98.7.18.フェアトレード研究会公開学習会報告

心の時代 南米ペルーにおける国際協力実践

アンデス命の水協会 真島圀弘 

ペルー、チチカカ湖周辺の村落の人々と真島さん

チチカカ湖の村民

 今回の公開学習会では、南米ペルーの、二つの異なった地区の国際協力の現場を、スライドを通して見て頂きました。一つは、アンデス山脈の奥にある標高四千メートルの高地のチチカカ湖に浮かぶタキーレ島での、生活改善の協力現場でした。もう一つは、南米大陸の西側に数千キロメートルに渡って広がる砂漠の中の村での、給水事業の現場です。

 前者は、インカ帝国の組織が今も残る伝統的社会です。インカ帝国もインカ皇帝自身もとうの昔に滅び去ったのですが、この村には主席代官と次席代官、四人の補佐官及び伝令一人を中心とする長老会議が、政治を担当しているのです。五百年前と同じ生活があり、五百年前と同じ文化が花を咲かせているのです。国際協力として私に要請があったのは、病人のための診療所の建設でした。

 現地には建物を造作する技術があるのは明らかでした。実は、中味が重要だったのです。つまり、医師や看護婦などの医療技術者と薬品の納入です。医師は都のリマから二人来てくれましたが、結局は訪問に終わりました。看護婦も最初の数名はうまく行かず、県にお願いしてようやく週日に常駐してくれる「有意・有徳の人」が来てくれる事になりました。都とこの高地の離れ小島とでは、言語も風俗習慣も気候も違っているのです。

 その間に、私は村の青年を県の医療学校に通わせる一方で、私が病人を見て回り、村人の健康調査をしました。九州大学や千葉大学の先生方から送ってもらった日本の薬品が届いてからは、まるで「越中富山の薬売り」のような仕事が始まりました。病人の待つ家へ三人のアシスタントの若者と一緒に薬箱を持って実際に出かけて、自分にできる治療をするのです。この三人の若者達は、薬品の使い方などを身につけてもらいました。そして、薬品も次第に県都で購入できる薬品に替えて行きました。 

 オランダ政府の援助が得られて、診療所は予定より早く完成し、医療学校に行っていた青年は注射が打てるまでになり、県からは看護婦さんに来てもらって、この村の医療体制が動き出しました。どうにか、国際協力の目標は達成したのでしたが、しかし、私の目的はほかのところにありました。村人の心の中です。薬箱を持って各家庭を回り、その時その時の村人に(1)「おいしく食べましょう。」(2)「ぐっすり休みましょう。」(3)「清潔な生活をしましょう。」という話をしました。つまり、生活改善の話しです。 

 村の三か所に畑を借りて、実験農場を整備し、村にない野菜を栽培し、私の家に来る人には私の手料理を食べてもらいました。私の造ったベッドや布団に休んでもらいました。そして、要請があれば、家屋の屋根に降る雨水を集めた、セメント製の貯水槽を一緒に造りました。診療所で治療を受ける前の、「予防」という考え方です。より快適な生活のためには、自分で自分の健康を守るという自覚が必要です。村人との直接対話で、この事を伝えることができたのが真の国際協力だったと思います。そして、村人との直接対話で、純真な笑顔に出会い、温かい感謝の言葉をもらいました。この村での生活で、小さな事に真実がいっぱいつまっている事を知りました。そして、このような真実をいっぱい散りばめて人生が送れたらどんなに素晴らしいことだろうと思いました。 

 さてさて、二つ目の現場は、コレラに襲われた砂漠地帯にある村です。標高七千メートルに近い雪を頂いた山々が連なるアンデス山脈の清らかな雪解け水を、電気も使わずに、水道管だけで、砂漠の村に水を届ける仕事です。穴を掘るなどの仕事は村人が参加し、水道の敷設と、その後の貯水タンクの管理などの技術も学んでもらいます。材料はすべて現地調達です。

 村人は何百メートルも歩いて池に水を汲みに行く生活をしています。しかも、朝夕二回は必ずです。蛇口をひねるだけで清潔な水が出てくる日本とは大きく違います。水道は、村庁舎と議会と商工会と警察のある村の中央広場と小学校、そして最終的には民家まで届く事を目指しています。工事が完成して、中央広場で村人が見守る中に、「初めての水道」の蛇口が初めて水をはじき出す時は、もうお祭り騒ぎとなります。純朴で底抜けに明るい人達が、涙を流して踊ります。そして、かわるがわる、私達日本人スタッフを両腕で強く抱き締めて、喜んでくれます。この時は、私達も嬉しくて、村人と一緒に仕事をした充実感を心から味わうのです。

 村を訪問する度に、砂漠の中に緑が大きく育って行くのを感じます。多くの人々に支えられた協力事業が根付いているのを実感します。そのうちに、砂漠の村に、オリーブやオレンジいちじくやぶどうが実ることでしょう。それを又、村人と一緒に食べられたらな、と夢見ています。                               (完)   

付記 「アンデス命の水協会」は1998年8月31日参議院議長賞を受賞した。