
メキシコとタイ
通貨危機の教訓-3
東京大学教授、伊藤隆敏、日経新聞、2003/06/20
- 1994年12月20日、ドルに対する固定性をとっていたメキシコは、通貨ペソを約15%切り下げた。
- 切り下げが予想外だった分、市場の驚きは大きく、外国への急激な資本流出を招いた。
- 2日後には、早くも新レベルを維持できなくなって変動制に移行した。
- 1週間でペソの価値は半減した。
- 同国は危機発生前の10ヶ月間、外貨準備高を発表せず、慌てた投資家が推計してみると、ドルの価値に連動している政府短期証券を償還するだけの外貨準備がなさそうだということが、わかった。
- 外貨準備が枯渇する前にペソ資産を売ってドルに換金しようという動きが一気に広がった。
- 92〜93年に、メキシコの経常収支赤字はGDP (国内総生産)の8%に達していたが、それを上回る資本流入があったので外貨準備は逆に増えていた。
- ところが、94年初めから資本流入が減り始め、外貨準備も減少に転じていたのである。
- 同国の危機の原因は、ドル連動(ペッグ)制でドル高時に自国通貨も高くなって貿易赤字が拡大したうえ、財政赤字の多くを逃げ足の早い外国投資家の資金で穴埋めしていたことだ。
- 97年夏にはタイで通貨危機が起きた。
- タイもドルペッグ制をとり、94〜96年に経常収支赤字がGDP比で8%に膨らんだが、それを上回る資本流入があった。
- 経済成長率は8%を超え、資産価格も上がっていた。
- ところが、96年後半に輸出の伸びが急低下し、資産価格も下落して、ドルペッグ制の維持可能性に疑問を持つ投資家が増えてきた。
- やがて、ヘッジファンドなどの投機筋がタイ通貨バーツの先物売りを大規模に仕掛けたことから、中央銀行のドル売り介入も歯が立たず、外貨準備を実質的に失って変動制への移行を余儀なくされた。
- IMF (国際通貨基金)のタイ支援は決まったが、危機はその後、アジア全体に広がった。
- メキシコで政府が外国から多く借金をしたのに対し、タイでは民間の銀行の対外債務が多かった点で両者は異なるが、民間銀行が債務超過に陥ると、金融システムの崩壊を防ぐために政府が救済する。
- それが、タイでも起きた。
- そして銀行部門のバランスシートの資産にぜい弱な現地通貨建ての長期債権があり、負債にドル建ての短期債務があると、ドル建て債務の返済能力への不信から急激に資本が流出する新型(21世紀型という)の通貨危機の可能性が高まる。
- これがタイの危機から得られた教訓だった。