坂口緑(明治学院大学)
2018年8月1日から8月4日までロンドン大学(University College of London)で開催された「グルントヴィの影響に関する国際シンポジウム」に参加しました。
もともとは名古屋大学の小池直人先生、本協会の清水満さんにご招待が届いたのですが、お二人がご多忙のため代理として私が参加してきました。このシンポジウムはアメリカのサムフォード大学Mark Bradshaw教授とデンマークのコペンハーゲン大学Anders Holm教授の共催で、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、イギリス、ラトビア、ハンガリー、ナイジェリア、インド、バングラデシュ、フィリピン、中国、韓国、日本、アメリカなどから、研究者や成人教育関連の学校関係者約60名が集まりました。
3日間、毎朝、朝の集会(Morgensamling)から始まるホイスコーレスタイルのシンポジウムで、英訳されたホイスコーレの歌をみんなで何曲も歌いました。食事も一緒、夜はパブでも一緒に過ごす、ホイスコーレスタイルのものでした。
私は、東アジアのセッションで、日本におけるグルントヴィの影響について19世紀後半から20世紀初頭の農業の近代化とグルントヴィ思想が輸入された経緯を中心に発表しました。
韓国の若い教育哲学専攻研究者のHaejin Chungさんは、卒業した高校がグルントヴィの影響で建てられた学校のひとつだそうで、お父様も韓国でただ一つ最近設立されたエフタスコーレの校長先生をなさっているという方で、やはり同じ時代、日本に留学してA.H.ホルマン『国民高等学校と農民文明』の那須皓による翻訳書が影響を及ぼした様子を報告しました。
また、中国の神学専攻の研究者で最近オーフス大学にグルントヴィの博士論文を提出したばかりの研究者のWeng Geさんも、グルントヴィを中国に紹介した教育学者Lei Peihongの思想を中心に報告しました。

東アジアセッション(右が筆者)
ほかにも、アメリカから、ハイランダーホイスコーレの卒業生を中心に各地に自生的に発達してきたホイスコーレのネットワーク化を進めているVicky EIbenさんとDawn Murphyさんが、近年のアメリカの様子について報告しました。イギリスから、成人を対象とするノンフォーマル教育機関としてホイスコーレをモデルに発足した宿泊型教育施設Fircroft Collegeの校長を務めるMalanie Lenehanさんは、ジャック・メジローの理論を元に、変容的学習を実践していることを報告しました。
報告の合間には、ホイスコーレに必須の条件とは何か、グルントヴィの現代的意味は何か、といった課題について話し合いをもつワークショップも開かれ、各国の状況についての情報交換をしながらも、グルントヴィの思想がどのような展開可能性をもつのか共有できる時間となりました。北欧諸国からの参加者が、ホイスコーレには「歌が必須」と指摘する一方、英語圏からの参加者にとって必須なのは「コーヒーとケーキ」、アジア諸国からの参加者は「対話」とそれぞれ主張していたのが印象的でした。
清水満さんをよく知るAsoke Bhattacharya 教授(Professor of LIfelong Learning, Adamas University, India)、Edicio Dela Torreさん (Chair, Education for Life Foundation in the Philippines)も参加なさっており、よろしくお伝えくださいと言付かりました。東アジアの農業と植民地化の過程でホイスコーレがどのような役割を果たしたのか、など新たな研究テーマを確認し合い、東アジアセッションに参加した3人でせひ今後とも継続したいという話をしました。大人になって参加するホイスコーレスタイルに、最初から最後までたいへん楽しんだ3日間でした。
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