス内には、学舎・体育館・食堂・寮・図書館・TVルーム・音楽室・歓談室等が一体となった建物、事務棟、校長や先生の住宅等、それに広い運動場と3つの小さな湖がある。

 IPCは、1921年にピータ・マニケ(Peter Manniche)によって設立され、すべての授業が英語で行なわれるデンマーク唯一の国際フォルケホイスコーレで、17才以上の者は、国籍を問わず誰でも入学できる。また、長年にわたる国際理解と世界平和への貢献により、国連からPeace Messenger に指定されている。

 この学校は、全寮制で、教科書(本)で学ぶと言うよりも、先生/学生同士の対話を重視した教え方で、試験は一切なく、各教科について他の大学でも認められる単位は与えられないが、学んだ科目の履修修了証をもらうことができる。

夏季講座の様子

 私の学んだ夏季講座は、" Meet the American Courese:おとぎの国とその現実"というテーマのもと、7月12日(日)から同19日(日)の7泊8日の日程で開かれ、参加者は、アメリカ合衆国とカナダの各州から来た30才から60才代の男女32名と私であった。

 日課は、8:00朝食、9:00-9:15ブリーフィングと日常デンマーク会話、9:15-11:30は、10:30のCoffee/TeaBreakを挟んで、デンマークとエルシノアの歴史、社会福祉制度、デモクラシー(民主主義的諸制度)に関する講義と活発な質疑応答、12:30昼食、午後(13:30-)は、毎日、クロンボー城、近郊のヒレロズのフレデンスボー城と町、ギレライェの美しい漁村、、ルイジアナ近代美術館、ロスキレ大聖堂とヴァイキング船博物館等の参観、18:00夕食、19:30エルシノア民族舞踊団による踊り、近くのデンマーク人のガーデン・ホームでの交流会、アンデルセンの話、参加者と先生との交歓会等となっていた。

 また、開講日の昼食後は、コース/参加者紹介とオリエンテーション、水曜日は、終日コペンハーゲンでの参観、土曜日の午前中は、自由時間であった。短い期間ではあるが、毎日充実した楽しいプログラムが組まれていた。

 宿舎の寮は、個室と2人部屋があり、これがワンセットで3人共用のトイレ/洗面所とシャワー室が隣接し、部屋には、机/椅子/応接セット/クローゼットも完備しており、清潔で快適な生活ができた。食事も、朝・昼・夕とも、栄養を考えたホテルのメニューに劣らぬバラエティーに富んだもので、フルーツ・ケーキ・チーズ等のデザートもあり、質・量ともに満足のいくものであった。

 経費は、授業料、寮費、食費、参観費(バス/入場料)すべて込みで、2500DKK(1デンマーク・クローネ20円として、50000円)、個室希望者は200DKK(4000円)の追加負担であった。

 夏期講座だけでも、デンマークを概観し、実感するには充分であり、先生や参加者とも毎日の生活を共にするので大へん親しくなった。

セミナーの様子

セミナー

充実したロングコース

 次に、ロング・コースである秋期講座は、9月1日(火)から12月21日(月)で、前期8週間(9/1-10/26)と後期8週間(10/26-12/21)に分けられ、通常会16週間であるが、場合によっては、前期/後期だけでも入学できるようになっていた。私が、学んだ時は、18歳から59歳まで、43カ国、男女97名(米国10、デンマーク9、日本9、南アフリカ7、ジョージア6、ブラジル3、ヴィェトナム3の他、フランス、オランダ、ドイツ、ハンガリー、チェコスロバキア、インド、ネパール、ニカラグア、ナイジェリア、スウェーデン、オーストラリア、中国、韓国、チベット等々)誠に国際色豊かで、世界各国に友人ができ大きな財産となった。

 前期8週間と後期8週間の教科課程(カリキュラム)は、概ね次のとおりである。

前期
Indian Studies/Conflict Resolution/Ceramics/Middle East/Communication Drama?IPU Programme /Danish 1/Danish 2/English 1/European Culture/ African Studies/Folk High-school Experiences/Weaving/English 1/English 2/Internet/Dance/Introduction to DK/Culture and Co-existence/Creativity and Self-expression/World Literature/Film History/Nature Studies/ Choir/Kierkegaard/Transnational Studies/Silk Painting/Music Around the World/Recycling/Grundtvig/Current issuesWorld Religions

後期
Indian Studies/Education in Denmark/Ceramics/Danish Culture/Middle East Studies/Australian Studies/Communication/Silk Painting/Danish l/Danish 2/English 1/English 2/African Studies/English 'Literature/Basic Cooking/ IPU Programme/Dance/Local Democracy/Sustainable Development/World Theater Company/World Literature/Film Aesthetics/Choir/Computer/Craft/ Bangladesh Studies/Scandinavian Studies/Music Around the World/Weaving/ Karen Blixen/World Religion

 そして、上記各科目45分2コマ1時間30分の授業で、全部で40コマのうち、最低26コマ取ることが、義務づけられていた。また、後期は、自分の学びたいテーマについて、先生の指導のもとに、プロジェクトを組んで、例えば、福祉事務所や老人ホームを訪ね、実際に聞き取り調査をし、それをぺーパーにまとめ発表したりするプロジェクト研究に重点がおかれていた。

