ナメクジ』とは、わしのことじゃ。


明るい世間の目を避け、じっとりひっそり暗く静かに物の陰でマイペースに生きる、いわば世捨て人のわしじゃ。

『るうさん』や、なぜにわしをそのように目のカタキになさる? ほかの虫には薬剤をいっさい使わないのに、わしにだけは“ナメトックス”攻撃か? やれやれ。

これからの梅雨時期は、わしにとってのもっとも美しい季節じゃのおお!

たしかに、わしの姿は人間の生理的嫌悪感をひきおこすものであるらしいがの。

わしの這った跡がおきらいか?

しかし『るうさん』の娘さんはいうておったぞ。
「おかあさーん。キラキラしてとってもきれいー!」

息子さんも小さいときにいっておったではないか。
「おかあさん、塩辛ってなめくじのお料理?」

子供は素直でおもしろいのぉ。ふおっほっほっほっほ! わしは子供には人気者なのじゃ。

まあのぉ、散歩して、美しい葉や花を鑑賞したあとはの、腹も減ろうから、少々失敬することはあろうがの。

なに? 少々ではないと? それは見解の相違というものじゃ。

ローズマリーは他の虫達は敬遠なさるらしいが、この年寄りにはなかなか乙な味に思えるがの。葉の先がこのようにちょっとしなびて欠けているのはわしがいただいたあとじゃ。

こんなにたくさんあるのじゃから、少しくらいいただいてもかまわんじゃろが!

、、、もっとも株が小さいときはわしのせいで、全体が枯れてしまうこともあろうし、いただいた跡は多少きたならしいが、、ま、それはそれで、、、。

他には、そうじゃなあ、しおれかけた花などがよいか。花が終わってもそのままにしておいていただけると実にありがたい。もっともわしはどんな花でも葉でもありがたく食べますぞ。 それから、わしが散歩をしやすいように、ハーブには夕方に水やりをしてくれるようにな。

 わしの大の好物は、アルコールでの。 ビールなぞとくに目が無い。いやいや、なにも高級な酒でなくてもよいよい。くさりかけのバナナでもメロンでもかまわないのだよ。ほっほっほ。

ある晩、またのたりくたりと散歩をしながらあちこちつまみ食いをしておったら、な〜んともかぐわしい香り。これは“キリンの1番搾り”ではないかっ! もう矢も盾もたまらず、その匂いの元へ突進した。

んしょ、んしょ、んしょ。年寄りにはこの缶を登るのはきついのぉ。しかし、ビールを呑みたい一心!

やっと辿りついた! が、、。 *ぽちゃん*
なになに、酒に溺れ死ぬのなれば本望じゃ。ういぃ〜。

わしを“やまたのおろち”なみに扱うとは、『るうさん』もなかなか粋じゃの。
しかしそれにしても、次の朝、わしの仲間大勢の死骸を目にして、驚きうろたえ鳥肌たててていたのは傑作だったのぉ。ふわっはっはっは。





【ちょっとご注意】

るう「げげ、なんじゃこいつ。ナメクジ爺さんの孫か? ええい、つぶしたれー!」

きゃー、まってーつぶさないでぇぇぇー。ぼくナメクジ爺さんの親戚じゃないんだってばー。
ぼくのおかあちゃまは、ヒラタアブ。アブラムシを食べるんだよ。
よく花の近くでホバリングをしているお腹が縞々のアブのようなハエのような虫がいるでしょ、それがぼくのおかあちゃま。美人でしょ?
人を、ちがった、虫を外見で判断しちゃいけないんだってばー。




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