鎌倉プロバスクラブの卓話

憲法と原子力

2015/6/12

明治憲法は天皇主権を明記し、時の権力者が天皇を担いで、好き勝手できるようにデザインされていた。この欠陥憲法を作ったのは長州藩の下級武士だ。彼らは 松陰の教えに従い満州、朝鮮半島、台湾、ルソンまで支配下の収める膨張主義、侵略主義者となった。太平洋戦争はこの憲法がもたらした必然の結果と言っても よい。

明治憲法が戦争の原因となったとし、米国は新憲法を与えた。新憲法は国民主権と市民の自由と権利を守るという欧米の憲法の思想を受け継ぐものであった。日 本の暴走に懲りた米国は日本の交戦権を放棄させる条項を書き加え、日本軍を武装解除した。そして安全保障条約を締結し、米国が守ることにした。こうして日 米安保条約が日本国憲法の上位にあることになった。これが沖縄住民の頭越しに軍事基地が沖縄に座り続け、脱原発できない原因となっている。

しかし戦後70年はソ連の崩壊で世界の警察官になった米国の国力が衰える過程でもあった。こうして米国は9条の束縛のある丸腰の日本を守るという仕組みの維持が困難となった。

生物に外敵の侵入にそなえて免疫機能があるように警察機能が備わっていない国際関係では傭兵(米軍)を雇うか自衛軍が必用である事はトマス・ホッブスを待 つまでもなく真実。隣国中国は経済発展し、軍事予算が膨大に膨れ上がり、国際海域の南沙諸島を埋め立て不沈空母化しつつある。核抑止力に必須の潜水艦発射 弾道ミサイル(SLBM)という兵器システムを有効ならしめるには米国一国では最早不可能とさとった。米国は日本の自衛隊の対潜水艦探査能力がほしいと切 望。しかしそのためには憲法9条を改訂しなければならない。ただ過去に免疫機構たる権力の暴走(膠原病のような自己免疫疾患)の経験を持つ市民はフリーハ ンドを権力側に与えることはできないと感じている。特に国防を理由に人権を骨抜きにして統治者の権力を強化したいという衝動を持つ権力機構が存在するかぎ り、市民はしっかり紐を引き締めていて簡単には改憲を支持できない。侵入されて支払う犠牲の方が、自国の権力の暴走より被害は少ないものだと市民は感じて いるのだ。

潜水艦発射弾道ミサイルそのものは通常兵器だ。核兵器保有国はすべてその原料確保のために原発を保有している。万一核兵器攻撃を受けたら、攻撃国の原発全 てを破壊し、炉内にある4トンの核分裂生成物を撒き散らすことが可能だ。原発の使用済みプールという事前配備型ダーティーボムを破壊するという報復をもっ て核抑止力とすることが可能となる。原爆は大勢の市民は殺せるが、汚染で国土を不毛の地にするという意味では1kgの核分裂物質を撒き散らすだけだからそ の差は歴然としている。この使用済み燃料を汚い原爆として使う戦略のためには日本はまず脱原発し、使用済み核燃料は空爆に耐える地下に保管しておかねばな らない。

ドイツはユーロ圏の盟主として西ヨーロッパの市場と東欧の安い労働力を駆使して経済力をつけている。そのドイツが早々に脱原発を決めた真意はここにある。アメリカが日本の脱原発に賛同しないのは実にこのことに米国が気がついたからかもしれない。

ガラス製品をコンクリートに落とした時、大小のかけらに割れる。そのかけらの大きさを両対数目盛の横軸にとり、かけらの数を縦軸にプロットすると直線とな る。これは「べき分布」(パレート分布)といわれ、地震の頻度と規模、戦争の頻度と死者の数も、富の分布も原発事故もガラスと同じことになる。原発を再稼 働すれば事故は必ず起こる。その規模は誰もわからない、チェルノブイリ級も否定できない。国民の意識が憲法改定に結集されるのは次の原発事故の時だろう か?

June 14, 2015


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