ミラーディンギーの自作

1975年頃、テームス河畔で見た覚えのあるヨットを江ノ島のヨットハーバーでみつけた。中国のジャンク船のようにバウカットされた特異な形をしている。オーナーに聞くと日本でも組み立てキットが買えるという。多摩川河畔にある錦産業株式会社という会社に出かけて注文した。錦産業は梱包会社であるが、木工技術を生かして副業としてミラーディンギーの自作キットを売り出したとのこと。程なく、プレカットしたマリーン合板 、セール、接着剤などを梱包したセット一式が当時の横浜の自宅に配達された。金具などはジャックホルトの名前が刻印されている。

プレカットしたマリーン合板

週末に組み立てたため、完成に半年を費やした。組み立て小屋もないため、居間に半完成品が半年居候したことになる。客人とはこの木製品をテーブルとして面談することとなった。

完成まじかの一服

ミラーディンギーと言われるゆえんは、大衆紙デイリーミラーが自作できるディンギーを公募したところ、カッデット級デザイナーのジャックホルト氏が、あらかじめ型紙に合わせてプレカットした合板の隅に錐で穴を穿ち、ここに太い銅線を通しで編み上げてハルを作る古式工法に似たステッチアンドグルー工法採用したユニークな設計で応募し、採用されたためと聞いている。この工法はバリー・バックネル氏によって考案されたものである。銅線では水が漏れるのでガラス繊維製テープとポリエステル樹脂で接合部を固定している。木部を水から守るためにウレタン樹脂を塗布して仕上げる設計である。

ガラス繊維製テープを接合部に起き、ポリエステル樹脂となるモノマー液に重合開始剤を極少量添加して撹拌し、この液を塗ってテープと木部に浸透させた後、重合によりこれを固定するのであるが、室温と添加量により固化時間が変化するので、作業時間と室温を勘案しながら、添加量を微調整するのが難しかったことを覚えている。

作業終了後、ポリエステル樹脂で汚れた手はアセトンで洗浄するときれいにとれるのだが、無知のため、アセトンを使いすぎ、皮膚に浸透させて一晩中激痛に苦しんだこともあった。


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