自ら創り出していく学びの学校
―大阪の「わくわく子ども学校」の試み
わくわく子ども学校の表札
 以下の原稿は昨年10月2日神戸市で行われた協会のセミナー「サタディ・ホイスコーレ神戸」での、「わくわく子ども学校」の活動報告です。「わくわく子ども学校」は、2004年4月に大阪府箕面市に開校したNPO立の自由な学校です。

 わくわく子ども学校の常勤スタッフをしている藤田です。

 私たちの学校はどういうものかといいますと市民がつくる新しいタイプの学校で、既成の公立学校や私立の学校とも違います。4年くらい準備にかかったのですが、この4月から開校しました。

お話しをする藤田さん
(以下の写真はクリックすると大きくなります)

1、始めるまで

 まず経過を話しますと、私たちは「大阪に新しい学校を創る会」というNPO法人なのですが、4年前に任意団体として発足しました。グルントヴィ協会の会員でもある辻と高校教員をしている増田の二人が十年ほど前に意気投合して始まった会で、最初は辻の自宅などで会合を開いたりしていましたが、学校をつくるからには新しい場所を決めないといけないということになりました。

 どうして箕面にしたのかというと、増田が箕面の高校教師だったので、箕面でいろんな市民活動をしていたり、大学時代の友人が多数いるということで、地縁みたいな人間関係が箕面にありました。また箕面市は市民活動も盛んなので、箕面がいいんではないかということで土地探しも始まりました。

 私自身がこの会と出会ったのは、マイロ・カッターさんというチャータースクールの校長先生の講演会で、会ができて二年くらいたった頃です。みんなで月一回集まってどんな学校にするか、どんなふうに運営するか、どんな場所にするかを話し合ったり、あるいはここにおられる(現役小学校教師である)郡山さんの話を聞いたり、どんな教育がいいのかを議論しながらやってきたわけです。

 2004年度に開校するという目標は立っていたので、とにかく場所を決め、スタッフも集めて生徒募集をしなければならないということで、昨年10月に一軒家を箕面で借りて、生徒募集のチラシをつくりました。それと同時にスタッフの募集も開始しました。スタッフについては、いきなり外部から集めるよりも、議論に参加してきた会員から集めた方がいいということになりました。議論に参加していないと内容をを理解するのが難しいと思ったからです。

学びの様子

2,ユニークな学習の形態

 募集対象は小学生です。わくわく子ども学校自体は中学校の課程まであるんですが、子どもの主体性を尊重した学校なので、一般的な学校で過ごされた生徒さんは、いきなり学校でのやり方になじめないだろうということで、原則としてここの小学生段階から入学することが条件になっています。ですから今回の第一回目の募集は小学生のみを募集し、結果的には7人の子どもさんに来てもらっています。ここは全日制の学校ですが、まだ無認可なので、学籍だけは地域の公立学校に置く形をとっています。

 どんな学習形態や方式をとっているかといいますと、まず国語、社会、理科、算数という教科はなく、「表現」、「トピック」、「プロジェクト」という大きく三つにわけた学習形態をとっています。

 「表現」では、自己表現をしながら生きていくための方法を身につけます。たとえばことば、かずの学習、自分で調べること、工作、お絵かき、おと、からだなどがあります。要するにこれが自己表現をするための手段の基礎を学びます。子どもたちは、ことば、かず、お絵かき、おとなどをよくやっています。

 「トピック」はスタッフが子どもの意見を聞いて、大きなテーマを決め、その大きなテーマから子どもたちがそれに添う小テーマを自分で決めて、取り組みます。あとでその小テーマについてとりくんだことを発表し、みんなで話し合っていく中で、大テーマについて深めていくという形をとります。たとえば一学期にやったのは、メキシコから留学生が来るということもあって、メキシコについて調べたりとか、スーパーの食品を調べたり、夏祭りを調べて自分たちで夏祭りを実行していくというようなことをやりました。

 最後の「プロジェクト」ですが、各自が自分のやりたいことをやっていく時間です。お菓子づくり、巣箱作り、カエルの研究など、自分でテーマを決めて取り組みます。

みなで学ぶ

調べて学習

 一週間のうちに、「表現」、「トピック」、「プロジェクト」はそれぞれ同じ時間くらいあります。木曜日の午後は全校集会になっていて、みんなで話し合って学校のことを決めていきます。毎週金曜日には、子どもが来週の学習計画を自分で立てます。最初は自分で来週の学習計画を決めるというのは子どもたちにはむずかしかったのですが、二学期になるとスムーズに計画を立てられるようになってきました。

 学習の方法ですが、「個人学習」といって自分で教材を選んで自分でする方法もありますし、「共同学習」というものもあって、スタッフが提案したものをとるものもあります。これを取るか取らないかは子どもが選択します。あと、自分で何かやりたいことがあるけれども、一人では無理だというときはスタッフに相談してやるという「特別学習」もやっています。この3つを子どもたちは自分のニーズに合わせて組み立てて学習しているわけです。

