第四回 協会関東集会へ寄せる幹事からのメッセージ

2002年5月12日

清水 満

 本日の会合にお集まりになったみなさん、盛会を心からお祈りします。

 残念ながら所用にて参加できませんが、幹事としてかんたんにグルントヴィ協会についてご説明をしたいと思います。

 グルントヴィ協会はデンマークに始まる成人教育・社会教育の学校フォルケホイスコーレのスタイルにヒントを得て、市民運動的な教育運動をする小さな団体です。全国に130名ほど会員がいて、ゆるやかなネットワークを形成しています。協会自体が何かをするというよりも、会員のみなさんがそれぞれ独自の活動を地域で行っており、それらの情報交換の場になっています。

協会自体の活動としては年に数回のセミナーや会合を各地で開いています。今日の関東の会もその一つですが、メインの会合では必ず宿泊して寝食をともにし、生きた言葉を語り合うというスタイルをとっています。といいますのもデンマークのフォルケホイスコーレがそうした全寮制の学校であり、人々は数ヶ月間生活を共にしながら、さまざまなことを学び、連帯や友愛を作り上げていくものだからです。フォルケホイスコーレとは「民衆の教育学校」といった意味です。

グルントヴィというのはこの学校のアイディアを考えた人の名前で、デンマークでは最も重要な人物です。協会が彼の名前をつけているのは、別にこうした人物を顕彰するという意味合いではありません。グルントヴィという名前は、世界的には、ブラジルのパウロ・フレイレ、アメリカのエデュワード・リンデマン、マイルズ・ホートンなどと並んで、民衆の解放教育の志向をもつものと理解されており、彼の名前をつけておれば、行政が上から進める社会教育ではないことがすぐにわかるからです。ちなみにリンデマンとマイルズ・ホートンは日本ではあまり有名ではありませんが、リンデマンはアメリカの社会教育の父と呼ばれる人で、今日のコミニティ・カレッジにつながるようなアメリカの社会教育を基礎づけた人です。マイルズ・ホートンはハイランダー・フォークスクールをつくり60年代の公民権運動のリーダーになった一人です。「We shall overcome」という歌はみなさんご存じかと思いますが、それはこのハイランダー・フォークスクールでつくられ、広まったものです。二人ともデンマークのフォルケホイスコーレ運動からこうした解放教育のヒントを得た人です。

デンマークのフォルケホイスコーレでは一番大事なのは、人々が学びの中で相互に啓発し合い、それらを通して自分自身が社会を支えるよき市民として自覚をすることです。そのため協会としては、たとえば「〜をする会」とか「めざす会」という何か単一の目的を遂行する団体としては位置づけておらず、その点でいつもどんな団体かわからないという苦情をいただきます。というか、本音をいえば、幹事も会員のみなさんもよくわかっておりません。目的を明確にし、その遂行のために効率的に運営することがよしとされる現代、こんないいかげんな団体が一つくらいあってもいいだろうというのが幹事としての本心です。

協会の会合では、セミナーの中身だけではなく、人が集まること自体に価値をおき、いかにしてわきあいあい、心からの言葉が出るかを大事にしています。今日ワークショップなどという名前で呼ばれるようになりましたが、人が集うことでそこに何か新しいものが生まれ、その刺激を受けることで喜びや小さな自己変革が始まることを目指すのです。

それは古くさい言葉を使えば「友愛」とでもいうべきものです。この言葉を最初に定義づけたのは古代ギリシャの哲学者アリストテレスですが、彼は
1、友人はたがいに相手との交わりに喜びを得るべきであり、
2、たがいに相手にとって啓発的であるべきであり、
3、ともに善へのコミットメントをもつべきだと語っています。

友情、友愛は現代思われているように決して私的、個人的なものではなく、本来は公共的なもので市民社会を支えるものなのです。といいますのも、現代社会が利益や組織の力だけで人々がつながるようになれば、利益と権力の争いの場にしかならず、競争相手よりもいかに効率よく自分が利益をもたらすか、交渉ごとでいかに自分が有利になるようにかけひきをするかといったことが大事になってしまいます。そこには市場や会社、行政はあっても、都市や広場、弱者や組織に属さない者たちのいる場所がなくなってしまいます。

アリストテレスは都市は市民的友情、市民の公共的連帯の場であるとし、友情が共通の善へコミットするというとき、その市民社会を支えることを意味しました。自分の家族や会社だけ、自分の帰属する組織だけのことを考えないときに友情、友愛というものは生まれ出るのです。恋愛、家族愛、愛社精神、愛校心、愛国心だけでは公共的連帯、市民的連帯は生まれないというわけです。

協会のセミナーは、みながともに語り合いながら、共通の善へのコミットメントを可能にすることを目指しています。ただ学ぶだけではなくそれが次の実践へのモチベーションとなるような内容を心がけています。ナマケもの倶楽部が行っている環境の問題も公共的な場であり、狭い次元で考えられるようなものではありません。今日のよき日にここで相互に交流できることも一つの友愛の証であり、ともにこうした問題を考え行動していこうとするきっかけになるものです。今後ますますお互い啓発しあい、ともによきコミットメントができるようになればと祈っています。