ポールはハンナズショップ社、ボカ店の店長。
店の売上げが伸びず、「半額」にしても売れない。
地域10店舗で8位にまで落ちてしまった。
ベッドシーツ、羽毛布団、バスルーム用品などを扱っている。(ホームテキスタイル/家庭用繊維)。
店内には常に様々な商品が取り揃えられ、これらを美しく見せるためにことさら努力もしてきた。
顧客のニーズにいつでも応えられるよう、店内のディスプレーを店頭ウインドウの倍の頻度で取り替えることも始めた。
値段も手ごろだし、特典もいろいろと用意している。
しかし、それでも売上げはなかなか伸びない。
客が何を買うのか、どんな商品を用意しておいたらいいのか・・・それを教えてくれる魔法のクリスタルボール(水晶玉)があったら、どんなに助かることだろう。
売上げと在庫・・・この2つの対立は、魔法のクリスタルボールのみが解決し得るジレンマだ。
深刻な問題が発生した。
ボカ店の地下倉庫の天井で水道管が破裂して、倉庫が水浸しになった。
とりあえず、倉庫にあった、商品は全て店に移動した。
倉庫には、この店で売っている2,000種類以上のSKU(Stock-keeping units)を並べて保管しておく業務用の棚がいくつか並んでいる。
( SKU:在庫保管単位。アイテムは商品の種類を指すが、SKUは同じ商品でも、サイズ、色、分量、パッケージの違いや値段の違いなど、アイテムより小さい単位で分類される)
水道管の修理には6~7週間かかる。
とりあえず、倉庫から運び上げた商品在庫は店に置いたまま、明日、店をあけるにはどこか商品を置く別の場所を確保しなければならない。
ポールは近くの倉庫を調べて電話をかけ始めた。
店を開けるためには、どうやら高額な料金を払って倉庫を確保しなければなさそうだった。
地域倉庫の責任者ロジャーが、ボカ店の商品在庫を預かってくれることになった。
ポールは店の各売場主任に、地域倉庫に送り返しても支障のない在庫リストをまとめるように指示した。
ホールは各売場主任6人とフロアマネジャーのテッドと会議をした。
みんながまとめた地域倉庫に送り返す在庫のリスト。
それは予想に反し、ばかばかしいほど短いリストだった。
これでは、店が在庫商品であふれたままである。
主任は「みんな必要な商品です。送り返すわけにはいきません。商品がなければ何を売れというんですか」と詰め寄る。
ポールは言った。
「地域倉庫からは毎日、こっちが必要な分だけ送ってもらえる。店に置くのは、いますぐ売れそうな商品の在庫だけでいい」。
会議の結果、SKUごとに1日の平均の売上げの20倍相当の在庫を店に置くことにした。
地域倉庫のロジャーは、今までのようにカートン(箱)単位ではなく、在庫1個ずつ、店に送ってくれることにしてくれた。
1日の平均売上げの20倍相当の在庫を店に置くというルールに従い、今、店に陳列してある商品で、地域倉庫に送るのも出てきた。
その結果、店内の商品棚の半分が空になった。
ポールと売場主任たちとの会議。
テーマは、地域倉庫に毎日届けてもらうSKUの量の決め方。
各主任たちに任せたところ、とても大量の発注をしてしまったらである。
発注は今日売れた分だけにすれば良いことが分かった。
これは手作業で集計しなくても、コンピューターで集計すれば、毎日どれだけ売れたかは簡単にリストをつくることができる。
現在、売り切れで入荷していない商品は追加オーダーで20日分、オーダーすることにした。
ある日、経理部からポールに電話があった。
「今日、ポールの店が1番になった」という知らせだった。
振り返ってみると、売上げは増えた。
店の中の在庫がずいぶん減った。
ディスプレーがよくなった。
お客さんの数は増えていないが、売上げは20~30%も増えている。
つまり、お客さん1人ひとりの買っていく金額が平均して増えた。
不思議だが品切れは減っている。
それも大幅に。
品切れ商品は500~600。
2000あるSKUの4分の1くらいである。
品切れになっているSKUは、おそらく人気のある商品だ。
ポールはコンピュータシステムを使って、2月の品切れリストを調べてみた。
すると品切れしたSKUが、何と29%から11%へと激減したことがわかった。
品切れが減ったのが、店の売上げ増の最大の理由だった。
地域倉庫責任者ロジャーに連絡して確認した。
ボール「うちの店に送ってくれている商品だけど、もしかしたら、ボカ店の在庫だけからじゃなくて、地域倉庫の在庫からも送ってくれているのかい?」
ロジャー「ああ、もちろん。自分たちで用意している特注リストだろ?」
ボール「特注リスト?」
ロジャー「君の店から送られてくるオーダーリストに、もう何週間も品切れが続いている商品が含まれている。それは特注と考えているんだ」。
ボール「でも、その商品はどこにあったんだい?」
ロジャー「会社のシステムでは箱単位でしか、商品を移動できない」「それで、地域倉庫には半端な在庫がいつも残っている」「ボカ店からの個単位のオーダーには、十分対応できる数量があるので、そこから送っている」