 二学期になってスタッフでプログラムを決めて提案している「共同学習」が四つあります。「かず」と「ことば」と「野外活動」と「おと」というもので、スタッフがそれぞれ子どもたちの意見を聞きながら、必要だと思うことや、やりたいことなどを子どもたちに提案しています。受けるか受けないかは子どもが選択します。あと子どもたちからの提案で「からだ」というプログラムがありますが、それは身体を動かすことをみんなで相談しながら毎週やっています。

 私たちのやり方はフレネ教育にヒントを得ていて、自分で学習できる仕組みというものを学習環境として整えようとしています。学習計画表というのもそれで、毎週金曜日に自分の来週の学習計画を立てて、その計画表にもとづいて自分の学習を展開します。

 また、「学習カード」というものがあります。これは「トピック」で二学期に「からだ」をテーマに取り組んだもので「からだクイズ」になっています。たとえば「つばは一日にどのくらい出るでしょう」とか、「からだ」に関する面白そうなクイズを表に書き、裏に正解が書いてあります。裏面には、子どもがやった日と名前を書句欄もあります。「「からだ」クイズのファイル1を見よう」という項目もあるんですが、その別ファイルを見ると答えだけではなく、詳しいメカニズムが説明されたプリントが入っていて、もっと知りたい子はそれを見たらなぜその答えのようになるかということがわかるようになっています。これを子どももつくります。子どもも面白いなと自分で思うことをクイズにして「からだクイズファイル3をみよう」など、自分で書いたりします。これは「わくわく子ども学校」の財産として、新しい子どもが来てもこれを使えるように子どもにも返さずもっておこうと思います。

からだクイズのカード

 カードをつくったら対応するような本をつくります。これを「豆本」と呼んでいます。既成の教材などを利用して、それを切り貼りしてつくっています。カードをやって興味をもった子どもが豆本を見たら、さらによくわかるというようなしくみになっています。子ども自身が「トピック」や「プロジェクト」でしたことがあれば、それもまた豆本をつくります。たとえば「チョコレートマカロン」を作ったら、自分で調べた歴史や作り方を書いた豆本をつくるのです。これもまた学校に置いて、つくりたい人がいたら、これを見てまたつくるというふうになります。豆本をつくることをフレネでは「アルバムづくり」といいます。「表現」でも「トピック」でも「カードづくり」や「アルバムづくり」を混ぜてやっていきたいと思っています。

3,今後の課題

 私たちの学校は通知表はありません。毎週末、本人と保護者とスタッフが学習計画表見ながら1週間の学習を振りかえり、文章表記して本人に返しています。それをファイリングしています。学期末には、その学期を振りかえったコメントを記述します。ホームページの方でも学校の毎日の様子を記載していますので、お帰りになられら一度アクセスしていただきたいと思います(http://www.doblog.com/weblog/myblog/12054)。

 経済的基盤についていえば、授業料と寄付によってまかなっています。ほかには補助金の申請ということもあります。今7人の子どもさんに来ていただいていますが、その授業料では現在の運営費の半分になるかならないかというところです。開校するまでにみんなでいろいろと出し合ったり、寄付をお願いしたりして、二百万円程度集めました。一年間にだいたい七百万円の経費が必要なのですが、授業料はその半分くらいで、残りを自分たちで何とかしないとけないというのが状況です。ですから、一番の困難は財政的な問題で、知り合いに寄付を頼んだり、大口で頼む方法、小口で頼む方法など、何かいい方法はないかということで頭を悩ませています。その他、バザーをしたり、補助金を申請したりといろいろな努力もしています。

 もう一つの大きな問題は、生徒の数がなかなか増えないということです。いろいろと理由はあると思うのですが、「無認可」であるということと、こういう学習のやり方が頭ではいいとわかっていても、いざとなると自分の子どもを通わせるのはちょっと怖いというか、なかなかそこまで思い切れないという方が多いのではないかなと思っています。

 あと悩んでいることといえば、子どもたちの住む地域とのつながりです。この問題については、学校側だけではなく、保護者の方にもいろいろ配慮していただかなくではいけませんが、わくわく子ども学校の子ども達には、自分から出会うきっかけを創り出していけるような子になって欲しいと思っています。

 行政との関係ですが、構造改革特区という制度があり、その提案はずっとしています。今年(2004年)3月に文部科学省と内閣府の担当者が大阪にやってきて申請団体のヒアリングをしました。そのときに文部科学省の方からは、NPO法人が学校をつくった例というのはまだないので、前向きに行動してほしいということをいわれました。そうなると、特区の提案は誰でもできるのですが、申請は行政がしないといけないので、私たちとしては箕面市との交渉が大事になってきます。市の教育委員会にも何度か行きましたが、(NPO関係は)市の教育行政の範囲外のことだからというようなことをいわれ、とくに進展がありません。8月末に市長選と市議選があり、そこで市民派の市長が当選されて、市会議員も市民派の方が増えました。市長在任中に何らかの動きがあって欲しいと思っています。

