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カントリーウオークのおすすめ

                                                    (野道ネットワーク)
山浦 正昭

 日本人として日本に生まれ、日本の伝統的な風物に郷愁を抱かない人は少ないと思う。どんな高層の冷暖房のきいたマンションに住んでいても、浴衣を着て、うちわを持って、夕涼みにでかけ、花火を見た帰りに、かき氷を食べて帰ることで、夏の暑さを忘れる。秋になれば、お祭り、運動会と続き、晩秋のいかるがの里でも歩きたくなる気分になる。

 いくら生活様式が洋風化されたといっても、体内を流れているのは日本人の血である。どうやら血までは洋風化されないようである。ときおり、日本的なものに血がさわぐのは当然なのかも知れない。

 最近日本各地でも、清流をとりもどす運動や、古い町並みを保護しようとする運動が盛んになりつつある。やっと日本人もそうしたことの大切さに気がつくようになった。魚が住まないような川や、野鳥がやってこないような裸の土地に、同じ生物である人間が、住みよく暮らせるわけはない。

 ヨーロッパへたびたび行く機会があり、いろんな地方を旅して歩いていると、実によくその土地の風物を大切にしていることに、つくづく感心させられる。大都会のまん中に石畳の道があったり、新しい住宅にかやぶきが使われたり、まわりの環境に実にマッチしていて、旅人の眼にも安らぎと美しさを感じさせてくれる。


川べりを散策(ドイツ・エッセンーケットヴィヒ)

 田園の美しさが絶品であるのも、ヨーロッパの魅力となっている。イギリスでは牧草地の境が石垣で作られていて、ドイツのぶどう畑、オランダの小麦畑と、まるで名画を鑑賞させてもらっているようだった。

 一方日本の現状はどうかというと、残念ながら各地で古き良きものが、どんどん失われてきていて、とても残念である。でも、地図を片手に二本の足でこまめに歩いて探せば、まだまだ美しい風物に出会うことができる。

何でもない小さな木の橋
風雪に耐えた木造校舎
日本の風土にあったかやぶきの家
カスリを着て畑仕事のおばあちゃん
赤いエプロン姿のお地蔵さん
野草咲く野の小径
鈴なりに実った柿の実
レンゲや菜の花畑
刈り取った稲のほだ掛け
駄菓子屋で群がる子どもたち

 カントリーウオークは、忘れてしまった日本人の心を呼び起こしてくれる。自分が日本に生まれながらあまり日本を知らないこと。そして、日本人の伝統的な暮らしや生き方からかけ離れてしまっている事実にぶつかる。「日本人って?」「日本人らしい生き方って?」なんだろうと自問自答をくり返す。

 たしかに西洋の近代文明の吸収によって、日本人の物質的満足度は高まった。いろんなことが便利になり、苦しい作業や病気からも解放された。でも、解放されたあとで、何をすればいいのかとまどってしまっているように思える。家事の機械化によって、ひまを持て余し、運動不足になってエアロビックスダンスへ通うなら、せんたく板でていねいに洗濯をした方が、痛みも少ないし、運動不足にもならない。

 カントリーウォークは、観光地のような特別な所を歩くのでもないし、登山のように決まりきったコースを歩くのでもない。ありふれた、どこにでもあるような、田んぼや畑のあるごくふつうの場所を歩く。競技スポーツのように特別なコートや用具もいらないし、ルールもなく、相手も必要としないから、ひとりでもでき、しかも適当な運動効果がある。身近な自然や文化も再発見できるし、土地の人とのふれあいを持てる。ゆっくりコースにしばられずに歩く速度は、気持ちをゆったりさせてくれ、会話をしながら歩くことができるから、コミュニケーションがはずむ。

 今、私たち日本人は新しい生き方をめざして転換していかなければいけない時代にさしかかっている。そういう意味からも、カントリーウォーク流の歩き方は、私たちの明日の生き方の最初の一歩を踏み出す道しるべになってくれるような気がする。

 さあ、あなたも日本各地の失われ行く農村の風物を求めて、二本の足と地図を頼りにカントリーウォークに出かけて見ませんか。

 (『ウォーク』山と渓谷社より)


山浦さんのスケッチ(イギリス・エジンバラにて)