右端が筆者

IPCでの日常生活

 IPCでの日常生活は、概ね次の通りです。
月曜日から金曜日までの平日は、

7:15-7:45 朝食、
8:00-8:30 Good Morning IPC(教授、学生の全員参加、世界・校内ニュース、歌等)
8:30-10:00 授業(45分2コマ)
10:00-10:20 Coffee/TeaBreak
10:20-11:50 授業(45分2コマ)
12:30-13:00 昼食
13:45-15:15 授業(45分2コマ)
15:15-15:30 Coffee/TeaBreak15:30-17:OO授業(45分2コマ)
18:00-18:30 夕食
19-45-21:15 授業(月曜日のDance,金曜日のWorld Religionのみ)

 但し、水曜日の午後、土・日曜日には、スポーツ、参観、個人研修、掃除等に当てられた。
 クラスは、科目により4名から16名の小クラスで、授業は、プリントされた資料、ビデオ、0HP、映画、地図等を使い、教室ばかりではなく、屋外や施設訪問、先生宅の応接間で行われることも多く、いつでも質問をしたり、自分の考えや経験、自国の状況を述べることができ、大へんアット・ホームで楽しい授業です。

 なお、学生には、すべての者が参加を義務づけらている共同作業の時間があり、食事のテーブル・セッティング、食後の皿洗い(機械使用)、部屋の掃除等チームを組んで、週に1-2回まわってきた。

 また、学生をアジア、アフリカ、アメリカ、中南米、ヨーロッパの5つの地域に分け、各地域から代表男女1名づつ計10名を選び、学生自治会が設けられ、学校側への要望やIPC新聞の発行、誕生合・お別れパーティの企画等活発な活動をしていた。

 課外活動としては、スポーツでは、バレーボール、卓球、屋内サッカー、バドミントン、フォーク・ダンス、また、近くのジムでの体操とプールでの水泳等があり、参加したいものは、誰でも参加することができた。また、毎週土曜日の夕食後には、学生主催による趣向をこらした自国を紹介する「文化の夕ベ」、水曜日夕食後には、音楽、劇、ゲーム等のプログラムをはじめ、先生企画の全先生参加のバラエティ番組もあった。

 ”日本文化の夕ベ”には、日本の仲間8名と共に、夕食におでん・焼き鳥・卵どんぶり・みそ汁を学校の予算とシェフの助けも借りて料理し、日本の味を賞味して貰った。そして、食後は、会場を体育館に移し、日本のお茶、お花、日本舞踊、合気道等のデモンストレーション、日本の歌、ゲーム、日本紹介ポスター・広島原爆平和展示等で、大変好評を博した。

 このほか、10名ぐらいに分かれての先生宅での夕食合や3時からのCoffee Mix(交流会)、また、学生によるアマチュア・ナイト(音楽/劇/バラエティ/ダンス等)、ジャズ・ナイト、ディスコ・パーティ、日曜日の映画会、チボリ公園・ルイジアナ美術館等々の参観等盛り沢山のプログラムがあった。こうしたプログラムを通じ、先生はもとより皆ファースト・ネームで呼び会いたいへん親しくなった。また、キャンパス内の湖畔でのキャンプ・ファイヤー、魅力的なほほ笑みのまだ若いサリー先生(音楽・ダンス担当/英国人)の急死と記念会・記念植樹も強く印象に残っている。

 食事は、国の数も多く、食堂に豚の絵(モスレムは食べない)や牛の絵(ヒンズーは食べない)をだしたり、ベジタリアンの食事を別に用意したり、香辛料が多いとか少ないとか苦情を言われ、シェフやキッチン・スタッフは、いろいろ苦労していたが、絶えず栄養のバランスを考えたメニューで、質・量とも十分で、結構おいしく楽しみながら食べていた。なお、どうしても食事のあわない学生は、地下にあるスチューデント・キッチンで、近くのスーパーで買って来たり、国から持って来た食材で自分で料理していた。

 英語は、日常会話ができれば、徐々にヒヤリングにも慣れてくるし、ネイティブ・スピーカーを除げば、皆条件は同じであり、英語に関心と意欲があれば心配はなく、終了時には、随分上達するものだと感心した。

留学の手続き

 なお、デンマーク滞在が3ヵ月以上となる秋期講座を受ける場合は、デンマークのビザが必要となる。これも、在日デンマーク大使館のビザ申請書類に、IPCの入学を証するレターをつければ、2ヵ月ぐらいかかるが、滞在ビザは間違いなく取れる。このビザがあれば、エルシノア市の健康保険証が貰え、ホーム・ドクターが指定され、病気になった学生は、無料で診察を受けていた。また、IPC学生には、エルシノア市立図書館の図書カードが発行され、よく利用させて貰った。

 秋期講座の経費は、授業料、食費、寮費、参観費を含んで19,200DKK(1デンマーク・クローネ20円として368,000円)、個室希望者は、2400DKK(週150DKK)追加、デポジット800DKK(修了時返還される)であった。これは、学校に年間を通じてデンマーク教育省から補助金がでているので、このように安く講座を開くことができるとのことであった。

 秋期に、日本の文部省外郭団体の婦人社会教育者一行が、1週間ほどIPCに滞在したが、IPC教育に感銘を受け、10年後退職したら是非IPCで学びたいと、真面目に入学予約をしていった人もいるくらい、IPCはすばらしい学びの場である。

 今年の夏季講座"Meet the American Course"は、'デンマーク:おとぎ話と現実"というテーマで、7月11日から同18日まで7泊8日の日程(経費:2500DKK)で開催され,また、秋期講座は、8月31日から12月20日16週間の日程(経費:16000DK区)で開催される。

 "百聞は一見に如かず”。一人でも多くの方がデンマークで学ばれる機会をもたれるようお勧めします。