4,自ら創り出していく学びを

 今日は子どもの作品をもってきています。フレネ教育にはいろいろな美術の方法があるのですが、それがカードになっています。そのカードにもとづいて描いた絵です。技法自体はみなさんよくやられているものと思います。これはストローで絵の具を吹いて描いた絵です。こちらは、シールを貼って描く絵で、描いた子は「宇宙人が空から暗号を送ってきたところ」といってるんですが、そういわれるとこの絵もいい絵に見えるなと思ってます。さきほどのインスタレーションで「タイトル次第」といわれましたが、そうだと思いました。

ストローで描いた絵

 わくわく子ども学校では、子どもが自分で考えて自分でカリキュラムを作っていきます。人から与えられる学びではなく、自ら創り出していく学びを通して、子どもたちは成長していっています。言うだけではわかりにくいと思うので、また一度見学にも来て下さい。

 質疑応答

Q 算数などもしたくないといったらさせないんですか?

A 本人がどうしてもしたくないといったら強制はしません。だけど私たちもやった方がいいとも思っているので、「かず」というスタッフ提案のプログラムがあって、そこで呼びかけはします。今回こういうことをしますから、やりませんかと呼びかけるんですけれどもしない子はほとんどいません。ただ三年生の子で、九九がうまくいえない子がいて、九九をもっとしようよと何度も誘うのですが、彼女は「いや、九九はもういい」といいと言っています。逆に二年生の子どもがいて、この子はもう二年生の段階を終わって、三年生の範囲の算数をしたりしています。追記:この時の九九の言えなかった子は、あるとき、自分から九九をやると言い始め、九九をマスターし、今では割り算に挑戦しています。

Q 学校はどんな建物ですか?

A 二階建ての一軒家でです。庭もちょっとあります。近くに大きな公園と大きな図書館があって、公園は歩いて二分くらいのところで、身体を動かしたいときはそこにいって遊びます。休み時間はけっこう長くとっているので、休み時間も公園に行ったりしています。追記:庭に子どもたちが野外活動プログラムで作った基地が完成しました。竹などの材料も自分たちで集め、子どもが5人ぐらいは座れる基地ができあがりました。

Q スタッフは何人いますか?

A 常勤は私1人で、非常勤で5人います。

Q 助成金の見通しなどはどうですか?A あまりないですね。申請はしますけど、あまりあてにせずもらえたらラッキーくらいの気持ちでいます。前に一度立ち上げのときに、箕面市から50万円もらったことがあります。

Q 生徒は通いで来るのですか?

A そうです。箕面市内が6人で、豊中市からが1人です。埼玉など県外からの問い合わせもありましたし、寮はありますかという質問もあります。しかし基本的には通学できる範囲の子どもが来ます。そのようにしたのは、保護者の方といっしょに学校をつくっていきたいという思いと、保護者もいっしょに学び何かをつかんでいってほしいという願いもあるからです。

Q 「サマースクール」というのをしていますよね。今年はいかがでしたか?わくわく子ども学校の生徒だけではなく、近所の子どもたちにも呼びかけていますよね。

A そうです。夏休みと冬休みに、「サマースクール」と「ウィンタースクール」というものをやって、地域の子どもさんに来てもらっています。来てもらった子どもたちには大好評で、「こんな学校に毎日行きたい」という声も多いです。反応はいいんですけれども、この学校の生徒になるかといえば、それとこれは別で、あくまでも休み中の話という感じです。
 でも、ここに来ている7人の子どもたちは、「サマースクール」や「ウインタースクール」に参加して、それで来て下さった人たちです。こういう教育はすごくいいと思うから、だから夏休みと冬休みに通わせて、あとは公立の学校に行かせるというのが、一般的な保護者の考えのようです。やはりこの学校が無認可でNPO法人でやっているということが大きいと思います。学校といえば、公立学校か、認可された私立学校しかないという現状がありますから、そのどちらにも入らない学校というのは、不安というか、抵抗感があるのかなと思います。
 学校法人はかなりの資金がいるので無理としても、NPO法人でも(特区などで)正式に認可された学校になれば、そのような人たちにとっては、敷居が低くなるのかもしれないと思います。だから努力はしているのですが。

Q 不登校の子どもたちにもこんな学校があると知ってほしいですね。 

A そうですね。今来ている7人のうち2人が不登校だった子どもさんです。この2人とつきあっていてわかったことは、不登校と一口にいっても、いろんなタイプがあることです。わくわく子ども学校の場合、不登校の子どもさんを対象にしていないので、「フリースペース」などど比べてけっこう制約があります。「フリースペース」だったら、何時に来ようが何時に帰ろうが自由だし、来ても来なくてもいいという原則があるのですが、私たちの場合は、学校なので、9時に来て3時に帰って毎日来るというのが原則になっています。そうなると不登校のお子さんの場合、毎日来るというのはちょっとしんどいという子どもさんも出てきます。