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●シキミ ●シャガ
●ジキタリス ●ジャガイモ

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 シキミ(ハナノキ、抹香の木)


しきみの花

 やがて正面に、樒の巨木が現れた。生い茂る常緑の葉のあちこちにまだ雪が残っている、と思った時、それが雪ではないことに気がついた。
 花だった。その樒の枝の先に、親指の先きほどの可憐な花がびっしりと咲いている。淡い黄色がかった短冊形の白い花びらは、蝋のような鈍い光沢を放っていた。
 樒の花だ。この花が咲くのは、初夏のはずだ。いったいどうしたというのだろう。
 喉を締めつけられるほどの甘い香りに眩暈を覚えながら、私は狂い咲きする樒の木に近づいていった。
 樒は、この前見た時よりも生長したようだった。黒っぽい根が勢いよく大地につかみかかり、捩れた枝はさらに四方に広がっている。私は不思議な気分で、樒の大樹の下に立った。

坂東眞砂子「一本樒」

毒・害

薬・効

<全草、とくに種子
アニサチン、デイオキシアニザチンなどの神経毒

症状:吐き気、下痢、痙攣、呼吸困難、意識障害。中華料理の八角と間違えて口にし、中毒するケースがある。「実に毒ありて悪き実」というところから「しきみ」の名がついた。燃やすと死臭をも隠す匂いがするので、お墓や葬儀に欠かせず、古代からなじみの深い木である。香りとしてはむしろ好ましいものである。

・葉の粉末を酢や酒で練って、外用として、筋肉痛に貼る。

・節分の豆を煎る時に葉っぱを1枚入れると魔がつかないといわれる。

・仏事には無くてはならない木。宗派によっては一般家庭でも重要な木として植えられている。

・葉や実を線香の薫香料として。(今はあまり使われない)


 ジキタリス(フォックスグローブ)


原種のジキタリス

パントリー夫人は、深呼吸をし、両手を握りしめた。その顔は苦悩そのものだった。それから早口でぺらぺらと始めた。
「でも、あんまり話すことはないんです。<死のハーブ>で思い出したんですけど、わたしとしては“セージとオニオン”と呼びたいですね」

「セージとオニオン?」とロイド医師が聞いた。

パントリー夫人はうなずいて、「それで事が起こったんです」と説明した。
「アーサーと、クロッダーラム・コートのアンブローズ・バーシー卿のところに滞在していたときのことなんです。ある日セージと一緒にジキタリスの葉がいっぱい、間違って---どうしてそんな間違いが起こったのか、と前から思っていたんですけれど---摘まれて、その日の夕食の鴨の丸焼きの詰め物に使われて、みんなひどく具合が悪くなって、アンブローズ卿が後見をなさっていた娘さんが、かわいそうに、そのせいで命をおとしてしまったのです」
パントリー夫人はそこで話をやめた。

「まあ、まあ、なんて悲惨なの」とミス・マープルがいった。

アガサ・クリスティ「死のハーブ」

毒・害

薬・効

<全草
強心配糖体のジギトキシン、ギトキシンで、特に葉に多く含まれる。

症状:胃腸障害、おう吐、下痢、不整脈、頭痛、めまい、重症になると心臓機能が停止して死亡することがある。間違えて口にいれるととても苦いので即吐き出すこと。

心臓病の伝統的な薬として古くから使用されてきた。薬効が高いのは「ケジキタリス」である。
妖精にかけられた呪いを解くときには、ジキタリスの葉を10枚しぼってその汁を飲むとよい。


 シャガ 


シャガ
  


ヒオウギ

四月に花を開く。状はイチハツの花に似ていて小さく灰白色で黄色の文がある。根株は微紫色。実は結ばない。
俗にいい伝えて、「修験者が呪詛調伏するとき、この花を仏供とする。それで普通にはこれを忌むのだ」と。

『和漢三才図会』

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仏壇になにげなくお供えしちゃまずいお花らしい。(;^_^A
射干と烏扇との混同が見られるため、俳句の世界ではこのシャガのことを
「著莪」とか「胡蝶花」と表現し、ヒオウギを「射干」と書くことがほとんど。
『紫の 斑の仏めく  著莪の花  (高浜虚子)』

毒・害

薬・効

※和漢三才図会には毒草類に分類されているが、どのような効力があるのか明記がない。

<根
ベラムカンジン、イリジン

症状:多く服用すると嘔吐、下痢を起こす。

  


 ジャガイモ


野菜カゴの中で芽が出た


皮が緑になったもの

 新大陸からじゃがいもがヨーロッパにはこばれたのは16世紀半ばといわれているが、ジャガイモが一般に普及したのはそれから200年ほどかかっている。ほとんど同じ時期にコロンブスがイザベラ女王に献上したタバコやさつま芋とくらべるとものすごい違いである。

 それはどうしてかというと、このころジャガイモは、豚かよほどの貧乏人の食べるものつまりすこしも美味しくない(!)という評価や、毒のある食物であるとか、その形成から(?)忌むべき不吉なたべものという評価がくだされていたからである。

 ということで、各国の王や皇帝がジャガイモの救荒食物としての有用性にきづいて世間にひろめようとしたときには、国民にはすでに『忌避すべき食物:ジャガイモ迷信』がしっかりしみ込んでしまっていた。

そのせいで、ジャガイモを普及するためにさまざまな苦労があったようで、ロシアでは、栽培と食べることを強制したために暴動が4年間もおこり、ドイツのフリードリッヒ一世は「食べないと鼻と耳をそぎ落とすぞ!」と強迫した。

 その中でもなかなか面白いのはフランスの策略で、ルイ16世は王妃マリーアントワネットにジャガイモの花をつけさせて夜会に臨ませ、社交界の関心を集めさせた。一方、ジャガイモ畑に国王の親衛隊を派遣、昼間は見張りをさせるが、夜は監視を解いてみはりをひきあげさせ、『国王の作物』を盗みやすいようにして庶民に広めさせる作戦をとった。食えといわれると食べないが、食うなといわれると食べたくなる人の心理を見事に利用したのである。

毒・害

薬・効

<発芽部分・緑化した表皮部分
アルカロイドのソラニン。ソラニンは煮る焼くなどの加熱調理をしてもほとんど分解されない。(有名なサリンと同じものである)

症状:嘔吐、下痢、腹痛、めまい、脱力感、呼吸困難

芽、緑色の表皮を除けば問題はない。