講演要旨

ポスト・アトミック・エージ

青木一三

化石燃料の先が見え、持続性ある発展という命題にどう対処しようかという世紀の変わり目に遭遇した福島第一原発事故は日本のみならず世界の人々に今後どうしたらよいかという疑問をつきつけている。

論者は過去1年、福島事故のメカニズムを詳細に解析し、世界に存在する各種原子炉の事故解析をしてどこがいけなかったのか解明した。そしてBWR炉の構造 に放射能封じ込めという深層防護に破たんがあり、それは基本構造上の欠陥により生起されているため、廃炉しか手はないことを解説する。PWRはスリーマイ ル島事故のようにメルトダウンしても放射能汚染は福島より6桁小さい。とはいえ使用済み燃料の廃棄場所確保問題、テロ対策、戦時の敵攻撃に対する脆弱性な どによりすでに原子力の維持に強いブレーキになっている。高速増殖炉、トリウム炉、核融合炉などすべて強い放射性廃棄物を発生するため、この狭い地球上に そのような廃棄物の捨て場を確保することはすでに困難であることは明らかになっており、世界のいずれの国でも先送りしてごまかしているにすぎない。すなわ ちすべての原子力技術に将来はないように見える。

温暖化が人為的なものであるという説が流布して温暖化防止のための化石燃料消費責任というテーマもマスコミをにぎわし、国際的な政治アジェンダに取り上げ られた。こうした人為的温暖化防止のためにも原子力は有効との説が喧伝されていることも混乱に拍車をかけている。しかしこの人為的温暖化説は自然現象を化 石燃料消費活動と短絡的に結びつけた勘違いということもありうるのである。現時点ではいわば天動説として君臨しているが、研究が進むにしたがい地動説(自 然現象説)にとってかわられる可能性があることを説く。

石油価格上昇にともない、フラクチャリング採掘技術の開発で石油価格の上昇はとまり、ガス価格は下落している。人為的温暖化説が偉大な勘違いであるなら、 安価な石炭を開発して電力用に使わない手はない。ドイツは脱原発して再生可能エネルギー開発している優等生との説がマスコミをにぎわすが、いまだに50% 以上の電力は自国産の石炭に依存しているのである。

とはいえ今世紀末にはその化石燃料も残り少なくなり価格は上昇するだろう。資源はフラクタル構造で価格が上昇すれば、可採埋蔵量は増す。そうこうするうち に再生可能エネルギーが技術革新や多量生産により安くなり、化石燃料にとって代わる時がかならずくる。こうして分散発電的要素の大きい再生可能エネルギー が普及すれば、集中発電して配電するという伝統的な電力産業のビジネスモデルは崩壊する可能性があるのである。

すなわち頭と知恵をめぐらすことができる国と組織と個人が勝者になるのだ。

July 27, 2012


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