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●バイケイソウ ●ハシリドコロ ●麦角
●反魂樹

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 バイケイソウ

↑さあ、毒でないのはどっち?

上:バイケイソウ 
下:オオバギボウシ

スペインのペドロ・デ・ベルボアという名の青年貴族の婚礼の日、花嫁のニエペスは村の娘が差し出す祝福の花束を喜んで受け取り、芳しい花の香りを胸一杯に吸い込んだ。少ししてから、突然、彼女の足取りが重くなったように見えて、パタリと倒れてしまう。すでに息はなかった。
(略)
花束を託された村の娘の証言から、ドニャ・カタリナという、かつてペドロの愛人だった30歳の女が疑われたが、容疑をきめる毒が確定できず無罪放免となった。
(略)
しかし、男女の仲というのは不思議なもので、ペドロとカタリナはよりをもどすことになる。結婚をせまるカタリナに、にえきらないペドロ。ついに彼女は毒のついたピンでペドロを刺し殺そうとする。この事件がもとで彼女は再び逮捕され、花嫁の一件も糺され、カタリナはすべてを自供することになる。
(略)
花束の毒は、昔から土地の猟師が狩りに用いていたバイケイソウから採れるアルカロイド系の毒だったという。

瑞穂れい子「毒婦ドニャ・カタリナ」

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左:ギボウシ(食)  右:バイケイソウ(毒)>

山菜とまちがえて食べると幻覚症状をおこし、走りまわることからこの名がついた。

毒・害

薬・効

<全草
プロトベラトリン、ジェルビン、ベラトラミンなどのアルカロイド類

症状:食後10〜30分でめまいしびれなどの症状が出始める。脈拍の異常な低下、下痢・嘔吐、悪寒、意識不明。
同じ仲間のコバイケイソウ、シュロソウ等も同様に有毒。山菜のギボウシ(ウルイ)と間違える事故が後を絶たない。

・血圧降下剤、嘔吐剤としての利用もかつてあったが、副作用が強すぎるため今は使われない。

・殺虫用農薬としての利用

   


 ハシリドコロ

山間に咲く花

  

やって来るのは土の弟<つちのと>であるから土精であろうな。そいつはおそらくおぬしに、
人である身が何故かような場所にいるのか と訊くであろう。そうしたらこう答えればよい
『じつは、先日来わたくしは辛気を病んでおります。よく効く薬はないかと知人にたずねておりましたところ本日辛気によくきくという薬草をいただきました。それがハシリドコロという薬を干したもので、煎じて椀に三杯ほどいただきました。その後は何やら心がどうにかなってしまったようでここでぼおっとしております』
と答えるのだな」

「むうう…」

夢枕獏&岡野玲子「陰陽師」

山菜とまちがえて食べると幻覚症状をおこし、走りまわることからこの名がついた。

毒・害

薬・効

<全草
アルカロイドのスコポラミン、アトロピン、ヒヨスチアミンを含む。

症状:嘔吐、手足の痙攣、こん睡、呼吸停止にまでなることがある。山菜とまちがえて食べると幻覚症状をおこし、走りまわることからこの名がついた。

地下茎を乾燥したものは「ロート根」といい、ぜんそく・胃痛等の鎮静剤、鎮痛剤として利用される。

   


 麦角(アーガット)

-標本撮影-
麦についた
黒い角が
麦角菌の菌核

<アントニウスの業火>

アントニウス:251年頃、エジプトに生まれた聖人。『修道生活の父』と呼ばれる。シンボルはT字形の“エジプト十字架”  裕福な家に生まれるが、両親の死後、財産をすべて貧者にほどこして、祈りと瞑想の禁欲生活にはいる。その生活のなかで精神、肉体上の激しい誘惑を受ける。(悪魔からの誘惑のことで、ひどい暴力を受けたり天空に運びあげられておびやかされたり、女性の姿で誘惑をされたりする=「アントニウスの誘惑」) そしてついにそれに打ち勝った。この「アントニウスの誘惑」は15、6世紀の画家たちに好んで主題とされた。

麦角中毒による苦しみがこのアントニウスの受けた苦しみ(=業火)といっしょであるということから中世ヨーロッパで流行した麦角中毒が『アントニウスの業火』と呼ばれるようになった。

山菜とまちがえて食べると幻覚症状をおこし、走りまわることからこの名がついた。

毒・害

薬・効

<全草、菌核のついた穀類
数種の麦角アルカロイド、エルゴタミン等。小麦やライ麦によくつく。

症状:この菌がついたままで小麦を製粉、それをパン等で口にしたために、11〜17世紀のヨーロッパでは麦角中毒が大流行した。流産、手足の壊疽(生きながら痛みもなく四肢が腐っていくという状態、やがて死に至る) 日本でも岩手県で牛が死ぬ事故が起きた。

LSD:人間史上最も強烈な幻覚剤。わずか1/10000gで半日幻想の世界にひたることができる。この麦角菌から分離されたリゼルグ酸ジエチルアミドのことある。

・陣痛促進剤、止血剤として。

・かつては堕胎に有効な薬として利用された。

上野の科博で見つけたおまけ
麦角菌と漢方薬でお馴染みのキノコ、冬中夏草は同じ菌らしい。
へええ。

   


 反魂樹(反魂香=はんごんこう)

『和漢三才図絵』挿し絵

西域にに育つ樹。形状は楓、柏のようで、花や葉の香りは百里まで匂う。

隣に住む浪人・島田重三に「反魂香というものを焚いて、死んだはずの妻・高尾太夫に毎晩逢っている」と聞かされた長屋の八っつあん、ほんとうかどうかここでやってみせろと迫る。

重三「いや、これは尊い香であるからむやみにくべることはできません」
八 「そんなしみったれなことをいわねえで、ちょいとひとつまみでいいからやってみておくんなさい」
重三「では、お前さんの疑いを晴らすためにくべてしんぜましょう。けっしてご他言くださるな。これじゃ、反魂香というのは」
八 「フンフン、いい匂いだね。安かァねえんでしょうね」
重三「この香をたくと仏壇の前に高尾の幽霊があらわれる。八五郎殿、それではくべまするぞ」

(ドロドロの太鼓、ネトリの笛、すぐに幽霊三重の三味線になって高尾の霊が姿を表す)

重三「ヤ、そちゃ女房の高尾じゃないか」
霊 「うらめしや、お前は島田重三さん、とりかわしたる反魂香、仇にくべてくださんすな、香の別れが縁の別れ……」
重三「さァ、くべまいと思えども、そなたの顔がみたさゆえ、、、(略)」

(ドロドロの太鼓、しだいに消えていく)

重三「どうだ、八五郎殿、ごらんになったか」
八 「ごらんになりましたよ。へーえ、いい女だねえ、高尾太夫ってのは。おどろきましたね」

古典落語大系4巻「反魂香

山菜とまちがえて食べると幻覚症状をおこし、走りまわることからこの名がついた。

毒・害

薬・効

毒はないらしい

この樹の根をとって水で煮、汁を取って練る。漆のようになって香ができあがる(=反魂香) およそ疫死する者があればそれを豆粒くらい焼いて燻らせば死者は生き返る。中国は漢の武帝の時、長安でおきた疫病のまん延にこの『反魂香』が役にたったらしい。

『本草綱目』より