ボール「ありがとう。おかげで売上げが25%以上も伸びた」。
今回の成功の原因は、コンピューターからの自動発注に加え、長いこと品切れになっていた商品をオーダーに追加したことだった。
今回は、売上げは増えたが経費はその前月と変わらなかった。
売り上げアップのための割り引きはしながったし、広告も出さなかった。
それに、残業をしてもらうこともなかった。
つまり、店の間接費は1月と変わらなかった。
間接費をまったく増やすことなく、売上げが28%も増えた。
2月の売上げで増えた部分のコストは仕入れコストだけだった。
仕入れのコストは、販売価格の半分くらいである。
ということは、売り上げ増加分の半分がそのまま利益になった。
その結果、ボカ店の利益率がチェーン全体のトップとなったわけだ。
「このやり方を地域全店に導入するにはどうしたらよいか」
当面の課題は、抱えている在庫を経理上、地域倉庫に移動することである。
ポールは上司と話し、承認を得た。
ボカ店の利益が大幅に増えたのは、品切れが減ったからだ。
そして品切れが減ったのは、ロジャーが地域倉庫に残っている半端な数の在庫から商品を送ってくれたからだ。
しかし今、その半端な数の在庫も底を突きはじめた。
そこで、他の地域倉庫から送ってもらうクロスシッピングをしてもらうことにした。
経理からの電話のやりとりで判明したことがあった。
ボカ店の在庫を地域倉庫に移動したことにより、20日分の在庫でオペーレーションができることが分かった。
ということは、新規出店をする時も、今までよりもずっと少ない費用で出店ができるということが分かった。
見方を変えれば在庫の回転数が増えたと言える。(経営の視点では、投資収益率)。
20日分の在庫を持っているにもかかわらず、1日で売り切れてしまうSKUがあることが分かった。
つまり1日の販売量が予想よりもかなり多いというわけだ。
店に置いておく在庫の量を実際の販売量に合わせて細かく調整することで、在庫をもっと減らせる。
目標の在庫量の3分の1をリミットとする。在庫が目標量の3分の1を下回ったら「赤」とする。その状態が2週間続いたら、そのSKUは、在庫量を増やす。
毎日、1日の終わりの在庫が目標量の3分の2以上の場合を「青」とする。毎日、2週間続けて青信号かどうかをチェックする。そのSKUは補充しない。
店には空きスペースが出来た。
そのスペースに新しいSKUを置くことにした。
ポールは、会社全体のシステム自体を改善する方法は見つけていない。
システムの非効率な部分、つまり地域倉庫に残っている半端な在庫を利用して自分の店を改善する方法を見つけただけである。
地域倉庫では新たな取り組みを始めた。
地域の10店舗全部の在庫を「ミニ倉庫」と呼ぶスペース1ケ所に集める。
SKUごとに2週間分の在庫があれば、毎日売れた分を補充するには十分だ。
地域の全店長にボカ店のやり方を説明し、とりあえず2店舗が実施することになった。
その後全店が実施。
地域倉庫間のクロスシッピングで大きな問題が出始めた。
売上げが増えたので、地域倉庫で品切れを起こす商品がかなり増えてきた。
本社仕入れ担当のキャロラインがハンナズショップ社最大のサプライヤーとのミーティングをしていた。
ポール、ロジャーが他の地域倉庫から入手できないSKUを何とか早く調達できるように話をした。
サプライヤー担当者との話し合いで、毎週200セットずつコンスタントに送ってもらうことになった。
ところが、送料が3倍になってしまうとのこと。
そこで、他の商品も同じように毎週送ってもらうことで、送料の増加分がおさえられた。
地域間のクロスシッピングの根本の問題は、もともと商品が間違った場所にあることである。
倉庫には必要な商品だけ供給すればいいのに、不必要に商品を大量に倉庫に押し込んでいるからである。
そこで、会社にとって必要なのは中央倉庫である。
中央倉庫をつくれば、そこから各地の倉庫へ実際の消費量に基づいて在庫を配送できる。
「サプライヤーとのパートナーシップ」
3ヶ月前に染色布を買い、それをメーカーに置かせてもらう。
その布を使って、売れ筋商品を適時製造し、中央倉庫に送る。
生地が余ったとしても、使い道はいくらでもある。
しかし、中央倉庫の在庫ももちすぎてはだめである。
それには、サプライヤーが納期を守ることが前提条件となる。
サプライヤーとはパートナーになってもらわねばならない。
サプライヤーにはボーナスを払ったらどうだろうか。
例えば、仕入れた商品の在庫回転数に比例させるとか、納期順守率も大切になる。
チェーン店を拡大させるには、狭いエリアに一度に店をいくつもオープンさせる。
そしてエリアから競合店を一掃してしまう。
さらにブランドをフランチャイズする。
フランチャイズだったら、手許資金を使わずにチェーン全体をコントロールし続けることができる。
